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……終わった。
マジで終わった。
好きな女にエロ本暴露されるってどんな罰ゲームだよ悪ふざけがすぎるだろアイツ…!
「完璧にヒかれたじゃねーか…。」
船首の中央で仰向けに寝そべり鬱々と呟くも、てっぺんから降り注ぐ陽射しが眩しくて仕方ねェ。
ため息混じりに左の腕で目元を覆い隠せば、暫くして女特有の甘ったるい匂いがふわりと鼻腔を掠めた。
「ねえ、エース隊長」
このきっつい香水の匂いはアレだ。最近やたらめったら構ってくる胸のでっけえナースの姉ちゃん。エミだったかユミだったか。
そこんとこはまあ曖昧だけど。
「…なんか用か?」
「別に用ってわけでもないけど。アナタが落ち込んでるって2番隊の子に聞いたから来てみたの」
「慰めてやるよって?」
「お望みであれば喜んで。傷心中なんて絶好のチャンスでしょう?」
指先でツーっと腹のあたりをなぞられる感覚に、緩慢な動作で顔から左腕を退かす。そんでもって声の聞こえてくる方へと視線を向けてみれば、なんつーか…。一目散に目に飛び込んできたのは短いナース服から覗く鮮やかな深紅色だった。
「…お前パンツ見えてんぞ」
「見せてる、って言ったら?」
「別にどうもしねーけど」
「…相変わらず釣れないのね」
ンな顔されたってなァ…。悪ィけど今はナースのパンチラなんてどうでもいいんだよ。
不貞腐れ気味に眉を潜めたそいつを他所に、上半身を起こして後ろ髪をくしゃりと乱す。
そんなことよりも問題は――、
「…なあ、一個聞いてもいいか?」
「あら、なーに?」
「エロ本持ってる男ってやっぱヒく?」
キョトンと目を丸めるその表情を黙って見つめる。すると口元に緩く弧を描いたナースが上半身を乗り出し、ゆったりとにじり寄ってきて。
そのやらしい顔付きやら身体つきやらに、不覚にも生唾を飲んじまった。
「お、おい?」
「別に引かないわ」
「ちょっ、近ェって」
「だけどそんなの見るくらいならあたしとどう?って思うかしらね」
「……あァ、なるほど」
これは明らかに聞く相手を間違えた。なまえはそんなこと思わねェもん、たぶん。いや、絶対。
「で、どう?」
「…どうって?」
言ってることがわからねェ程鈍くはない。
だけど敢えてはぐらかして言ってみた結果、すらりと長い足が目の前を過ぎり「誘ってるつもりなんだけど?」とかなんとか言いつつ腰元に座り込まれたモンだから咄嗟に肩を押し返して距離を取る。
だってそこはマズい。
いろいろとマズい…!
「悪いけど他をあたってくれよ」
「あたしが相手じゃ興奮しないってこと?」
「いや、そういうわけじゃねーけど…。」
「っ、だったら…!」
「でもゴメン。俺がシてぇと思うのはなまえだけなん、いでっ!」
唐突に後頭部を襲った鈍い痛み。
てか今ゴンっつったぞ!なんだよ何が当たったんだよ!むしろ誰がやりやがった…!と混乱のままに後ろを振り向いてみたら、
「なっ、なんてこと言おうとしてんの!」
おにぎりの乗ったお盆を手にしたなまえが顔を真っ赤にして突っ立っていた。……あ、やべ。顔赤くしてるなまえ可愛い。すっげー可愛い。
でもちょっと待て?
今確実に聞かれちゃヤバいとこ聞かれたよな?
なんならエロ本以上に気まずいことになってるよな…?!
「いや、あのな今のは違くて!」
「…エースのえっち」
「!」
だ、ダメだ…。
それ反則だわマジで。
恥ずかしそうに頬を染めたなまえのその一言に思わず悶える。や、だって最強に可愛い。やべえ。
そんな心境の中、とにかく顔がニヤけないように必死で口元を引き締めていると、膝の上に座り込んでいたナースがスッと立ち上がったらしいのを気配で感じた。ので、背後に向けていた視線を前に戻せばその瞬間ものすごい勢いで聴診器を叩きつけられ、油断が祟ってかモロに一発くらってしまった。恐るまじ威力だな、聴診器のダイレクトアタック…!
「いってェ…。」
「人が散々誘っても靡かなかったくせに…!あの子の一言でおっ勃ってんじゃないわよ!」
「バッ、お前…!」
「もういいわ!馬鹿馬鹿しい!」
顔を赤く染め、目に涙を浮かべたナースがヒールの音を盛大に鳴らしながら遠ざかっていく。
「………」
「………」
…や、まあ、うん。あいつのプライドとか諸々ぶち壊しちまった俺も悪かったとは思う。
思う、けど…!
それにしたってなんつータチの悪ィ爆弾を投下してくれてんだよ俺もうなまえの方見れねえよ!立ち直れねえってコレ…!
(今度こそマジで終わった…。)
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エロ本と「シたい」って言われるのとじゃ次元が違うよね羞恥がすごいよねきっと…!笑
方向性を見失いつつありますがもうちょい続きます!