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悔しいことに女子の種目はどれも残念な結果へと終わり、残すは軽快に勝ち進んでいる男子バスケの応援のみとなってしまった。


「ネネー、次体育館で男子バスケの決勝だって!」
「あっ、そうじゃん!行こ行こー!」


いやあ、サッカーもいい線いってたんだけどねー。如何せん準々決勝で当たったサボくんのクラスが強すぎた。ていうよりサボくんが飛びぬけてた。サッカー部でもないのにハットトリック決めてたからね!女子たち大歓喜だったからね…!

とまあ数十分前の完封試合を思い返しながら体育館に足を踏み入れれば、決勝戦を控えた2チームが準備運動を兼ねて既にコートに入っているらしい。

……それにしてもこの異常なほどの人口密度はどういうことだろう?蒸し暑い体育館の室温がさらに底上げされてる気がする。


「い、いくら決勝戦って言ってもおかしくない?」
「えー、妥当じゃない?うちのクラスからはエースが出るし相手クラスにはローがいるんだもん」
「へえ、ローくん出るんだ?」
「まあ今まで1試合も出てきてないらしいけどね!」
「えっ!全試合サボり?」
「らしいよ」


だから決勝も来るのかビミョーなとこだよね、と人混みをかき分け出場チームが属するクラスにのみ与えられる特別応援スペースまで手を引いてくれるネネ。おおっ、たしかにここならよく見える!最前列!


「それにしてもローくん来たらあっちのチーム更に強くなりそうだよねー」


2チームが練習する姿を眺めながらネネに話しかける。
しかし、返ってきたのは予想していた可愛らしい声とは程遠い少し荒々しさを含んだ低い声だった。


「残念ながら来るぞ、あいつ」
「わっ!き、キッド!」


ちょ、一気に乙女モード入ったネネってばくっそ可愛い…!なんて口元を抑えながら隣に並ぶキッドを見上げれば、タイミングよく視線がぶつかった。ので、とりあえず話を掘り下げてみようかな。

「なんでわかるの?」
「あのバカすぐにエースを茶化したがるからよォ」

こんなん絶対来るに決まってる、そう確信めいて言うキッドの言葉には妙な説得力がある。
てかローくんとキッドが仲良いのは知ってたけど、エースとも茶化し合うほどの親しい仲だったなんて少し意外だ。あんまり表立って連んでないと思ったけど男子ってのはわからないなあ…。


「あ、ローだ!ほんとにきた!」
「えっ」


少し上擦ったネネの声が聞こえたと思えば、コートを囲む女子軍からも黄色い悲鳴があがる。ま、まじでモテるんだなローくんって!


「ねえキッド」
「ンだよ」
「ローくんってバスケうまいの?」


こんなに騒がれてるけど実際バスケの実力はどうなのか、疑問に思って聞いてみればふと肩にズシッとした重みを感じた。見ると、人の肩を肘掛け代わりにしたキッドがどこか面白くなさそうに目を細める。


「うぜーくらい点取りにくるぞ」
「そーなの?ダルがってあんまり動かないタイプかと思った」
「普段ならな」
「普段なら?」
「相手がエースとなりゃ話は別だ」


そ、そんなに労力使ってまでエースに構っちゃうの?意外と童心忘れずなんだな、ローくん…。
なんて思っていれば、コートに入って早速エースに絡みに行ったものだから少し笑ってしまった。

思ってた以上に仲良しなんだなあ、あのふたり。

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