靴が脱げたら…的な妄想
島の中心部へ向かおうと思ったら必ず通らなくてはならない大階段がある。
そして今日。いつだって大勢の人が行き交っている例の階段を登っている途中で悲劇は起きた。
おおよそ半ばほどまで登り終えたところで、ふとヒールの靴が脱げてしまったのである。
立ち止まろうにも後ろから人が押し寄せてきて、取りに戻ることなど到底出来そうにない。
そんな窮地に追い込まれた時、
【サボくんの場合】
トントンと軽く肩を突かれて振り向くと、1番に目に入ってきたのはシルクハットから覗くウェーブ掛かった金髪だった。
「これアンタのだろ?」
「えっ、」
「脱げたのが見えた」
そう言って口元に笑みを浮かべると、脱ぎ落としたはずのネイビー色のヒールが足元にソッと戻される。もしかしなくても、転げ落ちていったそれを態々拾い上げてきてくれたんだろう。
見た目だけに違わず、中身まで紳士的な人だ。
「あ、ありがとうございます…!」
先ほどからわたし達を追い抜いていく人達の迷惑そうな視線が痛かったので、早口にお礼を言いながら慌ててヒールへと足を入れる。
するとそれを見届けたその人が「よかったな!」なんて眩しい笑顔を残し、足早に階段を登っていってしまうではないか。ちょっ、ちょっと待って!お礼とか、電話番号とか!名前とか、やっぱり電話番号とか…!
「あのっ、」
「次からは気をつけろよな、シンデレラ?」
ニヤリ。不意に悪戯な笑みを向けられてハッと息を飲めば、再び前を向き直した広い背中が少しずつ遠ざかっていく。
「……、っ」
なんとなくこれ以上声を掛けることは躊躇われて泣く泣くその背中を見送ろうと決めると、振り向きざまにひらりと手を振られたりしたものだから切なくも頬に熱が帯びるのを感じてしまったのだった。
▼超あっさり。サボくんはとにかくスマートそう。スマートに助けてスマートに去るので、女の子側は「今度お礼にお茶でも…。」とか言う隙さえなさそう。幸せな反面、不完全燃焼!みたいな。
【キッドくんの場合】
あっ、やばい!そう思って後ろを振り向こうとするも、人の流れに押されてもはや靴がどこにいってしまったのか見当もつかない。
どうしよう、どうしよう。
焦って立ち竦んでいると、赤い髪をワイルドにスタイリングした強面のお兄さんが横を通り抜ける際に「チッ」と舌打ちしたのが聞こえてしまった。
「(そうだよね…邪魔だろうし一旦登りきろう…)」
そう決めて靴の脱げた片足を踏み出そうとすれば、頭上からさっきよりもハッキリとした舌打ちが聞こえたものだから恐る恐る顔を上げる。……やっぱり。さっきのお兄さんだ。すっげー怖い!
「オイ、退け」
「ひっ!」
ドスの効いた声に肩を震わせると、周りの人たちも自然とわたし達の周りを避けるようにして階段を登っていく……って、あ!あった!わたしの靴!
数段下に転がっていたそれを慌てて取りに行こうとするけれど、足元の高さが左右異なるのが祟ってかガクリとバランスが崩れて。い、いてて…。
「ったく鈍臭ェな」
「すっ!すみません!」
「いいからさっさと履け!」
自ら数段下がってヒールを拾い上げたその人が少し荒々しくわたしの足元にそれを置いてくれる。
……なんだこの人。
顔は怖いけど実は優しいんじゃ、
「ヒュー!キッドキャプテン優しいー!」
「人助けなんて珍しいこともあるもんだなァ」
「明日は雨が降るぞ」
「黙れテメェら!埋めんぞ!」
……うん、やっぱ怖いな。
▼一度は見て見ぬ振りするんだけど後ろ髪引かれて戻って助けちゃうタイプだったら萌えるな〜。素直じゃないから少し荒々しい感じで助けてあげてそう。そして仲間たちが全力で囃し立てる。
【ローくんの場合】
「シャンブルズ」
「えっ!アレ?靴が…?えっ?」
▼一発解決。特に接触することなく淡々と助けてくれる。隣でベポがその様子を微笑ましく眺めてたりしたら可愛い。
【エースくんの場合】
「わっ!」
右足を襲った突然の開放感。
まずい。慣れないヒールなんか履いたモンだから綺麗サッパリ脱げ落ちたんだ…!
そう思って背後を振り向こうとする。が、突如として身体が浮遊した感覚に思わず目を見開いた。
いや、だって、ええっ?!
「ちょっ、なんですかアナタ!」
「何って…。この靴落としたのお前だろ?」
「それはそうですけど…!」
だからってなんでお姫様抱っこなの!顔を真っ赤にして抗議すると、キョトンとこちらを見つめながら「あんなとこで立ち止まってたら邪魔になるじゃねェか」なんて至極まともな返しをされてグッと押し黙ってしまう。どうやら彼はこの状態のまま階段を登りきってくれるつもりらしいけれど、ちょっと待ってくれ。それは恥ずかしい!だいぶ恥ずかしい…!
「だあぁ!うるせーな!そんなに見られたくねェなら俺の方に顔向けときゃ良いだろ!」
「か、顔向けるってアナタ上裸じゃないですか!こんな近距離で裸見る方がもっと恥ずかしいです!」
「ハア?…ったく我儘だなァおまえ」
片眉を顰めてそう言われたかと思えば、肩を支えてくれていた手がパッと外されて危うくバランスを崩しかける。
「ちょっ、」
「一瞬でいいから首に腕回しとけよ」
「っ、!」
首?なにそれ超密着じゃん!なんて一瞬の迷いが生じた。なので、止むを得ずその筋肉質な肩に手をやればすぐさま視界がオレンジ色に染まり、次いで肩への支えが戻ってくる。えっと…これは?
「そんなんしかねェけど無いよりはマシだろ。上に着くまで乗せとけよ」
「…帽子?」
「落とすんじゃねーぞ」
オレンジ色のそれを少しズラして視線をあげると、くしゃりと笑みを浮かべるその人と目が合って慌てて帽子を顔に押し付けた。な、 なんだこの人よく見たらすごいイケメンじゃんヤバいじゃん…!ひいぃぃ!
「オイ、着いたぞ?降ろすから帽子退けろよ」
「や、ちょっと待って…!少しだけ熱を冷ます時間をくださいぃぃ」
「熱?…なんの?」
「(顔の…!)」
▼とりあえず運んじゃえ!派なエースくん。ひたすらフレンドリーなのでこの後「なあ、おまえこの島に詳しいか?だったら美味いメシ屋教えてくれよ!むしろ一緒に行こう!」とかってグイグイ自分のペースに巻き込むんじゃないかと思う。イイネ!
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以上、階段でクツが脱げたら…な妄想でした。お粗末様でした…!