ホットココア


冬島の海域に入って、急激に冷え込み始めた夜の外気。
風通し抜群の見張り台はそれはもうとてつもなく寒くって、持ち寄ったモコモコ毛布を必死に身体へと巻きつける。けれど、それでも暖が足りなくて最後の手段としてギュウっと小さく身を縮こまらせた。
うううっ、極寒…!


「さ、寒い…。」
「だろうよ」
「…う、え?」


独り言に返事が返ってきたことに驚いて、膝に埋めていた顔を急いで上げる。
するとなにか柔らかいものが顔面めがけて投げつけられて、ぶへっと間抜けな声が漏れてしまった。


「あっ、毛布…。」
「それ使っとけよ」
「た、隊長ー!」
「ったくお前は毎回軽装すぎんだよ」


呆れ半分に言うと、軽く溜息をついてピンクのマグカップを差し出される。
ホカホカと湯気が立ち昇るところを見ると、何か温かい飲みものが入っているんだろう。


「サッチがなまえに、ってよ」
「わたしに?」
「お前に。ほら、わかったら冷める前にさっさと受け取れ」
「あ、うん!」


寒さで感覚を失いかけている両手を伸ばしカップを受け取れば、中には何やら黒っぽい液体が入っている。暗いからよくわからないけど、まさかこれって…!


「わたしコーヒー飲めない…。」
「コーヒーじゃねェよ」
「でも、」
「お前の鼻は飾りか!ちゃんと匂い確かめてみろって」
「うっ、隊長がそう言うなら…。」


言われた通りカップへと鼻を近づけてみる。
すると、コーヒーとは遠くかけ離れた甘い甘い香りが鼻先を擽った。


「わっ!これココアだ!」


わたしあったかいココア大好き!
そう笑顔で告げて、冷めないうちにと少し口に含めばふわっと甘くて優しい味がした。


「このココアすっごく美味しい…。いつもわたしが作るのと全然味が違う!」
「…へえ」
「あ、隊長も飲む?」
「いや、いい」


そう言って隣にドカっと腰を下ろす隊長。
見張り台は中々に狭いため2人入ると距離が近くてものすごくドキドキする。
そしてそれ以前にカップを渡したらすぐ部屋に戻ってしまうものだと思ってたから正直この展開には驚きを隠せなかった。


「何マヌケな顔してんだよ?」
「ううん!なんでもない!」


せっかく隣に居てくれているのに、ここで余計なことを言ったらすべてが台無しになること確実…!
そう賢明な判断を下し、先程の疑問を綺麗さっぱりなかったことにして笑顔を向ける。

すると、大して興味なさげに返事をした隊長がわたしの包まっていた毛布をペラリと剥がし、空いたスペースへと入り込んできた。

所謂、毛布を半分こ状態。


「(なっ、ななななんだろう!)」


そんなに密着されたらわたし狼になっちゃうよ…!なんて暴れ狂う心臓を鎮めながら先程よりも距離が近づいた隊長の顔を見上げてみる。


「なんだ?」
「いや、あの、隊長のせいでムラムラしてきちゃったんだけどどうしよう!」
「は?」
「だ、だってこんな風に密着されたら…!」
「ち、違ェ!俺はそーいうつもりじゃなくて!」


じゃあ一体どんなつもりなのマイダーリン!と、このオイシイ状況に乗っかって思い切り隊長に抱きついてみる。
するとーー、


「誰がダーリンだ、コラ」
「え、たいちょ、ええっ?!」


たった今隊長の身体に巻き付けた両腕は本人によってあっさりと解かれてしまった。が、しかし。冷え切っていた左手をその大きな手によって包み込まれたものだから驚きを隠せない。

だってつまり、今隊長と手を繋いでるんだよ…?

たったそれだけかって思われるかもしれないけど、わたしにしてみたらかなりの大事件である。
酔ってるわけでもないのにあの隊長が自主的にわたしと接触するなんて…!
幸せだけどなんだか恥ずかしい!

うひゃー!とほっぺを赤く染めてニヤニヤしていると、それを見ていた隊長に反対の手で軽くおでこを叩かれてしまった。いでっ。


「顔が卑猥になってんぞ」
「それ悪口だよ隊長!」
「うるせェ!事実なんだから仕方ねェだろ」
「でも、それもこれも隊長がこんな嬉しいことするからいけないんじゃん…。」


そう呟いて繋がれた手をぎゅっと握りしめると、なんともわかりやすく言葉を詰まらせた隊長。
同時に耳を赤く染めたかと思えば、ふいっと逆の方向に顔を背けられてしまったから少し残念。

こっち向かないかなー?なんて繋がれた手に力を入れたり抜いたりを繰り返していると、そこでようやく隊長がぽつりぽつりと話を始めたので素直に耳を傾ける。


「さっき下歩いてたらなまえの可愛くねェくしゃみが聞こえてきて、」
「ちょ、可愛くないって…!」
「そんで様子見に来てみれば案の定アホみたいに薄着だもんなー。バカかお前」
「なっ…!」
「今度からはしっかり防寒しろよ。お前が風邪ひくと2番隊全域に広がるんだからな!」
「う…、はい…。」


よくわからないけど、突然始まった悪口とお説教に拍子抜けしてしまった。
ちょっとちょっと、隊長。
せっかくさっきまで甘い雰囲気になりかけてたのに急に現実に引き戻されたんですけど…!

とまあ肩を落としながらもひたすら謝罪の言葉を並べていると、不意に隊長が「だから今日だけ!」と声を大きくするので肩が跳ねた。
な、なんだろう…?


「今日だけ…、何?」
「今日だけ俺が助けてやる」
「んんっ?」


どういうこと?隊長の言ってることがよくわからなくて小さく首を傾げる。
すると、握られていた手をぐいっと引かれて見事に隊長の元へとダイブしてしまった。

「えっ…!」

あまりの急展開に身体も思考も一時停止していると、ふと頭上から楽しそうな声が降ってくる。


「暖けェだろ?」
「っ、!」
「今日は特別に俺があっためてやるよ」


いつもの太陽みたいな笑顔ではなく、どこか色気を帯びた大人ぽい笑みを向けられて、きっと今わたしの顔は真っ赤に染まっているのだと思う。

ちょっともうね!このまま一晩過ごしたら100%朝方には顔面鼻血まみれになってる自信があるんですけどどうしましょうか…!


「あーもう!隊長ラブ!好き!」
「………」
「好き好き大好、熱!ちょ、隊長体温高すぎる!熱い…!」
「お、お前が変なこと言うのが悪ィんだろーが!」
「変なことって…!酷い!でも幸せ!むふ!」



(あっ、サッチ隊長!昨日はココアありがとう!すっごい美味しかったよー!)
(あー、実はあのココア俺が作ったんじゃなくてエースが自分で、)
(おいサッチ!余計なこと言うな!)
(…わ、わわわ!また幸せ鼻血が出そうだよ隊長ー!)
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ちょっと隊長を優しくしすぎた感!こんな甘いことするなんてなんか違う気が…。(失礼)
まあたまにはええんじゃなかろうか( ´ ` )
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