「うーっ！寒い寒い！」

今日は空気がとても冷える。
なので、少しでも防寒になればとタンスからパーカーを引っ張り出してきて着衣すれば、心なしか寒さが和らいだような気がした。

極めつけに大きめのフードをすっぽりと被れば防寒ファッションの完成だ。


「うん、ちょっとはマシになったかな！」


そうとなればお次は心の方を温めてもらうべく隊長探しの旅に出ようと思う。
んー、今はお昼前だから……。

・食堂で談笑してる
・部屋で筋トレしてる
・甲板で釣りをしてる

のどれかだと推理してみる。
隣の部屋から物音がしないから筋トレはないとして、だとしたら甲板かな？


＋　＋　＋


「（……あ、いた！）」


甲板に出て辺りを見渡すと、船首から釣り糸を垂らす隊長の後ろ姿を発見した。
いやあ、我ながらあっぱれ！
本当に当たっちゃったよね…！

緩む口元をそのままに船首へとよじ登り、ちゃっかり隣に腰を下す。すると、気付いた隊長が何やら小さな包みを手渡してくれて。
なんだろう、これ？……飴？


「くれるの？」
「おう。食ってみ？」
「う、うん！」


ありがと！とお礼を言って包み紙を開くと、中には丸い形をしたピンク色のチョコレート。
迷わず口に放り込めばふわりと広がる甘酸っぱいイチゴの風味についつい頬が緩んだ。


「うわあ…！これすっごい美味しい！」
「なっ！味もいろいろあるぞ！」


逆さまにしたテンガロンハットをずいっと差し出されたので中を覗き込めば、たった今絶賛したチョコレートが山のように入っていて思わず「わっ！」と驚きの声をだしてしまった。


「こ、こんなにいっぱいどうしたの？」
「ジョズがなまえと分けて食えって」
「えー！ジョズ隊長すてき！」
「いつもありがてェよな」
「うんうん！ほんと！」


わたしと隊長が無類のお菓子好きだと知ってか、事あるごとにスイーツを恵んでくれるジョズ隊長。前回はフルーツマフィンをくれたし、その前なんてマカロンだった。いやもう、マカロン貰った時は驚いたね！ジョズ隊長の圧倒的センスに大歓声をあげそうになった。むしろあげた。その結果、うるせえ！って隊長に小突かれたのだけど。


「…あっ！おっとっと！」


食べ進めていくうちに手いっぱいになった包み紙がふと指の隙間から零れ落ちる。
慌てて拾いあげたはいいけれど、ゴミ袋とか持ってないしどうしよう…。ていうか隊長はどうしてるのかな？まさか海に捨てるはずもないし…。

そう思って手元を見てみれば、さっきまで握りしめていた包み紙達が綺麗サッパリ消えているではありませんか。…えっ？あれ？！


「チョコの包み紙どこやったの？！」
「…さあ？」


短く答えた隊長はこっちに視線を向けるでもなく只々釣り糸を見つめているけれど、その横顔は誰が見てもわかるほど露骨にニヤけている。

こんな表情をするときは決まって何か悪巧みをしてる時！もしくは、既に悪戯を実行してる時！
咄嗟にそう判断して「なにかしたの？！」と詰め寄るも、人差し指で軽くデコを押し返されてしまった。


「別になんもしてねェよ」
「うそ！顔に出てるもん！」
「マジで？」
「まじで！」
「まァ、気にすんな」


へらりと楽しそうな笑顔を浮かべた隊長がテンガロンハットからチョコを数個ほど掴み取る。
包紙の行方がどうにも気掛かりだけれど、そんな笑顔を見せられてはもう何も言えないので黙って次のチョコを頂くことにした。


＋　＋　＋


「魚釣れないねー」
「さっきチビが掛かったけどな」
「えっ、いつ！」
「なまえが騒いでた時」
「騒いでた？………あぁ！」


ゴミの行方を問いつめてた時か！
だからあの時じっと釣り糸を見てたんだね！なんて一人納得しているわたしを他所に「餌つけ直すの忘れてた」と笑いながら新しく餌をつけ始める隊長。


…………って、あれ？


「い、今食べてたチョコの包み紙がもう消えてる！」
「…ぶはっ！はははは！お前面白ェな！」


ちょっ、なになになに！
なにがそんなに面白いの！
突然爆笑し始めた隊長に訳が分からず「なんなの！？」なんて騒いでいると、前方からブワっと強風が吹き荒れて。


「うわっ！寒い！」
「ちゃんと防寒して来ねェからだろ」
「してるじゃん！寒い時にはこのフードを被ると完璧防寒なのだよエースくん！わかるかね？」
「どんなキャラだよ」


そういえば甲板に出た頃からフードを脱いでたなあ…。
そう思い返して、たった今冷たい風によって蘇ってきた寒さを防寒するためご自慢のフードをパサっと被り直す。が、しかし。


「……あれ？なにこれ？なんかすっごいゴワゴワする」
「ぶふっ！」


さっき被った時には無かったはずの違和感に顔を顰めていると、横で見ていた隊長が勢いよく吹き出した。しかも今度はお腹を抱えるほど盛大に大笑いしている。


「……あっ、まさか！」


バサっとフードを取って袖から腕を抜く。
そのままトレーナーの前後をぐるっと回転させてゴワゴワの原因へと目をやれば、そこには察しの通りチョコの包み紙のオンパレード…！

なるほど、そういうトリックだったのか！なんて隊長を振り向くも、未だに笑いが収まらない様子でくつくつと肩を震わせていた。


「なまえ全然気づかねェんだもん！」
「こ、こんなのわかんないよ！」
「悪かったって…！」
「……まだ顔が笑ってる」


なんだか悔しくて隊長の髪の毛をわしゃわしゃと乱してみる。……だけどまあ、どれだけ髪の毛をボサボサにされたところでイケメンは変わらずイケメンのままだった。

「くっ…！」

どうあってもかっこ良さｍａｘの隊長に激しくキュンキュンしていると「許せよ」なんて口にチョコを押し込まれて。

あっ！これホワイトチョコ！美味しい！と絶賛しながら隊長の顔を見た。が、すぐにハッとした。
急いでフードを覗けば想像通り、新しい包み紙がちょこんと入っているではないか。

またしてもやられた…！


「た、隊長ー！」
「同じ手に引っ掛かるなよ、なまえ」
「んぐぐ…！」
「てかお前がそうやって一々かわいい反応すんのも悪ィんだって。からかいたくなるだろーが」
「えっ」


ちょ、今かわいいって…！
かわいいって言ったよね？！

隊長の発した言葉を理解するのと同時に、ぶわっと顔が赤くなるのがわかる。
当の本人は意識して言った訳ではないらしく、ケラケラと笑いながら餌のついた釣り糸を海に垂らしているのだけれど。


でもまあとりあえず…、


「幸せすぎる！」
「…はァ？お前Ｍなの？」
「え、違うよ！からかわれたことに対して喜んでるんじゃないから！」
「へえ？」



（あ！ジョズ隊長ー！おかげでいろいろ幸せだったよー！ありがとう！）
（お、おう？）
ｰｰｰｰｰ
一方的に隊長にいじられるヒロイン。
最後のかわいい発言は素でぽろっと口から零れちゃったんです、きっと＾＾