「オレンジジュースが1本にアップルジュースが1本。で、牛乳が2本にお茶類が0…?」
「そ、そんな感じなんだよね…。」
「いくら数本ずつ在庫抱えてるっていっても流石に不安です、店長」
ズバリと正論を叩きつければ、目の前で身を縮こまらせていた店長が更に縮こまってしまった。
ちょ、そんな反応されたら罪悪感湧くからやめて…!
「ほんとごめんね、今日に限って社員俺しかいないから買い出しにも出れなくて……。い、行ってくれるかなー?」
ちょっと待て、なんだその軽いノリは。この状況で「いいともー!」なんて言わないぞ!
絶対言わないからな、わたしは…!
心底申し訳なさそうな表情と、その発言のちぐはぐ具合に思わず目を細める。
すると、わたしの塩辛い反応を見てあからさまにワタワタと慌て出した。
「や、本当すみません。代わりに買い出しお願いします!」
「…わかりました」
パチンと手を合わせる店長を前に、今度は素直に首を縦に振る。
いやまあ、社員が店長以外休みなのは本当だからね。
お店を空けれないっていうのもわかるし。
……うし、ここは一肌脱ぎましょうとも!
「向かいのスーパーでいいんですよね?」
「う、うん!本当に助かるよ、ありがとう!」
そんなこんなで嬉しそうな笑顔を浮かべた店長からお礼の言葉と共に「はい、これ」とお金とメモを渡された。
買い出しリストとその軍資金である。
………って、え?
何気なく開いたメモを片手に、思わずピシリと固まる。
いやいやいや、だってコレ…!
「ちょ、待って店長!なにこの買い出しの量!」
「…いや、ね?さっき発注確認したら明日の分も少し不安でさ…。」
如何にも気まずそうに目を逸らす店長相手に、わなわなと肩が震える。
アップルジュース4、オレンジジュース4、ウーロン茶5、牛乳4?!
こんなんノーマル女子高生がひとりで運べるわけあるか…!
「よーくわかりました。店長はわたしのことをゴリラかなんかと勘違いしてるんですね」
「違っ、あああ!芥川くん、いいところに!ちょっと来て!」
手を洗うため厨房へと入ってきたジローくんに店長が声を張る。
すると目をパチクリさせながらゆったり歩いてきて「どしたの店長?」と小さく小首を傾げた。……くそう、かわいい。
「ちょっと今からみょうじさんに買い出し行ってもらうんだけど、女の子ひとりじゃキツい量だから一緒に行ってもらってもいい?」
チラチラとわたしの顔色を伺いながら早口で捲し立てる店長にグッとグーサインを送る。
そうですよね、この場合どう考えても助っ人が必要ですよね!
ナイスジャッジです、店長。
「えっ、俺でいいの?」
「もちろん!よろし、」
「やったー!まじまじ?デートじゃんコレ!」
ぶわっとテンションが急上昇したジローくんに手を引かれ、驚く店長をそのままに店内を駆け抜ける。
ちょっ!ちょっとジローくん…!
まだ開店してまもないけど数組お客さんいるから!危ないって!
そんな心の叫びも虚しく、2人揃ってバイトの制服姿のまま店の外へと飛び出した。
じ、ジローくんてば見かけによらず力強いなマジで。
「ねえ、そーいえば何買うの?」
隣を歩いていたジローくんにふと顔を覗き込まれる。
案外距離の近いそれに思わず身体を引くものの、何故か未だ繋がれたままの左手のせいであまり状況を打開できていない。
なんだろう、ジローくんって天然プレイボーイ?
「えっと、コレ」
「うっわ、すげー量!」
「だよね!わたしひとりじゃ絶対無理だったよー!ありがとう、ジローくん」
へへっと笑いながら、どさくさに紛れて繋がれた手を外そうと大きく振ったりしてみたけど逆にぎゅうっと力が強まった。なんでだ。
「あのさー」
「う、うん?」
「俺もっともっとなまえちゃんと仲良くなりてーんだけど!」
「……え?わたしと?」
困惑気味に聞けば「そう!」と大きく頷かれる。
スーパーの入り口にあるカートに籠を乗せて、ひんやりした店内へと足を踏み込むと続けざまに隣から声がかかった。
「だってなまえちゃん俺と距離置いてるっしょ?」
「ええっ」
単刀直入にツッコんできたジローくんに思わず目を見開く。
や、まあ、うん…。正直そうかもしれない。比較的最近入ってきたジローくんは、ブン太やがっくんといる時以外ローテンションなことが多くてちょっと怖かった。髪も金だし。オシャレパーマぽいし。
だけど……、
「そんなあからさまに態度に出てた…?」
ドリンクコーナーで紙パックのオレンジジュース片手に聞くと、何食わぬ顔で「ちょっとね」と言って笑顔を浮かべたジローくん。
……どうしよう、本日二度目の罪悪感だ。
「ご、ごめん。実はジローくんのことちょっと怖いなあって思ってた」
「えー!なんでなんで!」
「テンション低いときは機嫌悪いのかなーとか」
「それは眠いだけ!」
「金髪だし」
「仁王なんか銀じゃん!」
「…たしかに」
そうか、言われてみれば銀の方が不良感あるわ。
妙に納得してジローくんに目を向ければ「ホラ、もう怖くないっしょ?」なんてふにゃりと笑顔を浮かべるものだからつられて頬が緩む。
……ああ、わたしってばこの数か月間とっても勿体ないことをしたのかもしれない。
「もっと早くジローくんと仲良くなればよかったなあ」
買い物リストの最後に書かれた牛乳を籠に入れつつ小さく呟く。
すると、ボヤキをしっかりとキャッチしたジローくんが「今からでも遅くねーって!」なんて笑いながらさっきみたくわたしの手を力強く掴んだのだった。
新たな友情が芽生えました!
(俺なまえちゃんとはぜってー仲良くなれると思ってたC〜)
(そうなの?)
(うん!だってなんか岳人と似てるからさー)
(それは心外だわ、なんでがっくん。わたしあんなに騒がしくない!)
(えー?ちょー似てんじゃん!)
(ええええ…。)
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覚醒時ジロ―くんのペースに巻き込まれてみたい!