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エースの言った「そういうことだから」に対して、いったいなんて返したんだっけ…。実際のところ、それなりに動揺してたみたいであんまりよく覚えていない。
「うん」だったか「わかった」だったか。ちっとも面白みのない返しをしたのは確かだけれど、当のエースは只々機嫌良さげに笑みを浮かべていた。


実験が終わり席に戻ってからも、態度や言動はまるっきしいつも通り。あまりにも変わりないその振る舞いに「もしやさっきのってノリで言っただけだった?」なんて在らぬ疑問まで浮かび始めて、1度その可能性を見出したらマジに捉えちゃってた自分がひたすら恥ずかしくなった。

いやだって、思い上がりも甚だしくない?アイタタタ〜じゃない?と、そこに気付いてからは意識することを一切やめた。むしろ「なんて悪質なジョーダンかましてくれてんだエースのやつ!」くらいに思っていたのだ。

だからこそ、夜に架かってきたこのライン通話を軽ーい気持ちでとれたのかもしれない。


「もしもし?」
『おー、起きてた?』
「起きてたよ。てか電話してくるなんて珍しいね」


何かあった?何気なく問いかければ、「ひま電」と答えたエースが小さく笑ったのが電話越しに伝わって来る。なるほど、ひま電か。
それならば受けて立とう!


『今なんかしてたか?』
「アプリやろうかなーってベッドに寝転がってたとこ」
『アプリ?』
「ねこあつめ」
『ぶふっ!え、ちょっと古くね?』
「いいんですー!ブームに乗り遅れたんですー!」


ケラケラと可笑しそうに笑うので少しツンとして言ってみた。で、特別にいいことを教えてやろう!


「ちなみに縁側によく遊びにくるキジトラの名前はエース!やーい、キジトラエース!」
『おい!せめてもうちょいレアねこに名付けろよ!』
「えー?キジトラだめ?」
『だめじゃねーけど』
「じゃあ次レアねこきたらエース2にする」
『俺だらけになるな』
「げっ!それはやだ」
『やだとか言うなよ!』


笑い混じりに軽口を叩き合う。
そこから話題がどんどんと移り変わり、やれテレビは何を見ただの、夜ご飯は何を食べただのthe雑談を交わすこと数十分ほど。

喉渇いたから飲み物取ってくる、とエースが電話口を離れたのでその隙にわたしもお茶で喉を潤す。話すだけでも結構喉乾くしね。水分補給は大事だ。


そんなこんなでベッドに戻ってゴロゴロしていると、どうやらエースが戻ってきたらしい。ガタガタと音が聞こえてきたかと思えば、次いで「ただいま!」と大きな声が響く。ちょっ、声でかい!音割れしてるし…!

咄嗟に耳元からスマホを遠ざける。すると、返答がないことを不審に思ったらしいエースがわあわあ騒ぎ始めたからたまったもんじゃない。慌てて音量ボタンを連打だ。静まれエース!


『おい、なまえ!寝た?なあ!おーい!』
「起きてるよ!聞こえてるから!ちょっと落ち着いて!」
『おっ!いたか!ただいま!』
「おかえりなさい!」
『うおっ!』


対抗するように声を張ってみたらエースの声が少し遠くなった。きっとスマホを離したんだろう。どうだ、少しはわたしの気持ちがわかったか…!


『てか電話だと声ちょっと変わるよな、なまえ』
「それ前にネネからも言われた!普段より低く聞こえるって」
『ほんのちょっとだけどな』
「でも元から低めなのにさらに低くなるとかやばくない?結構コンプレックス!」
『ンな言うほど低かねェと思うけど』
「女子界だと低い方だよ」
『そうか?俺は好きだぞ』
「好っ、?!」


ちょっともう好きだなんだを軽く言っちゃうのやめてよ!その辺のイケ女と違ってそういうの免疫ないんだって!慣れてないんだって!ほんと心臓に悪い…!
少し速まった心拍を落ち着けようと控えめに深呼吸を繰り返す。けれど「なあ、名前呼んで」なんてトーンを落としたエースの声に再び心臓がドクンと跳ねた。


「な、名前ってなんの」
『俺の』
「なんで、」
「いいから!ほら、早く呼べよ』
「っ、エース!エースエースエース!はい、これでいいですか!」
『ん、上出来』


フッとエースの声が柔らかくなった。顔は見えないけれどなんとなくにこにこと楽しそうに笑ってるような、そんな感じの声色。

……うん、ダメだ。
なんかハズい!むり!
ごめん、今日の通話はこれにて終わりってことで!


「よっし!じゃ、わたし寝るから!また明日!」
『え、もう寝んのかよ』
「寝る!超寝る!」
『もうちょい頑張れねーの?』
「ムリっす!」
『あー、まあそれならしゃあねえか…。』
「うん、ごめん!それでは!」
『なあ、なまえ』
「ん?」
『俺、おまえのこと本気だから』
「…え?」
「じゃ、おやすみ!また明日な」
「は、はい…。」 


プツリ、程なくして耳に届いた電子音に唖然とすること数秒。
頭に反復するエースの一言に、眠気なんて一気に吹っ飛んでいってしまった。


どうやら、実験の時に言っていたあの言葉はジョーダンでもなんでもなかったらしい。


どーしよう。
顔が、熱い。

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電話をテーマにしたら見事に会話文だらけになってしまいました(´・ω・`)
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