「ほな一旦昨日やった感じで作ってみてくれます?おかしなとこあったら横から口出しますんで」


そう言われて意気揚々と作業を始めたのは今から約10分程前だっただろうか――。
真横に立つひかるからビシバシとプレッシャーを感じながら、できる限り最善を尽くしてはいたのだけれど……。


「ちょ、分量キッチリ図らんとダメですて。目分量禁止です」

「水は一気に入れたらあかんっすよ」

「混ぜが足りませんて、それが粉っぽくなる要因ですわ」


……いやあ、わかっていたけど駄目出しの嵐ですよ。
最初こそ「仕方ねーな」みたいな表情を浮かべていたひかるも、今じゃ心なしか絶望感を漂わせている始末で。
わたしの料理の腕ったらほんとに壊滅的すぎる…!
でもわたし頑張る!頑張るからね!


「ひかる!水全部混ぜきったよ!」

「ほんならその辺りで硬さチェックしてください。ここで硬すぎたら水加えて調節するんすよ」

「ほうほう!」

ひかるったら白玉博士だわ…!めっちゃ詳しい!
小さな感動を覚えつつ言われた通りに硬さをチェックしようとボウルの中に手を伸ばしてみたが、そこで大事な要点に気がついてしまった。

「か、硬さってどの位がベストなの?」

そう、硬さの目安がわかりません。
前回作った時はそんなこと気にも留めてなかったからね!
胸を張って言うと、ひかるからそれはそれは盛大なため息が零れ落ちた。
そして呆れた表情を浮かべながらもスッと指差したのは……、耳?


「えっと…?」

「耳たぶ」

「み、耳たぶ?」

「おん、耳たぶの柔らかさ位がベストな硬さなんすわ」

「へえ…。あ、じゃあちょっと失礼」


一言伝えてからひょいっと手を伸ばし、そのままピアス密度の高いひかるの耳へと触れる。

すると―――、


「っ、…!」

「えっ」


耳に触れた瞬間、ひかるの身体がびくんと大きく跳ねた。
驚いて顔を覗き込めば、その両頬がほんのり赤く染まっているではないか。
え、え、え…?
もしかしてひかる…。


「耳、よわいの?」

「別に。ちゃいますけど…。」

「ふーん、……てい!」


頑なに否定するひかるが可愛くてもう一度耳へと手を伸ばせば、再びびくん!と揺れる目の前のツンデレボーイ。
うっわ、どうしよう!可愛い!


「むふふ、ひかるの弱点発見しちゃった!」

「…そんなん誰だって耳なんかアカンですやん」

「えー、わたし平気だけどな」

「へえ?」


口角をつり上げたひかるが意地悪っぽく呟いたと思えば、両手首をぐいっと鷲掴みにされる。
そのまま力強く引き寄せられれば、必然的にひかるとの距離が縮まり耳に温かい吐息がかかるのがわかった。

うわ、これはやばい…。
ちょ、ヘルプ…!ヘルプ、蔵!謙也!

救済を求めて小豆係を担当している二人に目をやれば、そこにはアプリに全身全霊集中している謙也とベランダに出て空を写メってる蔵の姿。
ま、まじあいつらマイペースすぎる…!


「なあ…、平気なんすよね?」

「うっ、あ…!」

「ほんなら試してみません?ほんまに平気なんか」

「ちょ…、ほんと蔵か謙也助け、ぎゃ!」


助けを求めようとしたと同時、耳にふわりとした温かさを感じて、つい乙女らしくない悲鳴をあげてしまった。
え、えええ!なに今の…!


「なんや、全然平気とちゃいますやん」

「ちょ、話が違いすぎるよ!わたしの時はタッチしただけなのにひかる今…!」

「俺やって息吹きかけただけやないですか」

「息吹きかけただけって…。え、エロい!ひかるのスケベ!」

「そんなこと言うとるともっ回やりますよ」

「えっ」

「ええんすか?」

「…い、いやいやいや!」

「………」

「…て、てへ」

「………」

「………よ、よーし!そろそろ白玉の続き作ろっか!」

「………」

「ねっ、ひかる!」

「……まあそうっすね、そろそろ小豆も煮えそうですし」

「だよねだよね!さっ、白玉丸めは一緒にやろう!」

「おん」


制服の袖をくいっと上げたひかるは先ほどの名残かまだ若干ニヤついていて、やっぱりわたしはこの先ずっとひかるに叶わないんだろうなあなんて実感させられた、そんな放課後の善哉特訓だった。
うん、ひかるってば最強だわ。まじで。


(なあこれ見てや、なまえ)

(え?…って、え?!)

(さっきベランダからこっち戻る時見てもうたから一応撮っといてん、よくわからんけど財前となまえのラブシーン)

(う、ぎゃあああ!恥ずかしい!恥ずかしすぎる!でも送って!)

(ええよー)

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善哉特訓、無理矢理終わらせた感満載でごめんなさい!そして謙也と蔵がほぼ空気でごめんなさいいいい!
何度書いても終わりまで辿り着けなくてこのような形で落ち着けてしまいました;;
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