スパルタ兄貴’s

人間誰しも食べ物の好き嫌いくらいあると思う。
当然、わたしにだってそれはある。
あの触感と独特の風味はどうやっても受け入れることができないのだ。


「キノコも食え!残すな!」
「ほんっっとそれだけは勘弁して!」
「好き嫌いすんじゃねェ!」


怒鳴りながらそれが刺さったフォークを突きつけてくる隊長は本当に鬼畜だと思う。
小さい頃からキノコが嫌いで、それだけは克服できずに今まで生きてきたのだ。それを突然食えだなんて言われても答えはノーに決まってる。

反抗してぷいと顔を背けるも、反対側でマルコ隊長が同じようにキノコを差し出してくるからたまったもんじゃない…!


「ほら」
「嫌なもんは嫌!」
「駄目だ食えよい」
「んぐ!」


嫌だ嫌だと反論してる合間にも無理矢理それを捩じ込もうとしてくるので咄嗟に口を閉じる。

人間誰しも好き嫌いがあるなんて言ったけど、このふたりは例外中の例外で本当になんでもウェルカムなのである。だからわたしの気持ちがわからないんだよ!と叫ぶも、「あァ、わかんねェ」「理解できねェよい」なんてサラっと返されるから歯が立たない。


「ほら、口開けろよ」
「さっさとしねーと無理矢理入れるよい」
「なまえー」
「…頑なだな」


当たり前だよ!ここで拒まなきゃ後で苦しむのは自分だもん!
先程同様口をへの字に結んでひたすら二人を威嚇する。そんな中マルコ隊長が何やら耳打ちをし始めたかと思えば、それを聞いていた隊長の耳がほんのりと赤く染まった。


「ハァ?!なんで俺が…!」
「いいからやれよい」


な、何を言ったんだろうマルコ隊長…?
不思議に思いながらその様子を眺めていると、何かを決心したらしい隊長がぐるりとこちらを向いた。

そして、あろうことかそのままジリジリとゆっくり迫り寄られて……って、なになにこの幸せすぎるシチュエーション!どうしちゃったの隊長!

「………なまえ」
「?」

色気ムンムンな声色で囁かれて思わず返事をしそうになったけれど、なんとか口は開かず首を傾げて先を促す。今のわたしは警戒心MAXだからね!これくらいじゃ口を開きませんとも…!

そんな余裕の笑みを浮かべた次の瞬間、後ろからガシっと両肩を固定されて一切の身動きが取れなくなってしまった。ま、マルコ隊長め…!

…まあ、だからと言って口を開かなければいい話。支障はないか、とそのまま隊長を見つめる。


「口、開けろって」
「………」
「入れさせろよ」
「………」
「なあ」


正直、隊長の声の低さとか台詞がエロく聞こえる件とか諸々と恥ずかしい。けど、幸せ…!
ついだらしのない笑みを浮かべれば隊長の額にぴきっと血管が浮かび上がったけれど、どうやら怒りを堪えたらしくとてつもなく真剣な眼差しで凝視してくる。

ひえぇ!こんな近距離に隊長のお顔が…!なんて一人取り乱してワタワタしていると、不意にくいっと顎を持ち上げられて。


「…なァ、なまえン中に入れてェ」
「ぶふっ!ちょ、今のは流石にエロいよ隊、」
「これをな!」
「んぐっ!」
「…おー、作戦成功だよい」
「っ、!」


や、やられたああああ!
さっきの耳打ちでこの作戦会議が行われていたのかと思うと、まんまとひっかかった自分が心底腹立だしい!そして口の中も最悪…!
やっぱり無理だよ!まずい!

そんな思いを胸に涙目で隊長コンビを睨みつけるけれど「まだあと5口分残ってる」なんてお皿を見せられて激しく絶望した。


「や、やだ!もういらない!」
「あ、逃げたぞ!」
「おいサッチ!なまえ捕まえてくれよい!」
「へいへい」
「ぎゃあああ!サッチ隊長のバカー!」



(オラ、もう諦めて食え)
(……隊長の口移しなら)
(ふざけんな!)
(もうこの際してやれよい、エース)
(マルコまで何言ってんだよ!あんな寒い台詞言っただけでも誉めてほしいくれェだ!)

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好き嫌いするヒロインを見兼ねて世話をやく隊長とマルコ隊長のお話でした。
なんか会話のとことか軽く下ネタでごめんなさい(;ω;`)
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