はなし! | ナノ


 chocolate!

うーん、今年は何を作ろう?
バナナパウンドケーキ、チョコバナナ、バナナチョコチップクッキー、バナナカップケーキ、バナナ、

「なんで全部バナナ関連なんだよい。喧嘩売ってんのか」


ゴツンと鈍い衝撃が脳天を襲う。
うぐっ!痛い!痛すぎる…!
激痛を伴う頭頂部を押さえながら振り向けば、まるで何事もなかったかのようにしれっと突っ立っているマルコ隊長の姿にジワリと涙が滲んだ。


「急にぶつなんて酷い!」
「俺と猿のメシをイコールで結んだなまえのほうが酷ェだろ」
「猿の飯?……あ、バナナのこと?」


回りくどい言い方だね、と半笑いで言えばもう一発バシンと叩かれる。「なんとなく叩きたくなった」なんて軽く言ってのけるマルコ隊長は本当に鬼だ。頭の中の細胞が死んだらどうしてくれる…!


「ていうか秘密会議覗かないでよー!何あげるかわかっちゃったら面白くないでしょ!」
「ハイハイ。まあ頑張れよい」


ヒラヒラと手を振りながら退室していくマルコ隊長を見送ると、再び机と向かいあってノートに書かれたアイディア達とにらめっこ。
んー、どれがいいんだろう…。


「今日の夜から明日の朝までキッチンを開放してくれることになったのはいいけど、あんまり難しいの選ぶと間に合わないかもだよね。自分で言うのもなんだけどちょっぴり料理音痴だし…。」
「ブフッ!」
「えっ!ちょ、なに笑ってるのエース隊長!」
「おま、ちょっぴりどころじゃねェよ!しっかり料理音痴だろーが!」
「うわっ!聞いてたの?!」
「聞こえちまったんだって」


そう言ってゲラゲラと笑い転げるエース隊長はまるでいじめっ子のようだ。
何その活き活きした顔!
ほんといじわるなんだから…!

ムスッと頬を膨らませて「笑うな!」と訴えれば目の淵に溜まった笑い涙を拭い、優しく頭を撫でまわしてくるエース隊長。相変わらず女の扱いがうまい。ずるい。


「悪かったよ。怒んなって」
「軽っ!あれだけ爆笑しておいて謝罪が軽すぎるんだけど!」
「まァまァ、それより俺はこの中だったらパウンドケーキがいい」


ちょっ、謝罪について流した挙げ句リクエストなんてしてきやがったよ…!


「フンだ!エース隊長の好みは聞いてないもんね!」
「マルコも好きなんじゃね?」
「…え、それほんと?まじで?もし違ったら顔面パウンドケーキやるけどいい?」
「えげつねェな」


顔を青くしたエース隊長に冗談だよと笑いかけ、情報に沿って早速パウンドケーキの作り方を調べに入れば開始直後すぐに見つかった。よーし、今晩はこれを頼りにバナナパウンドケーキ作りに明け暮るぞー!えいえいおー!


* * *


「……しっかり料理音痴、ね。あながち間違いじゃないところが悔しい」


目の前には惜しくも膨らまなかったパウンドケーキ…達。
一体これで何個目だろう。
時間だって夜中の3時をまわろうとしていて、刻一刻とタイムリミットが近づいてきているっていうのに。やばい。やばすぎる…。


「次こそ成功しますように!」


現在オーブンの中で焼かれているケーキをまじまじと見つめる。
これが膨らまなかったらthe endだよ…。


「…なまえ?」
「へ?あっ、マルコ隊長!」
「お前こんな時間まで何して…、」


そう言い掛けて言葉を詰まらせたマルコ隊長の視線は、奥にあるオーブンへとまっすぐ向けられている。…やだな。見られたくない。


「や、あの、これは…。」
「何人分作ってんだよい」
「はい?」
「こんな時間までやってるってことはよっぽどの人数に作ってんだろい?」
「……。」


まだ完成品は0でマルコ隊長の分もままならないんです、なんて口が裂けても言えない。
お前何やってんだって話だよね。
なんかもうごめんなさい。


「…本当はみんなにと思ってたんだけど」
「あァ」
「実はまだ成功品がないっていう…。」


ピピッ!

そこまで言ったところで、タイミングが良いのか悪いのかケーキが焼き上がったらしい。
すると何故かマルコ隊長が我先にとオーブンへと近づいて行き、ガチャンと扉を開いた。


「……。」
「あっ、また膨らんでない…。」
「(ぱくっ)」
「え?!ちょっ、マルコ隊長?!」
「ん、悪くねェよい」


ごくんとケーキを飲み込み、口の端をつり上げるマルコ隊長。でもそんなの絶対うそ!
こんなぺったんこで美味しいはずがない。


「無理しないでいいって」
「ンなもんしてねェよ馬鹿。膨らまなくても中に火は通ってるしうめェよい」
「……っ、ありがとう」


やさしい。いつもは意地悪なクセにこういう時ばっかり超やさしい。わたしマルコ隊長のそういうところ大好き!超好き…!
そう幸せな気持ちでいっぱいになりつつマルコ隊長を見つめていると、ふと何かを思いついたようでバチンと視線がぶつかった。…なんだろう?


「それにしても、なんでケーキみてェな小難しいの選んだんだよい」
「あぁ、それはマルコ隊長がパウンドケーキ好きって聞いて…。」
「……へえ」


(みんなぺったんこでも食べてくれるかなー?)
(あァ、細けェこと気にする奴らじゃねーだろい)
(そうだね!へへっ!)

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翌日ケーキ配るときエース隊長に「やっぱりな」とかなんとか言われてまたモメるんだと思います…!
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