「ねえ、小春ちゃん!あれやろ!太鼓の達人!」

「あら!ええわよん!」


「なまえちゃ〜ん!次はこれやらへん?」

「リズム天国だ!いいね!やろやろ!」


「わあ!あっちUFOキャッチャーコーナーだって!」

「いやん!むっちゃ広いわ〜!」

「きゃー!」

「や〜ん!」


とまあ突然ですが、部活終わりに小春ちゃんとゲーセンデートなう。
つい先日駅前にオープンしたばかりの大規模ゲーセンに来てるんだけどね、これがもうやばい!
何がどうやばいかって、そりゃあもう楽しすぎてやばい…!


「なあなあ、なまえちゃん前にこのキャラクター好き言うてへんかった〜?」

「どれどれ?……って、クマちょびじゃん!好き好き!めっちゃ好きだよ!」


鼻息を荒くしつつ、ガラス越しにいる特大サイズのクマちょびをガン見してみる。
うううん、やっぱりかわいい…!
可愛らしいクマの輪郭に配置される鋭い目。口はへの字に固く結ばれ、むすっとした表情を浮かべている。
極めつけに、耳にはゴッツイピアスなんかを着けていて中々の貫禄だ。
けれどこれがまたどことなくひかると被って心を擽られるんだよね!きゃっ!


「いっやあ、これは是非ほしい!…けどわたしUFOキャッチャード下手なんだよね」

「あたしもあんまり得意やないからこんなでっかいのは取ってあげられんと思うしなあ…。」

「「………」」


ふたりしてしょぼんと肩を落とす。
もしこれが小さいぬいぐるみだったら可能性もあるんだろうけど、小春ちゃんの言うとおり大きい景品って難しいもんね。
悔しいけど諦めるしか……、


「…あれ?」

「どないしたんなまえちゃん……、ってひかるやないの!」


ガラスに反射して映るひかるらしき人物を見つめて固まっていると、隣にいた小春ちゃんがくるんと後ろを振り向きその名を呼ぶ。

どうやらわたしがガラスの反射で見ていた"ひかるらしき人物"は、本物のひかるで合っていたらしい。
いやあ、ひかるへの愛が膨大すぎる故に幻覚でも見てるのかと思ったよ…!
まあ、それにしても……、


「さっきぶりだね、ひかるぅぅぅ!」

「ちょ、ひっつかんといてください。重いんで」

「ひっつきますー偶然会えたことに対して喜びの密着ですー」

「………」


ひかるの浮かべた嫌そうな表情には見て見ぬ振りをして、回した腕にぎゅうううっと力を込めてみる。
うわあ、ひかるん筋肉質…!


「なあ、それにしてもひかるんは誰と来てはるの?」

「なっ!ちょ、もしや!」


か、かかか彼女とか言わないよね?!
脳内に過った不安を躊躇なく口にすれば、スッと目を細めたひかる。

その仕草は肯定なのか否定なのか…!

しがみついていた腕をパッと解いて、恐る恐る表情と反応とを伺い見る。
すると、一拍ほど置いて「俺にそんなもんおらんの知っとりますやん」と一言。


うっわ、うっわ!まじでよかった…!
もしここで彼女いるとかカミングアウトされてたら、わたし小春ちゃんの胸を借りてわんさか泣き喚いてるところだったよ!泣きすぎてダミ声になっちゃうところだったよ!某猫型ロボットだよ!


「ほなお友達と?」

「おん、部活終わってそのまま二年のやつらと来とるんすわ」

「あら、そーやったん!ほんならあたしらと一緒やね〜!」


そう言って、小春ちゃんがわたしの腕に自分の腕をぎゅうっと絡める。
な、なんたる可愛い仕草だろう…。
あまりにも女子力高めな仕草にキュンキュンしていると、不意に制服のポケットを漁り始めたひかる。

何か探してるのかな?

