「いやあ、図書委員にしといてほんと正解だった!」

「はあ…、そっすか」



図書委員に与えられた指定教室。
迷うことなくひかるの後座席に腰を下ろせば、溜息と共になんとも力の抜けた返事が返ってきた。

でもまあ、これがひかるの通常運行だから気にしない。
むしろここで「ほんま正解っすわ!俺もなまえ先輩と同じ委員会になれてハッピー!」なんて言われた暁にはまじで病院に連れていくと思う。そんなひかる怖すぎる。


「ひかるはこのツンツン具合がチャームポイントだもんねー」

「なんすか急に」

「まあでも素直なデレひかるも悪くないかな!……むふ!」

「勝手に俺んこと変な妄想に出演させんといてください」


ガガガっと机を前に押し出し距離を取ろうとするひかるの顔は、それはもう不愉快感を大放出させている。
ふふん、甘いなひかる!
わたしはそんな嫌そうな顔でさえ大好物なんだぞう。


「ねー、ひかるー」

「……今度はなんすか」

「いつものことながらパンツ見えてるよー。黒に青の星柄ちょーかわいいね。…あ、でもなんか謙也ぽい!スピードスターや!って感じ?」

「最後の方喧嘩売ってると見なしてええんすよね?また噛みますよ」


言うや否や、歯をカチカチ鳴らし始めるひかる。
それを見て血の気が引いたわたしは即座に首を振って否定の意を表すと、何度も謝罪の言葉を繰り返した。
あんなに痛いのはもうこりごりだよ…!


「てかなまえ先輩、委員長副委員長揃ったんでそろそろ口チャックしましょ」

「はーい」


教卓に立つ委員会と副委員長を見て、ひかるに言われた通りお口をチャックする。

そこからは、今月の委員目標だとか、新刊についてだとか活動についての話合いが進んでいき、今は"先月の貸し出し達成率"について話し合われている。

まあ何を意見するわけでもないから暇なんだけどね。暇ぽよ。
そんなことを考えていたら、前にいるひかるの後ろ姿も心なしか暇そうに見えてきた。
…ちょっと聞いてみようか。



すすすっ



「!、ちょ、なんすか」

「しー!ひかるん静かに!」

「静かにて…、なまえ先輩がちょっかい出してきたんやないですか」

「まあまあ!今から背中文字書くから当ててー」

「背中文字?」

「うん。あんまり喋ると怒られちゃうからさ、背中文字で会話しよ」

「………おん」


すごく。
すっっっごく、仕方なさげに前を向き直したひかるの背中に改めて指を伸ばす。
そしてわかりやすいように、ゆっくりゆっくりと平仮名を綴ってみた。


ひ、ま、?


わ、わかったかな…?


「これ返事はどう返せばええんすか?」

「あ、じゃあひかるはわたしの掌に書いて!」


小さな声で伝えてバッと右手を差し出すと、わたしの掌に応えを綴り始めたひかる。
ええっと…?



ひ、ま、っ、す、わ


おおっ、やっぱり…!
予想が当たってたことと、こういう方法で会話出来てることが嬉しくてふにゃりと頬が緩む。
すると、わたしの顔をじっと見ていたひかるが更に何かを書き始めた。

んっと……?


あ、ほ、づ、ら


あ、アホヅラ…?!
単語を解読した途端、自分の眉間にぐっとシワが寄ったのがわかる。
しかしそんなわたしとは反対に、ふわりと笑顔を浮かべたひかるが続けて文字を書き始めた。


せ、ん、ぱ、 い、か、わ、え、 え、っ、す、わ


……………え。
かわええっすわ、って。
え、ええええええええ!

「ひ、ひひひかっ!ひかっ!」



すすすーっ


な、ん、ち、ゃ、っ、て



「え……、は?な、なんちゃって?」

「おん。なんちゃって」


べっと舌を出したひかるは、とても楽しそうに笑ってて。
一拍置いた後に、からかわれたんだってことに気が付いた。

こっ、こんの小悪魔ひかるんめ…!
一瞬でも舞い上がった自分が恥ずかしすぎる!
穴があるなら入りたいってこういうことかあああ!


「ううっ、ひかるのアホー!」

「ほんっまなまえ先輩見てると飽きひんっすわー」

「そんなの知らん!わたしの喜びを返せひかるー!」



(ちょっと、そこのみょうじさんと財前君!さっきから煩いんやけど!)

(ううっ、委員長ー!ひかるがいじめるんですー!乙女の心を弄んだんですー!)

(人聞き悪いこと言わんといてくださいー)
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委員会が一緒って美味しいですよね!
学年が違うなら尚更に…!!

財前きゅんはああ言いましたけど、あれが照れ隠しだったりするといいな。
実際は可愛いと思ってるんだけど素直になれない、的な!
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