「うわ、お姉さん可愛いねー!」

「はあ、どうも…。」

「高校生くらい?」

「はい、まあ。」

「おお、ちょっとツンな感じもいいね!俺ツンデレな子好きでさー!」



……えっと、とりあえずこの状況をどうしてくれようか。

今日はホールメンバーが少ないということで、接客や出来上がった料理を運ぶホール要員としてせかせか動いていたわけだけれど、絶賛お兄さん方に絡まれているなうです。
見た感じでいうと20代前半…、くらいかな。
まだ若さ漂う目の前の彼らは随分と酔いが回っているらしく、偉く饒舌である。


「あの、すみません。わたしこの辺で失礼させて頂き、」

「えええ!もうちょい話そうって!」

「そうだよ、もっとツンデレ発揮しちゃってよー!」


明るい茶髪をワックスで無造作に盛っているお兄さんにくいっと手首を引かれる。
や、ちょっとこっちは仕事なんでね。
まじで困りますよ、お兄さん。
そんな思いを胸に、へらりと苦笑いを零せば「あ、笑った!かわいい〜」なんて他のお兄さんが騒ぎ立てるものだから心底お手上げである。

こんなところをがっくんにでも見られたりしたら大いに大爆笑されること間違いなしだと思う。「え、可愛いってこいつが?!」とか言って例のギャハハハ笑い炸裂ですよ。

……というより4人いて全員が全員ガチ酔いってちょっとタチが悪いなあ、なんて。
あ、いや、ごめんなさい。
お客様は神様ですからね。
そんなこと考えたらいけませんよね。
反省、反省…!


「それよりお前どんだけツンデレ好きなの!ウケる!」

「まあお姉さんならツンデレ抜きにしても全然可愛いけどー」


お次は、心なしかトロンとした目で見つめられてそんなことを囁かれる。
うげ、ちょ、これはさすがにサブイボが!
ていうかそんなにもツンデレがお好みであれば当店ご自慢のツンデレ担当連れて来ますけど!うちには財前くんと越前くんていう最高の人員が揃ってますんでね…!


「あ、そうだ!お姉さん彼氏とかいんの?」

「ちなみにカップはー?」

「いや、お前それはセクハラっしょ!」


おいおいおいおい。
……本気でそろそろ解放してくれないかな。
段々イライラのボルテージが上昇してきた。
いくら「お客様は神様精神」を持ち合わせていたとしても怒る時は怒りますよ。
アントニオのごとく強力パンチ繰り出しますけどどうしますか。


「ねえねえ、じゃあさー、」

「すみません、失礼しまーす!こちらポテトの盛り合わせです!」

「え、あ、ブン太…。」


不意に現れたブン太がテーブルの上にポテトの乗ったお皿をコトリと置く。
だけど当のお兄さん達はポテトなんて頼んでないけど…、と不思議そうな表情を浮かべていて、つられてわたしも首を小さく傾げた。
注文してないってことはオーダーミス?


「ごめん、多分俺らのとこのじゃないんじゃない?」


相変わらず目をトロンとさせているお兄さんが笑顔を浮かべながらそう一言。
するとその言葉を受け取ったブン太は大きな目をパチクリさせたあとにニコリと満面の笑みを浮かべたのである。
う…、かわいい。女として負けた気がするわ、これ…!


「いや、これ俺からのサービスっす!」

「サービス?」

「はい!お兄さん達めっちゃイケてるんで特別に!」


そう言ったブン太がさりげなくわたしの腕を引っ張ってお兄さん達から引き離すと、これまたさりげなく親指でくいっとメンバー達のいる方を指差した。
きっと「ここは俺に任せてお前はあっち戻ってろ」ってことだと思う。
でもそれだと次はブン太が捕まっちゃうし、とその広い背中を見つめれば、ちらっとこちらを振り向いたブン太に優しく肩を押されてしまった。


(大丈夫だから!行け!)


にーっと頼もしい笑顔を浮かべながらも潜めた声でそんなことを言われ、なんだかもう素直に頷く他に選択肢なんかないような気がして、こくりと小さく首を振る。
そして小走りにホールメンバーの立ち位置へと戻れば、それはもう心配そうな顔をした後輩の女の子達が一目散に集まってくるではないか。


「なまえ先輩!大丈夫でしたか?!」

「気付いてたんですけど助けてあげられなくてごめんなさい…!」

「え、えええ!もう全然大丈夫!本当気にしないでみんな!」


次々にかけられる優しい言葉にぱあっと感動を覚えていると、そこから立て続けに呼び出しや料理提供が重なって、みんながそれぞれのやるべき動作へと戻っていく。
勿論わたしも例外でなく、ドリンカーで出された飲み物を両手に指定された席へと足を急がせようとする。が、しかし。ここで問題が発生したのである。


「(に、25卓ってさっきのお兄さんのところだ…。)」


せっかくブン太が遠ざけてくれたのにまた近づくことになるとは。
もはや宿命なんですかね、これ。
ハア、とため息がこぼれそうになるのを抑えながらも「まあ行くしかあるまい!」と決意を固めれば、ふと右手のジョッキがわたしの手から離れていく感覚。

その突然の物理的移動に「え?」と驚きの視線を向ければそこには――、



「この卓の料理提供は全部俺がやっから、なまえは違うとこ運んで!」

「ぶ、ブン太…、」

「おら、返事は?」

「え、あ、うん!……あ、ありがとう!」


異様に優男なブン太へと素直にお礼の言葉を紡ぐ。
するとキョトンとした表情から一変、ニッと明るい笑顔を携えながら「どーいたしましてっ!」と空いてる方の手で頬を摘まれて、思わずわたしの頬までゆるりと緩みきってしまったのがわかった。


…まあでもやっぱり、ブン太の笑顔を前にすると敗北感しかないですね、うん。



兄貴気質のスーパーマン!


(あの時のブン太先輩すっごいかっこよかったよね…!)

(わかる!あのさりげなく助けた感じがやばかった!)

(あんなふうに助けてもらえたら惚れちゃうよね…!)

(((きゃあああ!)))

 
 後輩女子軍の間でブン太先輩ブームが到来

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きっとブン太はピンチの時にさらりと助けてくれるかと^^
そして後輩女の子ーズからの支持が物凄そうです…!!!
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