黙ってその様子を眺めていればどうやらお目当てのものが見つかったらしく、ポケットから手を引き抜きわたしの元へと歩いて来る。


「これ、ほしいんすか?」

「え?」

「さっきふたりして見とったからほしいんかなーって思ったんすけど」


ちゃいました?と小首を傾げながら問いかけてくるひかるを前にして、思わずドクンと心臓が跳ねあがる。
いや、だって!かっこよすぎる…!
んもう、連れて帰っちゃいたいくらいかっこいいよ、ひかるんんん!


「…なまえ先輩?」

「ほんとひかるってかっこいい!」

「………は?」

「うふふ、なまえちゃんったら!ひかるんが照れてはるわよ〜」

「えええ!でも照れてるひかるも素敵すぎる!」

「わ・か・る〜!」

「全然、全く、ちっっっとも照れとらんすわ、……ちゅーかもうこれいらんってことでええすか?」


クマちょびの人形を指差しながら言ったひかるに、「いらんくない!ほしい!」と焦って訂正をいれる。
すると、さっきポケットから取り出していたらしい100円玉が二枚投入口へと落とされる。
直後、手元のボタンがピコピコと点滅し始めた。

……え、なに?もしかして…。


「ひ、ひかるが取ってくれるの?」

「取れるかわからないすけどね」

「……っ!…っ!」


あまりの嬉しさに声が出ずひとり悶え喜んでいると、隣にいた小春ちゃんが口パクで「よかったわね!」なんて言ってくれた。
ありがとう、小春ちゃん…!



そして―――、



ドサッ


「うっ、きゃあああ!すごい!すごいよ、ひかる!」

「ほんまやね!たったの2回で取ってまうなんてさすがやわ〜!」


そうなんです…!ひかるったら計2回のプレイで見事にでっかいクマちょびの人形を落としてみせたのです!まじすごい…!!!


「いやん!ひかるんったらなまえちゃんのためにぬいぐるみ取ってあげるなんて優男やわ〜!」

「っ、…先輩のためとちゃいますわ」

「え、違ったの?!」

「…………それ」


ポツリと呟いたひかるが視線を向けているのは、先ほどゲームの景品でもらったじゃがりこ(たらこバター味)。
これが一体どうしたんだろう…?
まだ未開封のそれを片手にハテナを浮かべていれば、ついっと差し出される大きな手のひら。
もちろん、ひかるのものである。


「えっと、」

「奇遇なんすけど俺さっきから死ぬほどじゃがりこ食いたかったんすわ」

「あ、なるほど!じゃあこれあげ、」

「せやから!これとじゃがりこ物々交換してください」


少し焦ったようにわたしの言葉を遮ったひかるが、手に持っていたクマちょびをぽいっと投げ渡してくれた。
代わりにじゃがりこ(たらこバター味)がひかるの手元へと収まる。

その素早い一連の流れに着いていけず瞬きを繰り返していると、「交渉成立ってことでええすよね」とひかるの口から一言。
えええっと、これはつまり、


「もらってもいいってこと?」

「まあ物々交換なんで」

「っ!あ、ありがとうひかる!」

「…おん」


ぷいっと顔を背けたひかるに引き続き何度も何度もお礼を言い続ければ、「もうわかりましたって」なんて呆れられてしまったけれど、だって嬉しいんだから仕方ない!んもう幸せ…!!

一方小春ちゃんはというと、わたしとひかるのそんな掛け合いを見て嬉しそうにクスクス笑っていて、それに気付いたひかるがむすーっと顔を顰めていたり。



ああ、なんだかすっごく幸せです…!



(小春ちゃん!わたしこのクマちょび家宝にしようと思う!)

(あら、ええや〜ん!素敵よ!)

(ぬいぐるみが家宝てどないな一族なんすか)

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ひかるんってUFOキャッチャー得意そうだなーって思って書いてました!
んで、取ってあげるんだけど素直に渡せないから物々交換とか理由つけちゃったりしたら可愛いな〜なんて。

小春ちゃんとヒロインは休日にふたりで遊びに行ったりするくらいなかよしこよしです\^^/

ち、ちなみにクマちょびは完全にオリキャラです!!!
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