はなし! | ナノ


 チョーカーを買ってみたら


新しいトップスを求めてショッピング通りを練り歩いていたところ、立ち寄った服屋にて凄腕店員さんのセールストークに乗せられついつい購入してしまったのが首元のコレ。ワンポイントで可愛いですよ、そのコーデにもぴったりじゃないですか〜なんてヨイショされて真に受けたけれど。


「(女のオシャレ事情に疎そうな彼らの前でこんな繊細なものを付けたってどうしようもない気がする…。)」


最悪気付かれることもなくスルーされて終わりだろうな、とも思う。でもオシャレなんて元々自己満足だし?ひとりで楽しんでナンボじゃん?
そう考え直してそっと首元に触れてみれば、通りがかった食堂のドアがバァン!と勢いよく開き、出てきたエースとバッタリ鉢合わせた。

その予想外の展開に、お互いびくりと大きく肩を跳ねさせる。

「うおっ!…って、なまえか!」
「も、もうちょっと優しく出入りしないとドアが壊れるのも時間の問題だよ」


バクバクと煩い心臓を鎮めつつ冷静を装って言えば、「…おう」と心ここに在らずな返答と共にキョトンとした視線を向けられて。

「…お前、それどうした?」

スッと首のあたりを指差して言うエースに今度はこっちがキョトンとする番だ。女の服装なんかこれっぽっちも興味なさそうなくせしてコレの存在に気付くとは!
…こやつ、意外とやりおるぞ!


「見直したよエース…!」
「?、そりゃどーも?」
「…ちなみにどう?似合う?」


下手したらこの首元のチョーカーを話題にあげてくれるのはエースが最初で最後かもしれない。だからこれ見よがしに感想なんてものを求めてみれば、ゆらりと目の色を変えて「そーいうのすげェ好き」なんて腰を撫でられたからぎょっとした。
な、なにそのエロい手つき…!


「ちょっ、」
「なんなら今から俺の部屋来るか?」
「はあ?!」
「いや、だって……えっ?流石にここでヤんのはやばくね?食堂の入り口だぜ?」
「待って待って!なに恐ろしい勘違いしてんの!?ヤるってなに!」


話があらぬ方向に飛びすぎでしょ…!エースのぶ厚い胸板をぐぐっと押し返してわあわあ騒ぎ立てていると、ふと背後の扉が音を立てて開く。

そこでひょこりと顔を覗かせたのは、中で夕食の後片付けをしていたであろう4番隊のサッチだった。


「オイオイ、なーにケンカしてんだお前ら。中まで筒抜けてんぞ」
「別にケンカじゃねーよ。ただなまえの誘いに乗ろうとしたら怒られただけ」
「ぶふっ?!」


……は、はいぃぃ?
悪びれなくけろりと言ってのけたエースに驚愕の視線を送る。
するとまあ、チラリとわたしの方を見たサッチが「…ハハーン」と顎に手をあてながら納得の色を浮かべて。なんていうか、たったの一瞬でエースの心境を汲み取れるだなんて恐ろしいほどに察しの良い男だ。さすがは年の功、なんて言ったら怒られるだろうから口には出さないけども。


「まあでも、この件に関してはエース悪くないんじゃねーの?」
「えっ!」
「だよな?どう考えてもそっち系のプレイがしたいようにしか見えねェぞ」

その首輪!と散々な言い様で再度首元を指差してきたエースの人差し指をぎゅっと握り、あらぬ方向に強く反らしてやれば「いでぇっ!」と悲痛な声が耳を貫くのと同時に隣でサッチが「アニマルプレイ的なやつな!」なんて楽しそうにケラケラと笑う。

「く、首輪…?アニマルプレイ?!」
「俺ァてっきりステファンの首輪でも借りてるのかと……てかそれお前のなの?自分用の首輪買ったってことか?…マジ?」

冗談抜きでガチな困惑を始めたエースをぎゅううっと強く睨みつける。
悪気がないのはわかってる。
わかってるけど…!


(それ故の純粋無垢な反応が余計に腹立つ!)
(お前こそ紛らわしいことしやがってよー。こっちは期待させられ損だっつーの)
(だから!腰を撫でないでってば!)
(いでででっ!)

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チョーカーってかわいいけど首輪に見えてしまう(…)
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