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次の授業は生物。
実験室で顕微鏡を使ってなんちゃらかんちゃらするらしく教室を移動していたわけだけれど、途中で忘れ物に気付いてひとり教室まで引き返してきた。

するとまあ。休み時間も後半に差し掛かり廊下を歩く生徒がちらほら減り始めた中、前方から歩いてくるド派手な赤髪のクラスメイトと目が合って。

瞬間、バッと手を広げて通せんぼの姿勢を取った。


「何してんだよ、退け」
「だってまたサボる気でしょ?まじでそろそろ日数足りなくなるよ」
「ンなヘマするわけねーだろ」
「えっ、なに。まさかちゃんと計算してサボってんの?意外と考えてるの?キッドのくせに?」


にやにやと茶化すように言うと「馬鹿にしてんのか」なんて目を細めたキッドにコメカミをぐぐっと指圧される。いででで!割れる!かち割れる…!


「いいからとりあえず実験来てって!」
「あァ?なんでだよ」
「今日の実験ペアでやるやつなの!でもって今回わたしの相方キッドだから!おわかり?」
「知るか」


コメカミに置かれていた手がスッと降ろされ、ちゃっかり横を抜けていこうとするキッド。なので慌ててシャツの裾を掴めば、眉間にシワを寄せてギロリと睨まれた。すっごい迫力だな。さすがです。


「ひとりでやるの寂しいし来てよ」
「ダルい」
「実験室、冷房ガンガンだよ」
「………」
「超涼しいよ」
「………」
「…来る?」
「チッ」


なんだ、キッドってば容易い。
めっちゃ扱いやすい…!ぷぷっ!


+ + +


そんなこんなでキッドを引き連れて実験室にたどり着くと、さっそく顕微鏡を使った実技が始まった。

まず手始めに細胞を見るためのプレート作りが命じられ、皆ペアの相手とわいわい話しながら作業を進めている。
あー、キッドが来てくれてほんとよかった。あやうく1人寂しく実験するはめになるとこだったよ。孤独感に苛まされるとこだった…!

そう考えると、キッドにはだいぶ感謝かもしれない。
………あっ、感謝といえば。


「この前はありがと」
「は?」
「ミカちゃん」
「…あァ、お前が足血まみれにしてた時か」
「そうそう!やる気になれば言葉に出さなくても思いが伝わるんだって感動させてもらったよホント!」
「だな。あの時のお前からはエースと2人きりにさせろってのがすげー伝わってきた」


薬品を1滴落とすべくスポイトを構えると、不敵に笑ったキッドがとんでもなく見当違いなことを言い出したんだけどどうしてやろうか。

1滴でいいところを5滴もかけちゃったよ!もれなく失敗だよ…!


「動揺してんじゃねーよ」
「は、はあ?全然わかりあえてなかったことに驚いてるだけだから!」
「大方当たってたろ」
「全然違うし!掠ってもない!」
「まあ俺もコンビニまでの足捕まえられたしな。気にすんなよ」
「だから違うって!」


ムキになればなるほど楽しそうに笑われて居た堪れない。悔しい!むかつく!

大体そんなこと言うならさ…!


「キッドこそミカちゃんとどーなの?」
「あァ?別にどうともねェよ」
「でも仲いいんでしょ?」
「1、2年でクラスが被っただけだっての」


言われてみれば2年生の時、隣のクラスの目立つグループにふたりがいた気がする。たしか派手な男女6〜7人でつるんでいて、常に全員の髪色がバラバラだったのが印象的だった。


「ほんとに何もないの?」
「ねェな。第一あいつみてーにグイグイしてる女はタイプじゃねえ」
「へえ?」


プルプルと震える手でスポイトを持ち、少しテキトーに返事を返す。や、だって次こそは1滴だけを落とさないとだから!
ここでミスったら100%終了時間までに終わらない…!

そう気を張っていたというのに、横から伸びてきた手によって軽々スポイトを奪われてしまった。
そして、如何にもダルそうにそれを構えたかと思えば「どっちかっていうとお前の方がいい」なんてさらりと言い放ち、きっかり1滴をプレートの上に落とすキッド。


「………。」
「あ?」


ぼけっと黙り込んでいると、怪訝そうな顔をしつつ乱雑にプレートを渡された。
いやまあ、今の発言に深い意味など一切ないことはわかってる。犬と猫どっち派〜?えー、どっちかっていうと猫かなー!的なノリだったからね。まさにそんな感じだった。

ただ、突然引き合いに出されるとビビるってなモンで一瞬フリーズしてしまったのがちょっと悔しい!ので、悔しいがてら「わっ!告られた!」なんて悪ノリしてみれば、これがまたタイミングよく通りかかったエースの耳に届いたようで「だれに!」と目を見開いて割り込んできた。


同時に、隣に座るキッドが緩ーく睨みをきかせてくる。


「どっちかっていうとって言ってんだろ」
「は?キッド?!お前がなまえに告ったの?」
「告ってねえ!」
「好きなのかよ?」
「うるっせェな!ちげーよ!そう言うてめェの方こそコイツに惚れてんじゃねーのか?!」
「あァ、そうだよ!よくわかったな!」
「………ゲホッ」



大方、イライラして勢いで言っただけだったんだと思う。
その証拠に、エースが口にしたまさかの返答を聞くや、目をまん丸くして挙句の果てに小さく咽込んだキッド。そして、その隣で似たり寄ったりなリアクションを取るオリジナリティ皆無のわたし。


そんなこんなでキッドと並んでアホ面を浮かべる中、ニッと笑顔を浮かべたエースに「そーいうことだから」なんて宣戦布告されて一体どう反応するのが正解なのか。


あまりの衝撃に、頭の中が一瞬ショートした。
…………ちょっ、まじ?

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授業中ですよ、授業中!(笑)まあワイワイしてる授業だったら周りもそこまで聞いてないものですよね。エースくんは聞かれたところで別に気にしなそうですけども(´・ω・`)
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