―――『居酒屋もしゃもしゃ』

ここがわたしのバイト先。
アルバイトというものに憧れ高校入学と同時に始めたのだけれど、月日が経つのは早いものでかれこれわたしも高校3年生になった。
それと同時に、ここで働いている期間も3年目へと突入し、なかなかのベテランアルバイターとなりつつある。


「おはようございまーす!」

「おう、おはよー!」

「おはようございます!」

「おはようっ!」


慣れた足取りでプライベートルームに入れば、今日のシフトに組まれているホールメンバー数名と、キッチンメンバー数名が笑顔で迎えてくれた。
ちなみにわたしはホール兼キッチンスタッフというなんとも便利屋的な存在で、その日の状況に合わせてキッチンに入ったりホールに出たりと様々。
確か、今日のシフトではキッチン配属になっていたような気がする。


「ねえねえ、わたしって今日キッチンだよね?」

「あ、そうっすよ!俺と一緒に刺場っす!」


嬉しそうに答えてくれたのは、わたしよりも一つ年下の切原赤也少年。
モジャモジャの癖っ毛がトレードマークの、可愛い可愛い後輩君だ。


「おお、よろしくね赤也!」

「はい!こちらこそお願いします、なまえ先輩!」

「うんうん!よーし、じゃあとりあえず急いで着替えなきゃ!着替えスペースは空いてるかなーっと」

「あ、待っ、!」


焦ったような赤也の声が聞こえたけれど、誰も着替えていないだろうと高を括っていたわたしは着替えスペースのカーテンをシャーっとひいた。
そして後悔した。


「う、あ、ごめ…!」

「うわ、覗かれたー」


そこに居たのは半裸のイケメン。
もとい、キッチンメンバーの財前光。
赤也と同じく彼も一つ年下の後輩なんだけど、これがまた生意気で手を焼いているんだよね…。
遠い目をしながらもそんなことを考えれば、突然目の前のひかるに手を引かれて、一人用のせっまい着替えスペースの中に引き込まれた。


え、なにこの密着イベント。


「は?ちょ、何してんの?」「何って…、着替えるんやないんすか?」

「いやいやいや!着替えるけど!でもこんな狭い所で一緒にとか無理でしょ!」


何考えてんの、ひかる…!
そう言って精一杯の反抗を試みたけど、なんの効果も発現しなかったようでナチュラルにスルーされてしまった。わたしの先輩としての威厳の無さといったらはんぱない…。


「なんだか切なくなってくるぜ」

「は?急に何言うてはるんすか?」

「……」


………ええい、もういいや。
とりあえず、一旦外に出てひかるが着替え終わるのを待とう!わたしはその後に着替えればいいしね!
そう思ってぐるんとカーテン側に振り向けば、なんともホラーな。
カーテンの僅かな隙間からこちらを覗き混んでいる赤也と目があった。


「うわ!」

「…なにしてんの、赤也」

「いや、だって!財前の奴こんな狭いとこ二人で入って何企んでんのかなーって、ごにょこにょ」

「なんも企んでへんわ」


赤也がごにょごにょ言ってるところで、キッチンユニフォームに身を包んだひかるが中から出てきた。
顔を合わせて早々に、何やら二人でゴタゴタ言い合っていたけれど、ふとわたしの方を振り向いたひかるが一言。


「どーでもええっすけどなまえさん、はよ着替えんとあと5分で時間っすよ」

「え」


その言葉に反応して時計を見れば、確かに指針は17:55を指していてわたしの入り時間までのタイムリミットを一刻一刻と刻んでいる。
な、なんということだ…!


「うっわ、ちょ、やばい!わたしも急いで着替えて出るから二人は先に行ってて!」

「あ、はい!わかりました!」

「ほな先行っとりますわ」


そんな後輩達の声を背に受けて、マッハスピードで着替えスペースに飛び込んだわたしが、まさかひかるの置き忘れた学校指定ベルトに躓いて転ぶだなんて。

予想外すぎる展開だわ、チクショー!


出勤時間まであと少し


(ううう、痛い痛い痛い!顔面打った…!)
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拍手に載せていたお礼文、居酒屋シリーズPart1です!
ひかるに更衣室に引っ張り込まれたいです…!
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