OTG | ナノ


「あっ!」
「なに?どーしたの?」
「ほら、あそこ!」


昼休みも半ば、古文教諭から呼び出されたネネに付き添い職員室まで行ってきた帰り道。教室までの道をダラダラ歩いていると、なにやら進行方向とは別の廊下を指さすので不思議に思いつつも視線を向ける。

すると、非常ドアの施錠により実質行き止まりとなっているその場所に見慣れた男子生徒ふたりを発見した。おっ、向こうも気付いたっぽい。


「なまえー!ネネー!」
「エース!サボくーん!」


ついさっきまで教室で顔を合わせていたくせに、まるで数十年ぶりの再会?ってレベルで大袈裟に手を振り合うエースとネネ。

その隣でひらひらと手を振りつつ、肩を並べてヤンキー座りしているふたりのことをぼけっと眺める。王子がやるとヤンキー座りも品のあるものに見えてくるから不思議だ。恐るべし王子マジック。


「でもってアイスいいなあ…。」


エースとサボくんの手元に視線を落としてボヤく。たしかアレって購買で人気のソフトクリームだよね。いいないいなー。


「エースのことだからなまえがお願いすればくれるんじゃない?」


ニヤリと微笑んだネネが肘で軽くつついてくる。おうおう、出たなこの勘違いキューピットめ!


「だからわたしとエースはそーいうんじゃ、」
「エースー!なまえがそのアイス食べたいってー!」
「ちょっ、!」


ちょっとタンマ!ストップ!一旦止まれ!楽しいのはわかるけど!恋バナ好きなのはわかるけど!とりあえず本人の意見は聞き入れよう?!そことっても大事だから!

「いいー?」
「おー?別にいいけど」

だったら早くこっち来いよ、なんて手招くエースの仕草にネネの笑みが更に深くなる。

「ほーら!」
「誰が相手でもくれたって!」
「はいはい、いいから行くよー」

軽く窘められながらぐいぐいと背中を押され、さっさとエースの前に連れて来られる。
すると、そんなわたし達の様子を見ていたサボくんが「ネネのペースに呑まれまくりだなァ、なまえ!」なんて楽しそうに笑った。


「えー!サボくんってば人聞き悪い!」
「ホントのことだろ?」


わあわあ盛り上がり始めたサボくんとネネを温かい目で見ていると、ふと手首を引かれてぐらりと身体が傾く。なのでされるがままにしゃがみ込めば、ずいっと差し出されたのはミックス味のソフトクリーム。うおお、わたしの大好きなミックスソフト…!


「溶けっから早く食えよ」
「うん!いただき……ま、す」


あーっと口を開けてソフトに齧り付こうとしたものの、横からの視線が気になって仕方ない。……ちょっと見すぎなんだけど食べにくいんだけど!
口を半開きにした状態でジト―っとネネを見やる。しかしそんな中、不意打ちで口に押し込まれた冷たいソレにビクッと身体が跳ねた。ひいぃっ、歯が沁みる…!


「だあーっ!垂れてきた垂れてきた!」


わたしの口にアイスを押し当てたまま慌ててシャツを捲るエース。見れば、たしかに溶けだしたアイスがその筋肉質な腕を伝っている。ちょ、ノロノロしててまじごめん…!


「しかもティッシュ教室だ!更にゴメン!」
「洗い行くのはさすがにめんどくせぇなあ…。」
「ここから水道まで遠いもんね」


そんな会話を交えながら「もう一口」と図々しく口を開ける。するとまあ、如何にも物言いたげに目を細めたエース。や、わかる!わかるけども!


