昼休みの終わりにひかると交わした愛の約束…!

それを果たすため、帰りのホームルームが終わると同時に家庭科室へと急いだものの、未だひかるは到着していないようで。
加えて、目の前の家庭科室の扉がきっちり施錠されているものだから困ってしまった。
え、これ中入れないんじゃない?


「あ、なまえ先輩」

「っ、この声はひかる!」


立ち往生していた最中、背後から聞こえてきたイケボイスにいち早く反応して振り向けば、そこには予想通りひかるの姿があった。
しかもその右手に持っているものは――、


「もしかしてそれ家庭科室の鍵?」

「ファイナルアンサー?」

「ファ、ファイナルアンサー!」

「せーかいー」

「いぇーい!……って、いやいやいや!」


ついノせられちゃったけど、そうじゃなくって…!
家庭科室の鍵といえば、家庭科担当の先生によって厳重に管理されている代物なわけで。
そんなレアアイテムが何故、一生徒であるひかるの手にあるんだ!
どういうことなのこれ…!


「もしや力ずくで先生から?」

「ちゃいます」

「ってことは職員室からスペアキーを勝手に拝借して、」

「それもちゃう」

「えー、じゃあこれどうしたの?」

「ものは試しにちょーっと頼んでみたら貸してくれただけすわ」


鍵穴に鍵を突っ込みガチャガチャ音をたてながら言うひかる。
かく言うわたしもその一言を聞いて、ピコーンと閃いた。

……なるほど、そういうことか。
確か今年度の家庭科担当の先生は新任の若い女性の先生だ。きっとそこに目をつけてイケメンの武器を駆使したんだな、そうでしょひかる…!


「くうう…、わたしもひかるにおねだりされたい!」

「はあ?」

「くっそ、家庭科の先生羨ましすぎる」

「なんや勘違いしとるみたいやけど、頼んだん部長すよ」

「そうだよね!部長が頼ん、で……、え?」

「せやから、家庭科教師におねだりしてくれたん部長なんすわ」

古びた扉の鍵を開けることに成功したのか、ようやくガラリと開いた家庭科室の入り口。そしてサラリと告げられた真実。
え、なに、部長が頼んだって…?
つまりひかるじゃなくて蔵がイケメンの武器を駆使して家庭科の先生におねだりしてくれたってこと?


「……えっ、ええええ!なんで!どうして蔵がそんなこと!」

「ジョギングマップ、あれ渡し間違えやったらしいんすわ」

「へ?」

「この前のジョギングコースマップ」

「ああ、あの地獄マップ?」

「おん、手違いで謙也さんに渡すはずのもんがこっちにきとったんやて」


「せやから罪滅ぼしってことで協力してもらいました」なんて爽やかに言い放ったひかるに目が点になる。
え、ちょ、爽やかひかるんやばい!
超かっこいいんですけど…!
今の一瞬で蔵がマップ渡し違った事とか、地獄の坂道ロードを走らされた事とかほんとに全部がどうでもよくなって、にへらとだらしなく頬を緩ませる。


「ちなみにそれでも清算しきれんってことで買い出しも行かされてんけどなー」

「うお!蔵…、と謙也!」

「俺はおまけ扱いか!」


「むしろおまけ以下っすわ」

「うおい!なんやとひかる!」

「ほんまのこと言うただけですけどー」

「ま、まあまあ!」


急遽登場した蔵と謙也によって、家庭科室内が一気に騒がしくなった。
ふと見ると、じゃれあい始めた謙也とひかるを見守る蔵の手には学校近くにあるスーパーの袋がかけられている。

そういえばさっき買い出しがどうのって言ってたような…。


「蔵、それは?」

「ああ、忘れとった!これ買うてこいて財前に頼まれてん。ほれ、これでええんやろ?」

「あーっと……、完璧っす。」


中身を確認したひかるが蔵に小さく頭を下げて御礼を言う。
すると、いつの間にか家庭科室の椅子に腰掛けていた謙也が何やら嬉しそうに口を開いた。


「なあ、今から二人で善哉作るんやろ?俺もそれ食いたい!」

「あ!じゃあ謙也と蔵の分も作、」

「そんなら謙也さんにはこれお願いします」

「え?」

「え?やなくて。これに湯沸かして小豆煮てください」

「え、なん、俺も一緒に作るん?」

「はよしてくださいね、小豆煮るん時間かかりますんで」

「おい、ちょ、ひかる…!」


突発的にクッキング仲間に引き込まれ動揺を隠せない謙也を余所に、至極冷静な表情でわたしの方に歩いてくるひかる。
その手には蔵が買ってきた白玉粉がしっかりと所持されていて、「小豆が煮えるまで先輩には白玉の作り方を覚えてもらいますわ」と軽く腕をひっぱられた。
向かう先は、渋々と湯を沸かす準備をし始めた謙也のいる調理台である。


「ほな始めますけど一発でしっかり覚えてくださいよ、なまえ先輩」

「うん、任せて…!ご指導お願いします、ひかる先生!」


びしっと敬礼を交えながら声高々に挨拶してみたらすごく面倒くさそうな顔をされてしまったけれど、それもまた想定内の反応ですよ、うん。
とりあえず今はひかるの善哉特訓に集中しなくては!
よーし!頑張るぞ…!



(ちょお、白石ー!一緒に小豆係しよーやー)

(ええけど小豆係て何するん?)

(小豆が煮えるの見てるだけやでー)
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まだ善哉作っとらんかい!って話ですよね、ごめんなさいいい…!
次回クッキングさせます、はい。

とりあえずあの魔のジョギングは蔵が意図したものじゃないよ、手違いだったんだよってことが書きたかったのです> <

途中誰かしらが空気になるという…。
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