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結局、初号機は諦めた。
というのも、言うだけ言ってみたけど聞いた途端お店のお兄さんがそれはもう嫌そうな顔をしたので咄嗟に「第2希望はキティちゃんです」なんて口走っていたのだ。

一方でエースはかなりの妥協を考えたらしく「ぷよぷよ」をリクエストしていて、逆に「もうちょい難易度上げてもいいよ」と優しい笑顔を向けられていたのでちょっとずるいと思う。

で、その結果。わたしの手元にはキティちゃんが、そしてエースの口元にはアンパンマンの綿あめがある。って、タンマタンマ!もう食べ始めてるし!早い!


「ちょっとそのままストップ!」
「んむ、」
「うん!そのまま!」


齧り付いた姿勢のままピタッと動きを止めくれたエースに自分の持つキティちゃん綿あめを寄せ、慌ててスマホのシャッターボタンをタップする。ブレてたら嫌だから何回か連打してセルフ連写をしといた。……うん、これでよし!

「ありがと!もう食べていいよ」

言いながらスマホをしまう。
すると、今度はエースがカメラを起動したらしい。頭の欠けたアンパンマン綿あめがわたしの方へと寄せられて、反射的に笑顔を向けてみればカシャリとシャッター音が鳴った。

「おっ、さすが俺」
「どれどれ?」
「ほら、完璧だろ!」
「うわっ!すごい盛れてる!」

そんなふうにケラケラ笑いながら綿あめを口に入れようとすると、突風が吹いて下ろしていた髪がぶわりと舞う。ぎゃっ!やばい、綿あめに付く…!そう思って咄嗟に抑えようとするも、横から伸びてきたエースの掌に先手を取られた。

慣れない手つきで纏められた髪がスッと耳に掛けられ、つい言葉に詰まる。だ、だってこんなのエースのキャラじゃないじゃん…!違うじゃん!


「お前もネネみたいに髪纏めてくりゃよかったのに」
「えっ、あー、うん」
「てか欲言えば浴衣着てんのも見たかったし」
「それこそネネの浴衣姿を堪能すればいいんじゃ、」
「なまえのが見たかったんだっつーの」

不貞腐れたように言うエースからは一切の冗談ぽさも感じられず、それが余計に焦りを誘う。

「ちょっ、ストップ!どうしたの急に!なんか恥ずかしいんだけど…!」
「まあ甚平も可愛いけどよー」
「え、」


食べ終わった綿あめの割り箸を咥えてぶつくさ呟くエースに、思わず目が点になる。
また真顔で恥ずかしいこと言い出したんですけど…!
やめて!ほんとやめて!


「あああっ!そうだ、次タコ焼き行こ!タコ焼き!」
「は?タコ?」
「ほら!あっちにあるし!ねっ!」
「お、おう。別にいいけど」
「よし決まり!」

エースの着ている黒Tシャツの裾を引っ張り、今まで立ち止まっていた道の路肩から飛び出すと人波に向かってぐいぐい突き進んでいく。が、しかし。見兼ねたエースに再び手を掴まれ、タコ焼き屋さんまでの道を先導されて余計に照れくさい思いをすることになった。

だ、ダメだ…。今日はどう転んでもエースを意識しちゃうような気がする。

そーいう日なんだな、きっと…!


+ + +


そして神様とは意地悪なもので、タコ焼きを食べながらも再度それを痛感することになる。


「か、風!さすがに髪にソースは付けたくない…!」
「ゴムねーの?」
「ないですごめんなさい」


さっきみたいに耳にかけるだけでなく、手を当てたまま髪を抑えてくれるエースに謝罪すれば「タコ焼きに付いてた輪ゴムならあるぞ」と見せられたので黙って首を横に振る。それは嫌だ…!


「ていうかごめん。エースがタコ焼き持ってくれたらわたし自分で抑えるんで…。」
「いいって。抑えとくから食えよ」
「でも、」
「じゃあ礼はもらうから」


何を思いついたのか、楽しそうに笑うエースを前に首を傾げる。お、お礼ってなんだろう…?また何か変なことを言うんじゃあるまいな、なんて少し身構えながらも様子を伺う。すると、人差し指で2本の輪ゴムをくるくると回しながら「浴衣」と一言。


「浴衣?」
「来年は着ろよ」
「……はい?」
「だから、来年は浴衣着て一緒に回ってくれって」


そう言って笑みを深めるエースの頬がちょっとだけ赤く見えるのは其処彼処を照らす提灯の明かりのせいなのか、はたまた何なのか。

っていうより、なによりーー。


「来年も一緒に来てくれるの?」
「…来るに決まってんだろバカ」

パッと目を逸らし、居心地悪そうに襟足あたりを摩るエースがなんだか小さい子みたいで面白い。

「ほんとに?」
「おう」
「じゃあ着るよ」

あははと笑い混じりに答える。
ただし、これは条件付きだ。

「その代わり来年はエースも浴衣ね」
「はあ?俺はいいだろ別に!」
「よくない!着てね!」
「いや、」
「エースが着ないならわたしもやだ」
「あー、わかったっての!着ればいいんだろ!着れば!」
「よし!その言葉を忘れないよーに!」
「なまえこそ忘れんなよな!」
「うい〜」

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これが書けずに数日唸っておりました( ; ; )
とりあえず先に進むためにお祭り後半これでいきますー!すみません。゚(゚´ω`゚)゚。
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