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年間に数日ほど存在する「学校に来るけど勉強を免除される日」。
そのうちの1日がまさに今日、球技大会である。


「ねえ見てなまえー!キッドが交換してくれた!」


校庭での開会式に向かうべくちんたら廊下を歩いていると、教室内を探しても見当たらなかったネネが猛スピードでこっちに駆け寄ってくる。ちょ、ちょっとスピード落とそうか?
怖い!怖いって…!


「ほらコレ!」
「おおっ、まさかキッドがこういうのにノってくれるとは…。」
「ねっ!ダメ元だったけどしつこくお願いしてよかったー!」
「しつこくお願いしたんだ?」
「した!めっちゃ纏わりついた!」


えへんと胸を張るネネを前に「よかったねー!」とつい笑顔が零れる。


「あれ?なまえは交換してないの?」
「残念ながらね」


……とまあ、さっきから何の話をしているかと言うと。
この学校の球技大会における定番って言えばいいのかなんなのか。学年の色別に配布されるハチマキがあって、これがまた男子はストライプ、女子はボーダーで分かれている。それをね、男女間で交換するのが流行りって言いますか…。

現にネネの首に巻かれているハチマキもストライプの男物で、これを首にかけている=リア充みたいなところがある。まあね、カップルじゃないにしろ交換する男がいるってことだからね。

つまり交換相手がいない者にとっては中々に渋いイベントなのだ。


「なんで!エースさっきボーダーの付けてたよ?!」
「他の子と交換したんじゃないの?」


よく知らないけど、と付け加えて言えば廊下の先を見据えるネネの目がスッと細まった。


「噂をすればなんとやらだわ」
「あっ、ほんとだ」


人の流れに逆らって前から歩いてくるエースとサボくんにひらりと手を振る。


「ふたりともなんで逆走してるの?」
「エースが教室にスマホ忘れたっつーから取り行くとこ!」
「あー、なるほど」


仕方なさげに笑うサボくんにへらりと笑顔を返していれば、隣に居たはずのネネがもれなくエースに突っかかり始めたらしい。背の高いエースを下から見上げるその姿がどうにも飼い主と愛玩動物を彷彿とさせて微笑ましいなあ、なんて悠長に考えていたのだけれど。


「ねえそれ誰と交換したの?」
「ちょっ、お前なんか怒って、」
「だーれ?」


微笑ましいのはその外観だけで、話の内容を聞くとまるで男女の修羅場そのものだ。どうしよう、ネネちゃん怖いんだけど。わたし絶対に仲裁入りたくないんだけど!


「な、斜め前の席のやつと…。」
「あ!清楚系女子のユイちゃん?」
「そう、それ!」


エースと目を合わせて「あの子か!」「そうそう、あの子な!」なんて盛り上がりかけていると、頬を膨らませたネネにぐいっと腕を引かれて耳元で小さく囁かれる。


「…いいの?」
「なにが?」
「毎年交換してたじゃん、なまえ達」
「ああ、うん」
「エース他の子と交換しちゃったよ?」


まあそれはそれだし…、ねえ?
どうしたものかとエースを見れば、なんとなく状況を察したのか「あんな泣きそうな顔されちゃ断れねーって…。」と首にかかるボーダー柄のハチマキに視線を落とす。

たしかにユイちゃんといえばエースの軽い下ネタにも顔を真っ赤にさせちゃうほどのシャイガールさんで、きっと交換を申し出る時も緊張で涙が滲むほどに勇気を振り絞ったんだと思う。そこまで想ってもらえるなんて本当にすごいなあ…。

しみじみ感心していると、ふとサボくんと目が合ったのでとりあえずニッと笑顔を向けてみる。するとお返しにとばかりに王子スマイルを贈呈されて、なんていうかエビで鯛を釣った気分だ。なにこれ超得した気分!

「あのさ、なまえ」
「うん?」

サボくんからの呼びかけに気分よく答えれば、指定ジャージのポケットから学年色のハチマキを取り出して「俺のでよければ交換するか?」って……えええっ?!


「女子ってこーいうイベントっぽいの好きだろ?」
「で、でもサボくんのハチマキとか超倍率高そうなんですけど!むしろなんでまだ手元にあるの?!」
「まぁ、ちょこちょこ断ってたからな」

ちょこちょこ?
…いや、絶対うそだ。
確実に逆盛りしてるぞこの王子!
きっとバッサバサ断りまくっていたに違いない。

だけどそれなら尚のこと――、


「わたしと交換でいいの?」
「いいよ、なまえだったら」


その一言にポッとほっぺが赤くなる。
や、別に他意はないけども…!
こんなセリフをサボ王子に言われたらほとんどの女子はこの反応すると思うし!…ああ、まったく心臓に悪い!


「わっ!やばーい!なにそれサボくん超イケメンだよ!今のはなまえもキュンでしょ!」
「ネネうるせェ!」
「痛っ!何すんのエース!」
「ぴゃーぴゃーうるせんだもんお前」
「なにそれー!てかそんなにイライラするんなら他の子と交換しなきゃよかったじゃんアホエース!」


ベッと舌を出してエースを煽ると、すたこらさっさとサボくんの背中に隠れたネネ。
そうすると、ネネを追いかけていたエースは必然的にサボくんと向かい合う形になって。「そこどけよサボ」なんて若干威圧を含んだ声が聞こえたかと思えば、ふわりとエースに近づいたサボくんがその耳もとで何やら小さく呟いたらしいのが見て取れた。

直後、大きく目を見開いたエースがバッとわたしを振り向く。


「…な、なに?」
「っ、!さ、サボ!その話もっと詳しく!」
「はあ?詳しくって…お前自身のことだろ?」
「いいから!ちょっとこっち来いって!」
「うわ!ちょっ、わかったから!引っ張るなよ!」


人の問いかけをキレイさっぱりスルーしてサボくんを連れ去って行ったエースに唖然とすること数秒。
……まあとりあえずは、

「サボくんのハチマキゲットだぜ?」

ってことでいいかな。うん。

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次回はエース視点で書こうと思いますー!
キャラ視点めっっさ苦手なので難産になること間違いナシですが避けて通れぬ道というやつですね(´;ω;`)
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