「蔵の焼き加減ってほんと絶妙だよね!」

「せやろー?マニュアル覚えるん苦労したんやで」


そう言って、ふわりと爽やかな笑みを浮かべるこのイケメンは白石蔵ノ介。
わたしと同じく高校三年生の代で、更に言えばここでバイトを始めたのもほぼ同じ時期という、謂わば同期の仲だったりするのである。
そんな蔵の調理の仕方はマニュアルにとても忠実で、見た目も味付けも文句なしの一品を作り上げる。

いや、もうね!これがまた本当に美味しそうなんですよ!
今だって、網の上で焼かれている鶏モモを前にヨダレが…!


「むっちゃ美味しそう…!」

「そないに褒めちぎっても何も出ーへんで?」

「知ってるー」


今日わたしが任されているのは刺し場なので、注文で入ったサラダやお刺身を作りながら、左隣に位置している焼き場の担当である蔵とそんな会話を交える。
ちなみに右隣に位置するドリンカーを担当しているのは社員さんで、「ふたりとも本当に仲良いよねー」なんてしみじみと笑顔を向けられてしまった。

な、なんか改めて言われると少し小っ恥ずかしい…!


「……あ、そういえば」

「ん?」

「この前ホールの女子軍が蔵くんかっこいいーて騒いでたよ」

「なん、今丸井くんブームとちゃうかったん?」

「それもあるけど、なんか焼き場で汗滲ませてる蔵の色気がどうのこうのって力説されたっていうね」


まあ確かに蔵の色気は尋常じゃないよなあ、って共感できる。
お店が混んでて注文が殺到してる時なんて、つうっと頬を流れる汗がどことなくセクシーだったりするもん。
わかる、わかるぞ女子軍のみなさん!

そんなことを思いつつ盛り付け終わったサラダにラップをかけていると、ふと隣に立つ蔵からの声が止んだことに気が付く。
そのことを不思議に思ってくるっと隣に顔を向ければ、そこには腕で目元を擦っている蔵の姿があったわけで。

え、なに、どうしたんだろう?



「く、蔵?目痒いの?」

「や、なんか入ったみたいで痛い。ゴロゴロすんねんけど」

「えー、ちょっと見せてみ」


作業していた手を綺麗に洗い流し、蔵の方へと二、三歩歩み寄る。
すると、素直に腕を退けた蔵がわたしの方へと顔を向けてくれた。

……でも顔の位置が高すぎてよく見えないですね、これじゃあ。


そんな切ない思いを胸に、身長の高い蔵を恨めしげに見つめてみるも、何故かフッと小さく笑われてしまったからわからない。
今のどこに面白い要素があったのか。
十文字以内の簡潔な説明を求める…!


「ちょ、蔵?」

「ああ、すまんすまん。ほな、はい」


そう言った蔵が、今度は小さく膝を折ってわたしの目線程に高さを合わせてくれた。
どうやらわたしが身長差のことで困っていたことには気がついていたらしい。
つまりは、気付いている上でわたしのことを上から見下ろしてたのかこいつ…!
わかっていたなら最初からしゃがんでくれればいいものを、おかげで自分の身長の低さが浮き彫りになったわちくしょう!


「蔵のアホめ!」

「え、なんで怒ってるん?」

「わたしのことをチビだと嘲笑ったからに決まってるでしょうが!」


蔵の頬に手を添えて、異物感のあるらしい右目を覗き込みながらそんなことを言い合う。
当の蔵は「嘲笑ったって…、俺が?」なんてキョトンとしているけれど、こっちはちゃんと目撃したんだからね!
わたしのことを見下ろしながらフッと笑ったあの一瞬の笑みを…!


「あ!ていうか異物の正体発見!なんか入ってる!」

「わ、ほんま?でも俺目薬とか持ってへん!どないしよ!」

「わたしのでよければ貸すけどどうする?」


ポケットから目薬を取り出して蔵へと問いかけてみる。
目薬って貸し借りするのあんまりよくないらしいからね!蔵がそういうのを気にするようだったら大人しく引っ込めるつもりで、一応の確認をする。
すると、今度は膝折から完璧なしゃがみ体勢へと変えて、更に姿勢を低くした蔵。

えっと……、これは?


「やって」

「え?」

「俺目薬やるん苦手やねん、せやからなまえやってくれへん?」

「あ、うん、それは別にいいけど…。」

「おおきに、ほんなら頼むわ」


申し訳なさそうに眉を下げて言う蔵に、「じゃあいくよー」と声をかけてゆっくり目薬を近づければ、突如ビクンと大きく震えた蔵の身体。


「え…、」


そんな反応を前にパチクリと瞬きを繰り返していると、少し恥ずかしそうに頬を掻いた蔵が「…ほんま目薬入れるん苦手やねん」なんて小さな声で呟くものだから、思わずバッ!と口元を押さえ込んだりしてしまったわけで。


…ああ、もう!恥じらってる姿さえもサマになるだなんて!



これだからイケメンという生き物は…!


(ちゅーか、ちゃうねん!)

(ちゃうって…、なにが?)

(さっき言われたこと思い返してんけどな、俺別に嘲笑ったわけとちゃうねんて)

(いやいやいや、あれは確実に嘲笑ってた!)

(せやからそうやなくて!上目遣いかわええなー思とったら自然とほっぺ緩んでもうてん!嘲笑っとったんとちゃう!)

(……は?え?なに、か、かわ、かわええ?!)

(おん、上目遣いでこっち見とんの可愛かってん)

(っ、…!)

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白石くんはサラっと「可愛い」とか言っちゃえばいいと思います!(´・ω・`)
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