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「乗れよ、なまえ!」

蒸し暑い通学路をとぼとぼ帰宅していると、自転車で並走したエースが「ほら!」と親指で荷台を指差す。ま、まじでか…!
ここ最近で最もエースの株が上昇した瞬間だった。ありがとうエース!最高だよエース!そう褒めちぎれば満更でもなさそうな笑みを浮かべて鞄を自転車のカゴに入れてくれたりしてどこまでも至り尽くせりだ。

――が、しかし。


ニケツを初めて数分。
流れゆく景色を眺めていると、ふと疑問が浮かぶ。
あれ?こっちわたしの家の方じゃないな…。まさか「送ってやるよ」的なのじゃなかった?


「おーいエース」
「どーした?」
「今どこ向かってるの?」
「俺の家」
「…わたしの家じゃなくて?」
「ちげえよ俺ん家だって」

なんでだ。飄々と言ってのけるエースの背中をこつんと小突く。

「ちゃんと送ってくからDVD観よーぜ」
「DVD?」
「『視える』ってやつ」
「えっ、それ半年ぐらい前にやってたホラーものじゃないの?」
「そうそれ!」
「エース怖いのだめじゃん」


前に見たとき「ホラー映画なんて何が面白れーんだ!」って散々文句言ってたくせにどういう風の吹き回し?
それにわたしだってそこまでホラー好きってわけじゃないんだけど…なんてあんまり乗り気じゃない雰囲気を醸し出せば、ひょこっと振り返ったエースがなんとも悩まし気に声を掛けてくる。


「いいから一緒に観てくれって。なっ?」
「ちょっ!前!前見て!」
「頼む!」
「わ、わかった!DVD観るからエースは前見て!怖い!」
「よっしゃ!サンキュー、なまえ!」


……か、確信犯だ。
今のは絶対確信犯!
半ば無理矢理取り付けさせられた約束に不満はある。が、口に出しちゃったものは仕方がない。2度とあんな恐ろしい運転をされるのは御免なので、大人しく荷台で揺られていればあっという間に目的地であるエースの家へとたどり着いた。
相変わらず大きい家だ。実にうらやましい。


「ルフィは部活?」
「おー」


鍵を差し込みながら片手間に答えるエース。
会話に出たルフィとはエースの弟のことで、この家にはおじいちゃんとエースたち兄弟で3人暮らしをしているらしい。ちなみにふたりのご両親は仕事の都合で海外にいるんだとか。かっこいいなあ、すごいなあ海外…。


「ほら、早く入れよ」
「あっ、うん。おじゃまします」
「んで先に部屋行ってて」
「おけー」


素直に二階へと上がりエースの部屋に足を踏み入れれば、ミニテーブルの上に置かれたレンタルDVDが目に入る。おおっ、あれが例のホラー?
何気なくそのディスクを手にとる。そして気が付いた。……ああ、なるほど。ホラー嫌いのくせしてこの映画を見たがる理由はコレか。

『主演 MiMi』

最近エースが可愛いって騒いでたグラビアの子だ。まさか苦手なホラーを我慢して見るまでに気に入っていたとは初知りだけど、なんて考えていれば両手にお菓子とジュースを抱えたエースがやってきて「それセットしといて」だなんて命令を仰せつかった。しゃあない。その右手に持ってるキャラメルコーンに免じて従おう。あれ大好きなんだよね。ミルク味バージョン。


「…ってなんかディスク入ってるけど」
「ああ、出しといて」
「へいへい」
「…なんだよその目は」
「いやこれAVなのかなーとか思っ、」
「ちげーわ!普通の映画だっつの!」


言われて見てみればディスクに書かれたその題名に見覚えがあった。
ああっ!これ最近やってた人気SFファンタジーの初期作だ!気になってたけどなんだかんだまだ見たことなかったんだよね。……ええーっ。


「わたしこっちが見たい!」
「だめ。今日はこっち見んだよ」


そう言うと背後から覆いかぶさるようにして手元のディスクを奪い、わたし越しにデッキにセットし始めたエース。くそう、何が悲しくて待望の人気作よりもホラーを見なきゃいけないんだ…。そんな心境を隠すことなく不満げな視線を送る。すると気付いたエースに「そんな顔しても無駄ですー」なんて鼻を摘ままれた。ふがっ。


「ねえ、じゃあホラー終わったら見てもいい?」
「おー。わかったからこっち来い」


リモコンを操作するエースがベットの上から手招きするので、背もたれにする形でフローリングの上に座り込むと不思議そうに「は?そっち?」と聞かれる。こっちです。迷うことなくこっちに決まってますー。


「いいからほらほら!早く再生ー」
「あ、ちょっとタンマ」
「えっ!は?なんで電気消すの?」
「その方が雰囲気出るだろ」
「ホラー苦手な割にそーいうとこ拘るよね」
「うるせ!……よし、再生すんぞ」
「いいよー」


再生ボタンが押され画面が真っ暗になった瞬間、同じくして部屋の中も真っ暗になる。すると背後から小さく唾を飲む音が聞こえてきて。
……ほんとなんで電気消したんだろうこの強がりめ。


「なあ、なまえ。やっぱこっち来ねえ?」
「行きませんー。てか十分近いでしょ」
「えー…。」

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つづきますー!
ルフィとエースは兄弟設定でいきます( ´ ` )
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