シフトに組まれているメンバー全員に挨拶をしてからキッチンへと入り、今日の持ち場である刺場へと足を急がせる。
先ほどひかるが置き去りにしたベルトで負傷したせいで、5分程入り時間が遅れてしまっているのです、はい…!


「あ、なまえ先輩!」

「遅くなってごめんね、赤也!」

「いや、全然大丈夫ッスよ!まだお客さん少なくてオーダーも入ってこなかったんで!」


そう言って、にぱあっと笑顔を浮かべる赤也。
うん、なんという素敵スマイル…!
今日は一日赤也と二人で刺場担当だし、作業中も明一杯癒してもらおうっと!


「ありがとう、そしたら早速明日の盛り置き作っていこっか!」

「はい!んじゃあ俺シーザーサラダの盛り置きからやるッス!」

「おっけ!それならわたしはお漬物盛り合わせからやるよ!」



そう分担を決めてから、早々と互いの作業に取り掛かる。
お店が混む頃までに大方のスタンバイを終わらせておかないと、わたし達高校生が上がった後の社員さん達が大変になっちゃうからね…!

「…っと、ドリンカーも暇そうだね?」


刺場の隣に位置するドリンカー。
いわゆる飲み物作成係なのだけれど、今はオーダーも入っていないし、中々に暇そうだったから声をかけてみる。


「え、いや、暇じゃねーし!」

「嘘だ!今ぼけっとしてたじゃん!」

「ぼけっとしてたんじゃなくて精神統一してたんだよ!」


焦ったように大声を出すおかっぱ君。
名前は向日岳人といって、わたしと同じく高校3年生。
いやしかし、何が精神統一だと言うんだこのバカチンが!。
どうせ暇以外のなんでもないんだから、容赦なくこっちのスタンバイを手伝わさせてもらおうと思う。


「はいこれ!がっくんは野菜スティックの野菜カット担当ね!」

「うっわ、まじかよ!」

「まじ!終わったら次の仕事授けるから声かけてね!」


ニコリと微笑み付きで言ってみれば、がっくんは遠い目をしながらも素直に作業に取り組み始めた。
うんうん、ありがとうがっくん!



* * *



「なまえせんぱーい、俺これの切り方わかんねーっす!」

「んー、どれどれ?」

「このマリネに乗っけるアボガドなんすけど…、」


そう言って眉を八の字に下げながらアボガドを差し出してくる赤也。
その姿からは「困ってますオーラ」が分かりやすいくらいに剥き出しになっていて、なんだか可愛いらしいなあ、なんて。
よーし、ここは先輩のわたしがレクチャーしてあげようではないか…!


「これはね、コツがあるんだよ!」

「ええ、まじっすか!んじゃあそのコツってやつ教えてください!」

「うん!そしたらまずはアボガドをこう持って、」

「!、え、ちょ!先輩…?!」

「え?」



なるべくわかりやすく教えようと、赤也の背後に回ってアボカドを持つ右手に軽く手を重ねたその時だった。
突然焦り始めた赤也がどもりながらも大きく声を張り上げたのである。
その大声に驚いて思わず手を止めれば、ぐるんとわたしの方を振り向いた目の前のもじゃっこ少年。

気のせいだろうか、その顔はほんのりと赤く染まっているようにも見える。


「ちょ、どうしたの赤也?」

「ど、どうしたもこうしたも…!」

「え、え、え?!」

「と、とりあえずちょっと離れてくださいいい!」

「ぶはっ!」


焦る赤也につられてわたしまでキョドり始めていると、何やら隣から盛大に噴き出す音が聞こえてきた。
その音を辿るように「え?」と横を向けば、そこには肩を震わせてゲラゲラ笑っているがっくん。
なにこれ、どういうこと…!


「き、切原!お前顔赤すぎだろ…!」

「なっ、誰でもあんなんされたら意識するじゃないっすか!し、しかもあの近さっすよ…!」

「っ、!」

「だからって…!ぎゃははは!」


大笑いするがっくんとその姿をじとーっと横目で見ている赤也を前にして、ずずーんと一人頭を抱えるわたし。
今の男子二人の会話を思い返せば自分が何をやらかしたのかなんて容易にわかってしまったというわけで、襲いかかってくる絶望感ったら半端ない。


なにこれ、わたし只のボディタッチの激しい変態女みたいじゃん…!
は、恥ずかしすぎる!!!!


荒ぶった脳内でそんなことを考えながら唖然としていれば、その様子を視界に入れたがっくんが更に激しく笑い出すもんだから余計切なくなった。
と、とりあえず……、


全てはアボガドのせいだ…!


(もうほんとごめんね赤也!)

(え、いや、どっちかっつーと俺的にはラッキーだったんで謝んないでください!)

(ら、ラッキーって…!)

(ぶは、切原素直すぎ!まじウケる!)

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赤也はとことん素直でいればいいよ…!
でもって個人的にがっくんの笑い方は「ぎゃははは!」であってほしい派です(´・_・`)
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