はなし! | ナノ


 さがしもの


任務の為にモビーを離れて数日。
日中の疲れでヘトヘトになっている中、何が面白くて運良くとれたホテルの一室で目の前の男と睨みを効かせ合わなきゃならんのだろう。

ああ、もう!早く寝たいのに…!


「まじでどこやったのエターナルポース!」
「だから知らねえって!部屋に入ってすぐこの机に置いたのお前も見てたろ!」
「それは見たけど!」
「ほら!」
「でも現にないじゃん!」


ビシッと机を指差すと、風呂上がりで頭にタオルを引っ掛けていたエースがハッとした表情を浮かべた後にゆーっくりと目を細めた。


「…そーいやその後お前イジってなかったか?」
「え?」
「ヒビが入ってるだのなんだのって持ち上げて見てたろ!」
「で、でもすぐにエースに取られたよ!見せてみろだなんだって!」
「それを更にお前が取り上げた!」
「取ってない!」


言い合いながらも、お互いに自身の周囲を探し回る。

机の下、ない!
ベッドの隙間、ない!
洗面所の周辺、ない!


「エース、そっちは?」
「やっぱりねェよ」
「ええー…。エターナルポースに足でも生えて歩いて行っちゃったのかな」
「………」
「じょ、冗談だって!そんな白けた目で見ないでよ!」


スベったみたいで恥ずかしいんですけど!とエースの肩をペシペシ叩けば、「痛え痛え」なんて半笑いの笑みを向けられてじんわりと頬が熱くなる。うっわ!こんなことなら下手な冗談なんか言わなきゃよかった!羞恥!超羞恥!


「恥は晒すわエターナルポースは無くすわ踏んだり蹴ったりだよ…。」
「もうこうなったらアレだな。島で停泊してくれてる親父達には悪ィけどビブルカードに頼って戻るしか、」
「わたし持ってきてないけど」
「オイ」
「エターナルポース預かったからいらねえって言ったのエースじゃん!無くしたらいけないから置いてこいって言ったのもエースじゃん!」
「あー…」


途端に渋い顔をしたエースのことを淡々と見つめていると、目が合うなり地鳴りのような腹の虫の叫びが聞こえて思わずズッコケそうになった。


「ちょっとエース…。」
「とりあえず何か食い行かね?」
「いやいやいや」
「腹減った」
「さっき晩ご飯食べたばっかでしょ!」
「晩飯は晩飯、夜食は夜食だ!」
「…あのね、エターナルポース失くすってかなりの緊急事態だから!わかってる?!」
「ンなこと言ったって腹が減るのも緊急事態だろうが!」
「はあ?」


こんのおバカさんめ!「お腹空いた」と「エターナルポース失くした」が同等なわけがあるか!天秤にかけたらエターナルポース側にドーンだよ瞬殺だよ…!


「悪いけど見つかるまで大人しく冷蔵庫にあるものでも食べてて!」


買い集めた食料を二人掛かりで冷蔵庫がギッチギチになるまで詰め込んだのはつい数十分前のことだ。腹が減ったと夜中に騒ぎ出すエースを見越して予め準備した貴重な食べ物だけれどやむを得ない。仕方なくGOサインを出せば素直に冷蔵庫を開いたエースがぶはっと勢いよく吹き出した。ちょっ、唾が!唾が冷蔵庫に!


「なまえ!め、メシ!メシ行くぞ!」
「いや、だから話聞いてた?エターナルポース探しが先なの!でもって冷蔵庫拭いてね!ちゃんとアルコール使って、…ぶはぁっ!」


息も絶え絶えに、肩を震わせながらゲラゲラと笑うエース。何がそんなに面白いんだろう?と隣からひょこりと冷蔵庫を覗きこんでみればなんとまあ。目の前の衝撃的な光景に思いっきり吹き出してしまった。だってナニコレ!ナニコレ!


「なっ、なんでエターナルポースが冷蔵庫に入って…!あはは!」
「すっげえ冷えてんぞ!冷てえ!」


結露で真っ白く曇ったエターナルポースを指差しふたりでひたすら笑い転げた。どっちが冷蔵庫に入れたのかなんてもうどうでもいい。意味がわからなすぎて只々おもしろかった。で、壊れたらヤべーから早いとこ温めようぜ!なんていうエースの提案にノったが最後。

ふざけたテンションで「解凍!」とまるで必殺技を繰り出すように叫んだエースが指先を炎に変えて近付けた結果、急な温度変化に耐えられなかったらしいエターナルポースがパリンと切ない音を立てて割れた。

そう、割れたのだ。


「「……。」」


一瞬のうちに充満した重たい沈黙。
それを破ったのは、今にも泣き出しそうなくらい情けない顔をしたエースだった。


「こ、こうなったら仕方ねえ…。」
「…何か案でもあるの?」
「諦めて俺とふたりでこの島で暮らそうぜ、なまえ…。」
「……ああ、うん。いいね。家庭菜園でもする?トマトとか?ナスとか?」


声色こそ明るいものの、互いの顔は恐ろしいほどに絶望の色で染まりきっている。そんな状態で暫く見つめ合っていれば、先にしびれを切らしたのはこれまたエースの方だった。


「……う、うわあああ!やっぱりイヤだ!ぜってぇヤダ!」
「わたしだって御免だよ!無理!無理無理!」
「俺と暮らすのが無理ってなんだよ失礼なヤツだな!」
「エースこそヤダってなに!心外なんですけど!」

「「………。」」


この後ふたりしてでんでん虫越しに「ごめんなさい」と「迎えにきてください」を死に物狂いで絶叫した。


(お願いじまずマルゴ隊長迎えにぎでー!)
(助けてください助けてください助けてください)
(お前ら何してんだよい…。)

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お題を元に書いてみた(^.^)
ちっとも恋愛感ないの書くのも楽しい!
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