OTG | ナノ


2限と3限の合間の休み時間。
ルンルンと足取り軽く席に着けば、目が合うなりむすっと頬を膨らませたエースに「おせえ!」と怒られてしまった。

自分だって遅刻常習犯のくせに!いつものわたしだったらそう言い返していたかもしれない。けど、今はそれをしない。すこぶる機嫌がいいのでこのくらいの理不尽は笑って受け流せるのだ。


「わたしがいなくてそんなに寂しかった?」


ゴキゲンついでにうりうりと頬を突っついてウザ絡みすると、「だったら悪いかよ」なんてジトリと見上げられて一瞬フリーズした。だってまさか肯定されるとは。予想外だよどうしたんだよエース…!

ハイだったテンションが抜け落ちて、一気に冷静になる。


「ぐ、具合でも悪いの?」
「は?別に悪くねえけど……、」


喋っている途中で黙り込んだと思えば、突然スッと手を伸ばしてきたので甘んじてそれを受け入れる。すると、サラリと前髪に触れて「切ったろ?」なんて探るように問いかけられたものだから収まりかけた気持ちが再び高揚し始めた。


「わかる?」
「おう。短いとちょっと幼く見えるな」
「そう?」
「まあ似合うけど」


そう言って笑顔を浮かべたエースに倍以上の笑みを返す。
にやにやにやにや。
ねえねえ、ちょっと聞いてよ…!


「さっき下で体育終わりの王子に会ったんだけどさ、」
「お前またサボに怒られんぞ…。」


そう、来るときに玄関のところで王子もとい、サボくんに会った。
なので、今日も一段と王子オーラをまき散らしてるなーなんて思いながらも手を振れば、友達と2、3言交わした後にこっちにきてくれたから驚いた。


「友だちは?いいの?」
「平気平気!なまえは遅刻か?」
「あ、あはは」


誤魔化すように渇いた笑みを浮かべていると、ふと隣を歩くサボくんの腕元に目が釘付けになった。
どうやら学校指定でもなんでもない私物のTシャツを体操着の代わりにしているようで、その袖もとはくしゃっと肩まで押し上げられている。つまりは二の腕が丸見えなわけだけど……。

「サボくんって細く見えるのに意外と筋肉すごいよね」
「それ褒めてんのか?」
「もちろん!」

細マッチョは正義だ。
そうに決まってる!
大きく首を縦に振って答えると「そっか」と呟いたサボくんに横から顔を覗き込まれて少しびっくりした。な、なに?


「そーいやさっきから思ってたんだけど」
「うん?」
「前髪切ったのな、なまえ」
「あー、昨日お母さんにやってもらったんだけど短くなりすぎちゃって…。」
「そうか?似合うと思うけど」
「…えっ、まじ?」
「まじ!かわいいじゃん」


「……ってことがあったわけ!」
「なげえ!もっと短く話せよ!」
「やばくない?サボ王子が褒めてくれたんですけど〜」


野次を飛ばしてくるエースはスルーして、両手でほっぺを覆いながら呟けば「俺も今褒めただろ!」とひたすらに不満そうな声があがる。


「もちろんエースに褒めてもらったのも嬉しいよありがとう」
「明らかに盛り上がり方がちげーじゃん!なに落ち着き払ってんだよ!」
「えー?」


それは多分アレだ。1番はじめに褒めてくれたのがサボくんだったからその分感動が大きかった的な。盛り上がりも一際だった的な。

でもあんなストレートに可愛いって褒められたら大多数の女の子は嬉しいに決まってるよね。そりゃあ「きゃっ!」ってなるよ。自然の摂理だよ。


「サボくんの彼女になる子は幸せそうだなー」
「は?」
「てか絶対幸せだよ」
「……俺は?」
「え?」
「俺の彼女になるやつは?」


椅子に浅く腰掛けてジッと見つめてくるエース。うーん…。
エースが彼氏だったら、か…。


「毎日が楽しいと思う!」
「それは保証する!」
「食べ物の好き嫌いないから料理作ってあげるのも悩まなそうだよね」
「おう!パクチーもセロリも食えるぞ!それに絶対残さねーし!」
「うんうん!でもってホウレンソウもしてくれる気がする」
「報告!連絡!相談!任せろ!」
「けどいっぱいヤキモチ妬かされて涙が枯れそう」


褒めてばっかりで恥ずかしくなってきたから、ちょっとマイナス点も言ってみればカチンと笑顔のまま固まってしまったエース。どうやら心当たりがありまくるらしい。元カノか。元カノに該当者がいたのか。


「…でもなまえがイヤだって言うなら俺ちゃんと気を付けるぞ」
「え?わたし?」
「泣かせたくねーし」
「ちょ、ちょっと待ってこれ例え話だよね?なんか対象がわたしになってない?えっ?!」


焦って詰め寄ると、なんだか複雑そうな表情で黙り込んだエースに一瞥されてしまった。
そ、そんな目で見てもしょうがないでしょうが…!


「例えば、ってことだよね?」
「へいへい、そーだな。どうせ例え話だよ」
「そ、そうだよね!」
「……まじでいっぺん部屋の絨毯に足引っ掛けて転べアホなまえ」
「なんなの突然!そして地味に痛そうだわ!」
「俺の心の方が痛いっつーの!」
「はあ?」



「(あからさまにホッとした顔すんじゃねえよバカ…。)」

-------------------
エースが彼氏だったら100%幸せだと思う(`・ω・´)
×
- ナノ -