「ねえ、蔵ー?」

「んー?」

「今日の夜からジョギングしようと思ってるんだけどさ、どこかいいコース知ってる?」


ラリーが終わって個人休憩に入った蔵に、ドリンクとタオルを手渡しながら問いかけてみる。するとどうだろう。
蔵が目を見開いたまま固まってしまったではないか。
え、なに?この反応はどう解釈すればいいの?


「く、蔵?」

「あの面倒くさがりのなまえがジョギング…?一体どないな心境の変化が起こっとんねん!」


そう大袈裟に叫び散らした蔵の声に、周りで休憩していた部員達からちらほらと好奇の視線が向けられる。
全くアホ蔵ってば声がでかいわ…!


「みんな怪しげな目で見てんじゃん!どーしてくれるのこの空気!」

「せやかてビックリしたんやもん」

「ビックリって…。」

「いやいやほんまに!」


あのなまえが自分から走りたい言うなんて天変地異の前触れかと思ってもーた、なんて冗談めかしながら言う蔵をじとりと見つめる。いやはやなんともまあ失礼な!

だいたい走ろうと思ったことにそこまで大した理由なんてなくて、ただ単にダイエットがしたいなーっていうそれだけなのに。

そんな本心を蔵に伝えれば、ダイエット?とおうむ返しが返ってくる。

「イエス、ダイエット!」

「ほーん。そんなら適度な有酸素運動が出来るコースがええんやな」

「う、うん?まあその方向で!どこかいいコースありそう?」

「せやなあ…。まああるにはあるんやけど」

「なんか問題ありな感じ?」


んー、でもなー、と何処か歯切れの悪い蔵にずいっと詰め寄ってみる。
すると、少し考え込んだ後に「だって走るん夜なんやろ?」と心配そうな顔をされてしまった。
そこでようやく蔵の真意に気づく。
……ああ、なるほど。

今の一言から夜道の心配をしてくれていることは一目瞭然で、こういうところも蔵がモテる要素の一つだろうなと切実に思う。

だがしかーし、心配には及ばないよ蔵!


「夜道のことなら大丈夫!」

「大丈夫て…、なまえも一応女なんやで?」

「一応ってなに。バリバリ女だって自覚してるよ!」

「ほんなら、」

「テレテレッテテー、ひーかーるー!」

「え、なん?ひかる?」

「そう、ひかる!ひかるに一緒に走ってもらうから大丈夫なのだよ!」

「…は?」

「あぁ、そうなん?それなら安心やわ、なんや一人で行くんかと思ってむっちゃ心配してもうたやん!」


よかったよかった、と微笑む蔵。
そんな蔵を見て、一緒になって微笑むわたし。
そして、そんなわたし達を見ながら眉をピクピクと痙攣させているひかる。


「ほな部活終わるまでにええコース選抜しとくわ!」

「おーっ、ありがとう!」

「おん、そんなら俺あっちのコートに次の指示出して来るからこっちは頼んだで」

「はーい、いってらっしゃい!」


爽やかな笑顔を残して去って行く蔵の背中をぼーっと見つめる。
いや、見つめる選択肢しかない。
だって横からの視線が怖すぎるんだもん。
なにこれ、わたし視圧で殺されるの?


「……なまえ先輩」

「は、はい?」

「ほんっっまになんなんすかこの状況」

「いや、ほら、だって蔵心配性だから一人で行くって言ったら絶対禁止令出てたじゃん…?」

「だからって俺をチョイスせんでください」

「えええ…。そんなこと言わずにさ、ね?」

「…………」


ひ、ひかる怖ええええ!
視線だけで射殺されそう…!
でもまあ確かに練習だけでも充分疲れてるのに、その後ジョギングに付き合わされるなんてたまったもんじゃないよね。
わかる、わかるんだけど!


「お願いしますひかる様!」

「てかなんでそんな俺にこだわるんすか。別に謙也さんでもええですやん」

「謙也はスピードがなんちゃらってうるさそうだから嫌!」

「ほんなら千歳さん」

「千歳が約束時間に来るわけがない!てか、わたしはひかるとがいいんだもん!ひかると一緒に走りたい!」

「俺は走りたないすもん」

「うっ…!」


決死のアプローチは、ひかるにあっさりと躱されてしまった。
ああ、もうこうなったらあれかな。
物で釣る作戦を実行するしかないかな。
き、汚いとか言われるかもしれないけど構うもんか!



「…善哉」

「!」

「奢らせて下さい」

「……、っ」


おおっ、ひかるの瞳が揺れている。
ぐらんぐらん揺れている…!
これはあともう一押しか!


「一回ジョギングに付き合ってくれる度に二食分の善哉を奢らせて頂きます」

「………」

「…よ、よし、じゃあ三食分にしよう!これでどうだ!」

「……。まあ、そこまで言うんやったらしゃーないっすわ」

「おおっ!やった!!」


善哉パワーはんぱない!
んもう、本当に善哉様々だよ…!
これで過酷になるであろうわたしのジョギングに癒しが保証されたってなもんで、嬉しさのあまり感極まってひかるにぎゅっと抱きついた。がしかし、勢いよく振り落とされてしまった。
い、痛い…!



(そん代わりトロトロしとったら置いて行きますからね、ほんまに)

(むふっ、スパルタなひかるも素敵…!ちゅーしていいかな、いいよね?)

(きしょいです)

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蔵りんは心配性ですよね、絶対!
世の中のパパ達も顔負けな位心配性であってほしい…!
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