「そのままだと溶けてく一方じゃん!だったら食べて減らした方がいいじゃん!」


言ってる間にも溶けてるよ勿体ないよ…!なんて慌てて弁解していると、サボくんのアイスを貰ったらしいネネが口をモゴモゴさせながら「てかエースの溶けるの早くない?」とふたりの手元を見比べる。…うん、たしかに。サボくんのそこまで溶けてないかも。

「なんでだろ?」

素朴な疑問を呟けば、ニッと笑ったサボくんがエースの頭をわしゃわしゃ撫でまわす。そして、

「エースくんは子供体温だもんな〜?」

なんて小さい子に話しかけるみたいに言うものだから思わず吹き出してしまった。

「ぶふっ!」
「おい何笑ってんだよなまえ!」

アイスを持ってない方の手で頬を摘ままれる。いでで。

「いひゃい」
「お前が早くしねえから溶けたんだぞ!」
「あっ!じゃあさじゃあさー!」

なんだ。何を言うつもりだネネちゃん。
その楽しそうな声色に、じわりと冷汗を感じる。


「なまえに責任取ってもらえば?」


………はい?

「責任ってなんだよ?」
「んー。例えばそれ舐めて綺麗にしてもらうとかー?」
「はあ?!」


つい声を荒げてしまった。
だって語尾にハートマークくっつけて何言ってんの…!そんなのキモいじゃん!余計に汚くなるじゃん!ありえないじゃん…!なんて猛抗議しようと咄嗟に身を乗り出す。

けれど、サボくんが笑いを堪えながらエースの方を顎で指すので仕方なく視線だけを向ければ……え?ええっ?


「いいなソレ」
「ちょっとエース?!」
「責任、取ってくれよなまえ」
「は、はい?」

コーンから上のツイスト部分を一気に食べ干したエースがニヤリと口角を釣り上げる。

「舐めてくれんだろ?」

自身の口の端についていたアイスをペロリと器用に舐めとると、右腕をわたしの方に寄せてひたすら楽しそうに目が細められる。
ほ、ほんと何言ってんのかなこの人…!


「なっ、舐めない!舐めません!」
「じゃあどーすんだよ?」
「教室戻ってティッシュ持ってくるよ!」


それでいいでしょ!とムキになって立ち上がろうとすれば突然堰を切ったように笑い出したサボくんがひょいっと何かを投げ渡してきて。

ふと見れば、それはまさかの……!


「ティッシュ!しかも濡れティッシュ!」
「サボくん持ってたのー?」
「あァ、購買で貰ったの忘れてた」
「そっかそっか〜!」


うそだ!忘れてたなんて絶対うそ!したり顔で目を合わせてくるサボくんに恨めしげな視線を送る。大方、この状況を楽しんでたに違いない。なんてドS!
そしてサボくんの言葉をまるっと信じちゃってるネネのことが心配すぎる。チョロい!チョロすぎるよマイフレンド…!


「げっ、今度はコーンの底から出てきた」

次いでそんなエースの声が聞こえたかと思えば、素早く顎に手を添えられてぐいっと上を向かされた。く、首!首が痛いって!


「ちょっ、」
「口開けろよ」
「はあ?っ、うが!」


反抗しようと口を開いた隙を狙われたらしい。勢いよく突っ込まれたコーンに歯が当たってバリっと虚しい音を立てた。……あ、でも美味い。

いくらドロドロになっても味はミックスソフトクリーム、ってことで嬉々してコーンの先端を吸えばズゾっと変な音が鳴ったけども。


「あはは!なんか今のエロいよなまえ」

「「……」」

ネネが発した冗談交じりの言葉を聞くや、クソ真面目な顔して頷いた男子ふたりに非常に残念な感情が湧いたのは言うまでもない。


「てかお前口の周りアイス付いてんぞ」
「どこ?」
「取ってやろーか」
「えっ、いやなにイイコト思いついたみたいな顔してんの!ち、近い近い!顔が近いって!」
「おまっ、ちょっとジッとしてろよ!」
「いいです結構です大人しく残りの濡れティッシュくれればいいから!エースのアホ!変態!」
「オイ!アイスの恩人にアホはねーだろ!」
「変態は否定しないのか」
「そこは否めねえからな」

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悪ノリしたエースに「舐めろ」って言わせたかっただけですごめんなさい(..)(笑)
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