はなし! | ナノ


 ★☆☆



「なあ、なまえ知らね?」
「そういえば見ねェな…。部屋にでもいるんじゃねーか?」
「お、サンキュ!じゃあちょっと見てくる!」


ひらりと手を振り足を踏み出せば背後から「グッドラック!」なんて戯けた声が聞こえたので、すかさず親指を立ててそれに応える。
……ったく、それにしてもなまえのやつは何してんだよ。昨夜のクジで備品の買い出し担当に当たったこと忘れてんのか?


「おい入るぞ!」
「ちょっ、えっ!待って!」
「なんだよ居るじゃねーか!お前俺と買い出し担当になったの覚えてるよな?忘れてたとか言わせねーけど!」
「覚えてる!覚えてるからちょっと待ってよ!まだ準備が、」
「どう見ても出来てるから早く行こうぜ」


無遠慮に部屋に踏み入り、出口に向かってその背中をグイグイと押しやる。準備が出来てない?バカ言うなよ。髪だっていつもより丁寧にセットされてるし挙げ句の果てに化粧までバッチリじゃねーか。もう充分可愛いっての…!


「腹減ったから早く上陸してェんだけど」
「あ、後から追うから先に行って食べてればいいじゃん」
「合流すんの面倒くせーだろうが」
「……っ、わかった。じゃあ一瞬でいいからあっち向いててよ」
「一瞬だぞ?それ以上は待たないからな」


仕方なくそう言えば、覚悟を決めたような表情を浮かべたなまえがグッと親指を立てる。
まあけど本当に一瞬の時間を与えられたくらいじゃ何もできないことくらいアホでもわかる。せめてもの譲歩で10秒カウントを取ってやろうと決めれば、8まで数えたあたりで「いいよ」となまえの上擦った声が耳に届いた。…てかその声エロいな。ちょっとクる。

なんてどうしようもねーことを考えながらくるりと振り向くと、


「……は?」
「だ、だから迷ってたのに!着るか着ないかの土壇場でエースが急かすから…!」


顔を真っ赤にしたなまえがギャンギャンと大騒ぎしながら太もも辺りの裾を必死に引っ張る。
………おいおい、マジかこれ。


「俺、なまえがスカート履いてんの初めて見たかもしんねェ…。」


ぽつりと零せば、バッと頬を染めて今にも泣きそうな顔をするモンだからどうしたものか。いや、だって本当のことだろ?いつもズボンか、良くてもショートパンツじゃねーか。それなのになんで急に超ミニスカート…?


「…そんなじっくり見ないでよ」
「ンなこと言ったって、」
「いいから!ほら!お腹空いたんでしょ?早く行こ!」


早口に捲し立てたかと思えば、グイッと腕を引かれる。が、それに抗うように足を踏ん張ると居心地悪そうな顔して振り向いたなまえが「エース?」と小さく俺を呼んだ。


「買い出し行くんでしょ?」
「行く」
「じゃあなんで、」
「着替えないのかよ」
「えっ?」
「…そのまま行く気か?」


まあ普通に考えてそういうつもりなんだろうけど。いや、でも、それで観光地に行くって周りの輩からどんな目で見られると思ってんだよ。密かに想いを寄せてる俺としては気が気じゃねえっていうかなんていうか…。

「……へん?」
「は?」

再びスカートの裾を引っ張り、不安そうに眉を下げるなまえを前につい素っ頓狂な声が出た。
だって、変?って。そんなわけねぇのに。控えめに言っても最高だし、他の男に見せたくないくらい似合ってるから困ってるんだっつーの…。

襟足のあたりを撫ぜながらそんな思考を巡らせていると、その沈黙を勘違いされたらしい。頭1.5個分ほど下にあるなまえの顔が曇り、瞳にうっすらと涙の膜が張るのが見てわかった。…って、涙?!


「お、おい?なまえ?」
「っ、この前エースがミニスカの女の子見てデレデレしてたからこういうの好きなのかと思って買ったのに…。それなのに早く着替えろみたいに言われたら悲しいじゃんかバカ!なに?着てる人間の問題?わたしみたいな色気0のヤツが着ても目に毒って?まじ海水かけるぞアホエース!」
「ちょっ、いろいろと待てって!」


俺の好みを考えて買った?
……なんだよそれ。
そんなこと言われたら否が応でも期待するし舞い上がるじゃねーか!なんてグルグルと考えているところに「少しはわたしのことも女の子として見てよ…。」なんて更なる追い討ちを掛けられて茫然とした。

……や、スマン。
悪ィけどすでにそういう目で見てる。すっげー見てる。惜しみもせずそれを口に出そうとした時だった。


「なまえー?さっきエースが探してたみてェだけど会え、…たみたいだな」


冒頭で話した2番隊員が顔を覗かせたかと思うと、短いスカートから覗くなまえの太ももへと目敏く視線を落とし、ごくりと生唾を飲みこむ。…ほらな?
やっぱりこうなるじゃねぇか。


「ハイ終了」
「あっ!なんだよエース!」
「お前見過ぎなんだよ!」
「いいじゃねーか!せっかくなまえが可愛いカッコしてんだから見せろよ!」


ドアまで詰め寄って身体で部屋の中を隠すようにすると、あからさまに不満そうな表情を浮かべたそいつ。けれど在ろう事か、腕の隙間から顔を覗かせたなまえが泣きそうな顔で「ほんと?可愛い?マジで?」なんて縋るように言うモンだからへらりと頬を緩めたりなんかして。…バタン。考えるよりも前に扉を閉めちまった。あ、悪ィ悪ィ。


「ちょっと何するのエース!」
「怒んなよ」
「お、怒ってはないけど…」
「それ、似合ってるし可愛いぞ」
「…っ、ゲホ!う、えっ?!」
「だけどエロいからそのまま上陸すんのはナシな」
「待っ、エロいって…!」
「どう見てもエロいだろ!下手したら下尻見えんぞそれ!」


風でも吹こうもんなら一発アウトだからな!スカートの裾に人差し指を引っ掛けてふわりと揺らすと、なんだか表現し難い顔をしたなまえがひょこっと口を尖らせて「…あの時の女の子もこのくらいだったじゃん」だと。

…ああ、ほんと鈍い。


「そりゃあ他の女が短ェの履いてたら見えればラッキーくらいには思うけど、」
「わたしだとそれさえ思わないって?」
「ちげーよ。お前のは他の野郎に見せたくねェって思うんだ。……この意味わかるか?」


グッと身体を屈めて顔を覗き込めば僅かに見開かれた瞳に、ギュッと結ばれる口もと。その素直すぎる反応のせいで、わかってることが丸わかりだ。

それなのに、真っ赤な顔で「わかんない」なんてトボけやがって。こんにゃろう。


「言わせてぇの?」
「…言ってよ」
「まあそれが惚れた女の頼みなら聞かないわけにいかねーか」


ニッと目を細めて言ってやれば「うわぁ、なにその不意打ち…。」なんて両手で顔を隠す姿が可愛くて仕方ねェ。

あー、もうダメだ。
我慢の限界。


(好きだ、なまえ)
(…わたしもだよエース)

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直球なのもいいけどサラッとそれっぽく言われるのもいいな〜と思います。そして似たようなオチの話をつい最近も書いてた…
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