許しを乞う、
海軍の軍艦と鉢合わせた時。命知らずな同業者に喧嘩を売られた時。好戦的なあの男は必ずと言っていいほど我先に戦場へと飛び出していく。
ストライカーを蹴り上げ相手船の上空を舞うと、お得意の火拳を打ちっぱなして再度浮き上がってきたそれへとストンと着地。エースが多用する海上戦闘パターンのひとつだ。……だけど考えてみてほしい。
もしもタイミングよくストライカーが足元に来なかったら?そのまま海に着水してしまったとしたら?
「そんなことになったらどーすんの?」
「ンなヘマしねーって。俺とストライカーは一心同体だからな!」
「はあ?」
「大丈夫だから心配すんなよ」
「……。」
へらっと笑うエースを何も言わずひたすらジーッと睨みつける。目は口程に物を言うっていうからね。どうか伝わりやがれわたしの気持ち。
「……」
「………わ、わかった」
「なにが?」
「もうしないから!…な?」
眉を八の字に下げたエースが慌てて提案する。が、信用ならぬ。今まで何十回その言葉を聞いてきたと思ってるんだ…!
どうせ次の戦闘の時にはこんな約束すっぽり抜け去ってまた同じことを繰り返すに決まってる。それがエースって男だ。毎回毎回悪びれなく約束を破りやがって…。
「信じられないよバカエース!」
「ほんとにしねーから」
「する」
「しねえ!」
「する」
「しないって!」
「するって!」
「する、じゃねーや!だあぁあ!だからほんとにやんねーって!」
わあわあと身振り手振りで主張する姿を純度100%の疑いの目で見る。
「……じゃあどーすりゃいいんだよ」
「やらなきゃいい」
「だからやんねえって言ってんのに!」
なんでわからねえんだ!とでも言いたそうに乱雑な仕草で髪を乱すエース。くそう、ムシャクシャするのはわたしの方だっての…!
「…泳げないくせに」
「…まあ」
「沈んじゃうよ?」
「だな」
「溺れたらどうすんの」
「そうなったらなまえが助けてくれよ」
いい雰囲気でポンと頭に手を乗せてきたけどちょっと待て。「そうなったら」ってなにその未来仮定。またやる気じゃん。やっぱり反省の色ナシじゃん…!カチンときて、頭に置かれたエースの手を思い切り払いのける。
「えっ、なんだよまだ怒ってんのか?」
自分の失言に気付いていないらしく、清々しいほどにキョトンとしているエース。そして黙りこくるわたしを前に、ついに両手をひらりと上げた。お手上げ、ってか。
それはこっちの台詞だよ!
「怒るなよ」
「バカたれ」
「許してください」
「アホすけ」
もはやいじけ半分で返答していると、そんなわたしの態度に困ったのだろう。複雑そうな顔で鼻の頭を掻くと、大股で一歩近付いてきた。
「…仕方ねーな。早くもこの必殺技を使う時がきたか」
「は?なに必殺技っ、て…? 」
大方わたしの意識を逸らそうとしてテキトーに言ってるんだろうと視線を外した。が、素早く肩を掴まれる。そして状況を理解する暇もないままに、唇に押し当てられたのはエースの……エースの、おおぉぉ?!
「ん、むっ!」
ちょ、離れよう!一旦離れて!
ぐいぐいと肩を押して訴えればチラリと目を開いたものの、触れるだけだったそれが噛み付くようなものに変わって肩が跳ねた。ま、まじで何考えてんのこやつ!
「んーっ!んっ、ぷはっ!」
耐えられずドンドンと厚い胸板を叩いていると、そのうちの一発がイイとこに入ったらしい。エースとの間に距離が出来て、ようやく息苦しさから解放された。そして「痛え…。」と拗ねたように呟くエースを前にだらしなく開いた口が塞がらない。
えっ、えっ?なんなの今の…?!
目を白黒させて聞けば、鳩尾のあたりを撫りながら「許せのチュー」なんて言うものだから思わず絶句した。
「な、なにそのチャラい発想…。」
「許さないんだったらお前も許さないのチューだからな!ルールは守れよ」
「はあ?!」
「ほら」
「っ、もういい!今回は目瞑るけどホント次はないんだからね!」
「おっ、許してくれんのか?」
いいよもう、めんどくさい!
ぷいっと顔を背け、部屋に戻ろうと体の向きを変えた。はずが、エースに引き止められた。なので何だと振り向けばーー、
「それならそれで許すのチューを、って痛ェ!!」
「エースなんて1度ストライカーに裏切られて痛い目みればいいんだ!このおバカ!」
「ちょっ、なんでまた怒ってんだよ!」
「もっかいすんぞ」なんて厭らしい笑顔で脅しをかけてくるエースは1度海に誤着地して頭を冷やしてくればいい。そしてそんなエースに心を乱されてるわたしも海難救助がてら頭を冷やしてこよう。そうしよう。
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ストライカーから飛び上がって戦うところ、とってもヒヤヒヤします;;
そしてゴリ押しで許しを請うエースを書きたかっただけです(´・ω・`)笑