「いててて…。」
お風呂で一日の疲れを洗い流し、美味しい夜ご飯もたらふく食べた。
となればあとは寝るだけ!ということで自室へと続く廊下を歩いているわけだけれど、頭の上にドンと居座るたんこぶが痛くて痛くてたまらない…!
言わずもがな、作者は隊長である。
食後のくつろぎ時間に日頃から疑問に思っていたことを隊長に聞いてみたのだけど、それがこのたんこぶ事件の事の発端となったのだ。
「セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?」
これを昔懐かしいリズムで歌いながら聞いてみた。
やっぱりどんな女の子でも好きな人の理想には近づきたいってなもんで、わたしもそんな乙女の一人だから気になっちゃった訳ですよ!愛する隊長の女の子のタイプってやつが…!
すると、前に座っていた同じく二番隊のウィッチが「エース隊長はセクシー派だぞ!」なんてニヤニヤしながら言い出して、何故かわたしへとげんこつが落とされた。
話を切り出したのはわたしだけど答えたウィッチにもげんこつするべきだよ!って迫ってみたんだけど、うるせェと怒鳴られ加えてもう一発のげんこつ刑。
本当わたしって可哀想…!
+ + +
――ガチャリ
ようやく自分の部屋に辿り着くと、真っ先にベッドへと向かいそのままボスンと寝転がる。そして、手に持っていた本をじっと見つめた。
実はコレ、先ほどのたんこぶ事件のすぐ後にウィッチの部屋へと招かれて貸してもらったんだけど…。
「………。」
と、年頃の女の子にアダルティーな雑誌を貸すってどうなんだろう。
というよりこんなものを貸してくる地点で、ウィッチの奴わたしのことを女の子だと認識してないと思うんだ。しつれいだよね、全く。
「(とか言いつつもまあ参考にはさせてもらうんだけど!) 」
+ + +
「……。」
ページを捲れば捲るほど、気まずい気分が充満した。
載っている女の子達がみんな同い年くらいだからか、見ちゃいけない気持ちが率先して仕方がない…!
ま、まあここまで読んどいて今更だけど。
あはは、と乾いた声が漏れる。
(……ところで隊長はこの中でどの子がタイプなんだろう?)
やっぱり理想に近づくためには細やかなリサーチも必要ってなわけで。
こればかりは本人に直接聞くしかないと思うんだよね、うん…!
「…よし!」
思い立ったら即行動!ってことで、隣部屋である隊長の部屋側に近寄りコンコンと壁を叩いてみる。
返事のコンコンが聞こえないので何回か繰り返していると、バン!と突然部屋の扉が開いた。びくりと肩を跳ねさせ素早くそちらを振り向けば、隊長がわたしに向かってズンズンと歩いてくるではないか。
「コンコンコンコンうるせェんだよ!ノックするなら部屋越しの壁にするんじゃなくて正式にドアにしに来い!」
「えー、だってそこまで歩くの面倒くさくて」
「真隣だろーが!」
ぷんすか怒る隊長が非常に怖いため、素直にごめんなさいと謝る。
そして本題へと入るべくベッドの方に隊長をお招きすれば不審がりながらも端の方に腰を掛け、本題ってなんだよと疑問を投げかけてくる。
その間も、当然わたしのことを睨みつけることは忘れていない。
そんなに警戒しなくても…。
「まあ、とりあえずこれを見て!」
「……は?おま、年頃の女がなんてもん読んでんだよ!」
「これはウィッチから借りたの!そこで隊長にお尋ねしたいことができまして…、」
「……なんだ?」
ハァと溜息をついた隊長は、心底呆れた眼差しでわたしと雑誌を交互に見ている。
ていうか全然関係ないんだけど、夜中に隊長がわたしの部屋にいるのってなんだかエロい感じがする…!隊長に至っては半裸だし!(いつものことだけど)
そんなことを考えていたら心なしかニヤニヤしてしまっていたようで「さっさと本題に入れ!」なんてでこぴんをされてしまった。むしろでこぴんの域を越えたでこぴんだった。なにこれ痛い…!
「ちょ、これ腫れる!」
「腫れろ」
「……なんか虚しくなってきたから大人しく本題に入ろっか」
「おう」
「それじゃあずばり!隊長はこの中でどの子が一番好き?」
どーん!と雑誌を開き思い切って聞いてみると、「やっぱりそんなことだと思った」だなんて言われてしまった。
わたしってそんなにわかりやすいのだろうか。
「つーかそんなもん聞いてどうすんだよ」
「え、そりゃもちろん目標にするんだよ!隊長好みの女の子になるために!」
「……ふーん」
+ + +
嫌々ながらも雑誌を受け取り、しばらくパラパラとページをめくっていた隊長とふと視線が交わった。
それを合図に「決まった?」とベッドの中心から隊長の横に移動して一緒に雑誌を覗き込む。
「どの子どの子?」
「どれもピンとこねェ」
「ええー!セクシー系好きなんでしょ?だったらなぜ…!」
「あんなんウィッチが勝手に言い出したことだろーが」
「そうだけど…、あ!実はキュート派だったの?」
情報ミスかと思って恐る恐る聞いてみれば、それも違ェけどなんて言ってパタンと雑誌を閉じる隊長。
じゃあなんだろう…?
首を傾げて考えていると、不意に隊長の手がぽんと頭に乗っかった。
その行動にも疑問が募り、顔をまっすぐ見つめてみる。
「えっと…?」
「お前はそのままでいいんだよ」
「………え、それってお前はそのままでも超絶かわいいぞっていう告白として受け取っていいの?」
「よくねェよ。ただなまえにはなまえのいいとこがあんだから無理して変わらなくてもいいんじゃねーのってこと」
そう言ってにかっと笑う隊長。
一方で、まさかそんなことを言ってもらえるとは思ってもみなかったので、嬉しさが頂点に達しベッドに転がりまくって幸せを大放出させる。
ぎゃあああ!なんか今日の隊長ツンが少ない!むしろ優しさに溢れてるんだけど一体どうしたんだろう?
考えながらもバタバタ暴れていると、視界の端で隊長の手が振り下ろされたのが見えた。
「痛…!!!」
「埃が舞うだろアホ!」
「ううっ!」
や、やっぱりツンは健在だったか…!
頭を抑えながら恨めしげに隊長を見れば、なんということだろう。
右手にあったアダルト雑誌が一瞬にして炎に包まれ、灰となって床にぱらぱらと落ちていくではないか。
…………って、
「え、えええええ?!そ、それ借り物なんだけど!」
「気にすんな」
「気にするなって…!」
「自業自得だろ、あのアホ」
………う、うわあ。
ごめんね、ウィッチ。
あなたのエロ本は見事に灰となり消え去りましたよ。
是非また新しいのを買うかなんかしてください。
PS.悪いのはわたしじゃなくて隊長だからね!
(そういえば結局隊長はどういう子が好きなの?)
(……バカで元気なやつ)
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このあと
「バカで元気か〜、…サッチ隊長みたいな?」
「バカか!なんでサッチなんだよ!」
みたいなやりとりをしてればいいと思う(^.^)むふふ