はなし! | ナノ


 せ ん た く し ?


とある小綺麗な港町。
島の裏側に停泊しているモビーの見張り台で、ひとりさみしく不寝番をしていた時のことだった。

上陸していく同じ二番隊の仲間から「暇つぶしに持っとけよ」と半ばムリヤリ手渡されたルービックキューブをひたすら弄りまわし、一向に色の揃わないそれに盛大にイライラしだした頃、ふと視界の端を何かが過ぎる。

や、やばい!こういう時のために不寝番やってんだからちゃんとしないと!
そう自分を叱咤して、違和感の方に目をやる。

すると――、


「ひいっ!」


見張り台の周囲をふよふよと彷徨う炎の塊に盛大に顔が引き攣る。
待って待って、オカルトは無理だよ!オバケ怖い!戦えない!攻撃当たらない…!

突然のことに思わずパニックに陥ったけれど、冷静に考えればなんてことはない。そうじゃんわたしの上司、火じゃん。もれなくメラメラ人間じゃん。一瞬でも恐れ慄いたのが恥ずかしい。


「た、隊長ー?隊長だよね?仮にもしもそうじゃなかった場合わたしのメンタルがやばいことになるんで該当するのであれば早いとこ返事ください怖いです」


それでもやっぱりオカルトの可能性も捨てきれなくて保身的に早口で捲し立てれば、あっちへフラフラこっちへフラフラ闇の中を彷徨った末に、見張り台の手すりへと腰を下ろす形で実体化した。
よ、よかった…。隊長だった…。


「なまえー」
「うわっ!お酒臭い!」
「なあ、あのよー」
「ちょっ、ちょっ!危ないって!落ちるよ!」


ガクン、と後方に傾いた身体を引き戻すように腕を引く。すると今度は勢い余ってのしかかるようにして前方に倒れてきたから堪ったもんじゃない。おっも!筋肉重い!


「さっき食べたローストビーフが出る!吐く!」
「俺、なまえが好きだ」
「えっ………、え?!」
「酒の勢い借りて言うなんて情けねえけど…すげえ好き」

べったりのしかかった状態から上半身のみを持ち上げ、わたしの顔の横に両肘をついた隊長。
まるで押し倒されているようなその体制に、ぶわっと顔が赤くなるのがわかる。

「ずっと前から、好きだ」

まさかそんな、ローストビーフをリバースする発言の直後にこんなことを言われるなんて思ってもみなかった。酒の勢いってすごい。話の脈絡やムードなんて一切関係ありませんと言わんばかりのそれに、驚きやら何やらで言葉が出てこない。え、これまじなやつ?罰ゲームとかじゃないよね…?


「あの、」
「俺の女になってくれねえか?」
「う、ええっ?!」


あまりに直球なことを言うもんだから、なんかこう心臓のあたりがこしょばい!

思わず気の抜けた声を零せば「うえってなんだよ!人の告白で吐き気催すなんて失礼だぞ!」と熱を帯びた目を細められてしまった。
しかしその理論が通用するのであれば、人が吐き気催してた時に告ってきたのはどっちだと問い質したい。けど、しない。そーいう雰囲気じゃないのは流石にわかる。


「え、えーっとですね…。」
「ハイ」
「とりあえず後日お酒が抜けてからもう一度お話しよう?」
「なんでだよ今言えよ!」


不満そうにグッと顔を寄せてくる隊長。
だけどわたしだって譲れない。だってもしコレで寝て起きた時なにも覚えないとか言われたらどうすんの!そんなの知らね、とか言われたら泣けるじゃん!切ないじゃん…!そんな思いをぽつりぽつりと呟くと、ついに互いの鼻先がぶつかる距離まできてしまった。ち、近っ!近すぎる!


「覚えてるに決まってんだろ」
「…隊長よく記憶飛ばすもん」
「こんな大事な話忘れるわけ、…てかお前まどろっこしいぞ!難しく考えるなよ!」
「そんなこと言っても、」
「俺の女になってくれ」
「っ、」
「なあ」
「た、いちょ」
「イエスかハイで答えろよ、なまえ」


くいっと口角をあげ、艶めいた笑みを浮かべた隊長は本当にずるいと思う。お酒の勢い借りなきゃとかなんとか言ってた割にはすごく余裕そうだし、なんだかわたしばかりドキドキさせられて悔しい!

なので、せめてもの抵抗でイエスでもハイでもない別の2文字を口にすれば、さっきまでのエロい笑みはどこへやら。顔を真っ赤に染め上げた隊長がへなりと脱力し、わたしの肩口へとゆっくり顔を埋めたのだった。


「……なあ、今のもっかい言って」
「す、好き」
「おれも」

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どの歌かは覚えてないんですけど「イエスかハイで答えろ」ってフレーズがありまして。どうしてもエースに言わせたくなっちゃいました(´・д・`)笑
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