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夕日が沈み、星が出始めた頃。
普段であれば帰宅する学生や社会人で溢れている駅前から商店街にかけての大通りが幾多もの提灯でほんのりと明るく照らされている。
さらに、道のサイドには隙間なく屋台が軒を連ねていて、その光景を見てるだけでも自然と気分が高ぶってくるから不思議だ。

やばい!やばいやばい!着いたばっかりなのに既に楽しすぎる…!


「早く行こうよネネ!」
「うん!何から食べるー?」
「なんか甘いの!」
「かき氷とか?」
「それだ!ナイスセンス!」


グッと親指を立てて褒め称えると「なまえまじテンション高いね〜」と楽しそうに笑われてしまった。明るい髪を緩くまとめ上げ、センスのいい浴衣に身を包むネネの笑顔はいつもの倍増しで可愛いと思う。動きやすさ重視で甚平をチョイスしたわたしとは大違いだ。女子力が雲泥の差!切ない…!


「かき氷ふたつくださーい」
「はいよ!味はどうする?」
「あたしイチゴ!なまえは?」
「んー、じゃあメロン!」
「あとブルーハワイとレモンも追加で!」


すぐ背後から聞こえてきた声にくるりと振り向くと、現地でテキトーに合流しようと約束していたエースが「全部で4つお願いします!」とわたし達の分までまとめてお金を払ってくれた。会って早々ありがとう!ゴチです!


「それにしてもこの人混みの中よくわかったね!まだ着いたことすら連絡してなかったのに…。」
「愛の力じゃないのー?」


イチゴ味を受け取ったネネが悪戯な笑みを浮かべて言う。するとお次はメロン味が完成したらしく、代わりに受け取ってくれたエースが「だったらどーする?」なんて照れ臭そうにカップを差し出してくるものだからビックリした。

いや、だって…。こういう冗談にノることは割とよくあるけどなんとなく表情がガチだったっていうかなんていうか。………か、考えすぎか。さすがにそれは自意識過剰すぎる。うん、ないない。


「エース!」
「あ、サボ」
「お前勝手に走っていくなよ!見失ったろ!」
「ほら」
「ん?」
「これサボの分な。ブルーハワイでよかったか?」
「よかったですありがとう」


たった一瞬。かき氷ですべてが帳消しになったらしい。素直にブルーハワイのかき氷を受け取り、パクリと口に含む姿がとても爽やか且つ微笑ましい。ていうより明らかにエースのこと探しついでにお祭りエンジョイしてきたよね?その証拠に手首には光る輪っかが付いてるし、左手にはヨーヨー風船が所持されている。いいなあ、わたしも早く屋台巡りたい!


「ねえねえ、あれあるかなー?」
「あれ?」
「パイナップル凍らせたやつ!」
「それなら向こうで見たぞ」
「ほんと?食べたいー!」


サボくんとネネが交わすその会話に耳を傾ける傍ら、わたしとしては前方にある屋台が気になって仕方ない。ピンクや水色、淡い黄色とあらゆる色の綿あめを組み合わせることで花や動物を作ってくれるみたいで、さっきから列を抜ける子供たちがそれぞれ異なる形の綿あめを手に満面の笑顔を浮かべている。

すごい!かわいい!ほしい!そう思うものの、冷凍パインを求むふたりの声がいよいよ遠ざかり始める。なので一旦諦めようと渋々視線を外せば、ぐいっと手首のあたりを強く掴まれた。


「よそ見してっとはぐれるぞ」
「あ、ごめんエース」
「どれ見てたんだ?」
「えっ?」


上半身を屈めてわたしと視線の高さを合わせたエースが「あれ?」と綿あめの横にある人形焼の屋台を指差すので、「あっち」とその手を数センチばかり右に押す。


「あそこの綿あめすごくない?あの女の子が持ってるのとかネコじゃん!超ネコ!」
「うわっ、すげえ!あっちなんてピカチュウ持ってんぞ!キャラクターも出来んのな!」
「ねっ!あとで寄ろうよ!」


ちゃっかり誘ってみると掴まれたままだった手首がそっと引かれ、「今行くか?」と笑うエース。


「でも、」
「どっちにしろあいつらもういねえし」
「……はい?」


言われて辺りを見渡すと、たしかにふたりの姿が見当たらない。
そしてふと差し出されたエースのスマホを見れば、ネネから送られてきた「合流までごゆっくり〜」という一言と、その下でイチャコラ動きまわるきもキャラのスタンプが眼に映り黙ってスリープボタンを連打してやった。

「ってことだからとりあえず寄ってこーぜ?」

な?と顔を覗き込まれたかと思えば、手首にあったエースの左手がするりと降りてきてぎゅっと優しく右手を握られる。

…えっ?えっ?

急なそれに心臓がバクバクと早鐘を打ったものの、底抜けに嬉しそうな笑顔を浮かべたエースが「俺クッパ作ってもらうわ!」なんて意気揚々と言い出すものだから割と冷静なツッコミが口を突いて出た。


「いや、それ店の人泣くって。せめてテレサとかにしてあげなよ」
「そーいうなまえは何にすんだよ」
「わたし?わたしはそうだなー…エヴァンゲリオ、」
「ふざけんなよ!それの方が店の人泣くだろ!大泣きだろ!」
「ちなみに初号機がいい」
「ぜってー断られるから他の考えとけよ!」
「言っとくけどその言葉ブーメランだから!エースもだから!」


そしてこの手を離そうか!
だめだ。まじだめ!
ナゾに緊張するんですけど…!

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お祭り編、もう1話続きますー!
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