「すみません、4卓様から料理のご性急入りました!」

「22卓様もです!お願いします!」

「15卓様、ドリンクのご性急です!」


繁盛している店内のあちこちから、ホールメンバーの性急の声が上がる。
いやあ、こりゃあ今日はとことんやばいわ…!
それもこれも華の金曜日と世の社会人様の給料日が重なってしまったからで、ホールもキッチンも19時に入った辺りから激しくてんてこ舞いなのである。

バイト入る前にレッドブル飲んどいて正解だったよ、まじで!


「ごめんみょうじさん、ちょっと揚げ場のヘルプで中入ってもらってもいい?」


それぞれの卓に料理を運び終えキッチンとホールとを繋ぐ定位置へと早足で戻れば、唐突に店長からそんな使命を言い渡されたので二つ返事で頷き、中へと足を急がせる。
そしてそのまま揚げ場へと直行すれば、そこでは本日の揚げ場担当であるひかるが忙しなく注文の料理を作り上げていた。

よおおし、手伝うよひかる…!


「ひかる!助太刀に参った!」

「うわ、ホンマすか。正直かなり助かります」


額にじんわり汗を滲ませているひかるがふわりと小さく笑う。
お、おおう。色気がハンパないぜ、ひかる君よう…!
…っと、そんなこと考えてる場合じゃない!
とりあえずひかるが手を付けてない物から手伝っていこう!


「じゃあわたし今注文入ってる分の唐揚げと揚げパスタやっちゃうね!」

「おん、ほんなら俺ヤキソバとかその辺の鉄板系やりますわ」


そんな会話を合図に、お互いせかせかと手元を動かし始める。
唐揚げは粉を塗して油槽に突っ込みタイマーをかけ、その隣で同時に揚げパスタを作成する。
でもって揚げあがるまでにお皿に決められた分量のサニーレタスを準備…!

だけれどその作業を進める間にも次々に注文が舞い込んでくるものだから、ひかるに引き続き鉄板系の注文が入った旨を伝え、自らは揚げ物系の注文に手を付ける。
いっやあ、本当鬼畜的に忙しいなこの時間帯…!


「って、天ぷら粉なくなったし!まじか!」


この忙しい時に補充系が追いつかないのはだいぶ痛い。
なので、直ぐ様補充しようと元の物を探すけれど、…ない。
いつもの場所にないよ、天ぷら粉!


「あ、あれ?ひかる、天ぷら粉知らない?」


キョロキョロと辺りを見回しながらひかるに問いかける。
すると「なんや置き位置変わったみたいなんすよね」なんて言いつつ近づいて来たひかるがわたしの背後へと立ち、ぐっと背伸びをしてわたし達の正面上にある一番上部の棚を開けた。


「確かこの辺やったと思うんすけど…、」

「ご、ごめんね!この忙しい時に」

「や、大丈夫なんで気にせんといてください」


そう言って引き続きガサガサと棚を漁るひかる。
……ど、どうしよう。わたし退けばよかったな。
なんだか後ろから覆い被さられてるこの体勢、距離とか近くてだいぶ恥ずかしい…!


「うっ、あ、なかったら新しいの持ってくるよ!」

「あー、とりあえず今はその方がええかもしれんすね」


探しとる間にも注文たまってきてもうたし、と繋げるひかるに「合点承知!」なんて応答して急いでひかるの下から潜り出ると納品棚の方へとダッシュした。
だって、今絶対顔とか赤いし!見られたら恥ずかしすぎるし…!
揚げ場と納品棚のこの往復間でどうにか熱を引っ込めなければ!


――ピピピ


とまあそんなこんなで急いで天ぷら粉を取得して戻ってくれば、先ほどセットしておいた唐揚げと揚げパスタのタイマーがわたしを呼んでいるではないか。
よしよし、ナイスタイミング…!
そのまま唐揚げを油切りに一度起き、他の注文が入っているものを油槽に次々突っ込む。


が、しかし。
ここで事件は起こったのである。


「うっぎゃ!熱!あつつつ!」


そう、急いで油槽にポンポン突っ込んでいたのが原因してあっつあつの油が思い切り腕へと跳ねてきたのだ。

反射ですぐに油は拭ったけれど、火傷は暫く冷やさないと後が長引くからなあ…なんて思う一方、とりあえずは注文を切ってからの方がいいかという考えの方が勝ってしまって。

引き続き作業を続けようと手を動かせば、即座にガシっと右腕が掴まれ作業の手を静止させられた。


「え、ひか、ってうわ!」


わたしの腕を掴んでいるひかるに声をかけようとすれば、その腕をぐいっと引かれて勢いよく水をぶっかけられる。
…少し、いやだいぶ沁みる。超ヒリヒリする!


「いででで…。」

「………」

「ひかる?あ、痛!」

「…ヤケド、すぐ冷やさな痕になってまいますよ」

「え、あ、うん」

「………」


なんだか黙りこくってるひかるから少し怒ってますオーラを感じる気がしたから、控えめに「今度から気をつけるね」と呟いてみれば、小さな声で「…おん」と返ってきた。

…これはきっとひかるなりに心配してくれてるんだろうなあ。
そんなことを思ったら、自然と頬が緩んでしまう。


「ひかる、もう大丈夫だよ!ありがとう!」


キュッと蛇口を捻り水を止めてそう言えば、ひかるのひんやりとした左手がふわりと離れていく。
そしてそのまま注文を作りに戻るんだろうと思っていれば、去り際に悪戯な表情を浮かべたひかるがポツリと一言殺し文句を置いていきやがった。



もし傷が残ってもうたら俺が貰てあげましょーか、なまえ先輩んこと



(ちょ、そ、それってプロポーズ!?)

(ま、冗談すけどね)

(じょ、冗談か…!)

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ひかるくんに怒られたいです!
後ろから覆い被さられたいです!(笑)
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