わたし達が宴を開く理由なんて本当に様々で、例えば新しいクルーが仲間に入る時だったり、戦闘後の勝利祝いだったりといろいろ…！
理由なんてなくても、親父の気分次第で開かれるものだってある。現に今日だって、親父が発した「宴でもするかァ！」の一言で直ぐさまどんちゃん騒ぎが始まったのだ。
甲板には飲み比べをするクルーや、既に酔いつぶれて床に突っ伏してるクルーもいたりして、盛り上がりも最高潮。
もちろん、わたしだって例外じゃない。
「ぷはー、やっぱりお酒最高！」
「おーおー、なまえはよく呑むなァ」
「うん！だってサッチ隊長が調達してきてくれるお酒ってすごく美味しいんだもん！」
「そう言ってもらえると俺も嬉しいってもんだ！」
わはは！と大きく笑うのは４番隊の隊長兼、我らがコックさんであるサッチ隊長。
話の続きで、どのお酒が美味しいだのおつまみは何が合うだのと話を弾ませていると、ふいに「誉めてくれたお礼にこれサービスな！」なんてサッチ隊長からお皿が差し出された。
なんだなんだと中身を見てみれば、そこにはなんと揚げたてのフライドポテト…！
「わあ、わたしポテトだいすき！」
「知ってるー」
「えへへ、サッチ隊長大好き！ありがとね！」
「おう、あったけェうちに食っちまえよ！」
「はーい！」
そんなやり取りの後にサッチ隊長と別れ、賑わっている甲板を通り抜けて船首近くで腰を下ろす。
そして先ほどもらったフライドポテトをつまみながら、お酒をこくりと嗜んだ。
ギシッ
「……？」
月を眺めながらグラスのお酒を喉に流し込んでいると、不意に誰かが後ろに立つ気配がしたのでそちらを振り向いてみる。
「一人飲みなんて粋なことしてるじゃねェか、なまえ」
「あ、隊長…！」
「なァ、それ俺も食いてェ」
そう呟いて視線を寄こす隊長はいつもの何十倍もの色気を醸し出していて、心なしか目が据わっているような気がする。
……もしかしてもう相当飲んでる？
隊長ってお酒に強いからいつもは軽く酔っ払うだけなのに…、一体どの位飲んだんだろう？
「もう結構酔ってる？」
「あァ？酔ってる訳ねェだろ」
「でも顔真っ赤だよ！目もトロンとしてるし…、今日はもうそれ以上飲まない方がいいと思うんだけど」
「大丈夫だっつーの」
そう言い捨てるとわたしの頭にテンガロンハット被せ、右手に持っていたボトルの中身を一気にぐいっと飲み干した。
あーらら…、わたしの前で酔いつぶれたら襲っちゃうのになあ…！
「うふふ！」
「なんだよ」
「ううん、なんでもないよ。ただ隊長が酔い潰れたらあんなことやこんなことしちゃおうかなって思ってただけ！」
「全然なんでもなくねェよバカなまえ！」
そう怒鳴られたかと思ったら、ギューっと二の腕をつねられる。
いやいや、二の腕はだめだよ隊長。
恥ずかしながらぷるんぷるんなんです、わたしの二の腕…！
「離して！そこはダメ！」
「んだよ、うるせェな！ごくっ！」
「あ、あああ！」
そうこうやりとりをしている間に、いつの間に取り出したのか二本目のボトルを開けてその半分強を飲みきっていたものだから、つい大声を出してしまった。
確実にさっきよりふらふらしてる…！
ちょ、ここは本当に止めた方がいいよね！二日酔いに苦しむ隊長は見たくないから、うん！
「ねえ、今日はもう止め、」
そこまで口にしたけれど、後に続くはずだった言葉は喉の奥に引っ込んでいってしまった。
むしろ一瞬意識が飛んだ。飛び散った。
だ、だだだってなにこれ…！
背中には壁。前には隊長。
更には、肩に隊長の顎が乗せられているため、熱い吐息が耳にかかるというオプション付き。
そんな状況下に置かれて一人脳内パニックに陥る寸前だったけれど、いつまでもそうしている訳にいかないので（これはこれで素晴らしいハプニングだけども！）、隊長？と控えめに呼んでみる。
すると案外素直に顔を持ち上げた隊長は、正面へと顔を移動させた。
……うわお、こっちの方が俄然緊張する。
目を据わらせてフェロモン全開の隊長は、わたしにとって凶器以外の何者でもないわけで。
「だ、だだだだ大丈夫…？ちなみにわたしは大丈夫じゃないよ、隊長のせいで！もう鼻血出そう失神しそう涎出ちゃう」
「…なまえ」
「あ、はいはい！どうし、」
ちゅっ
「…………………へ？」
なんだ、今何が起こったんだ。
唯一理解できたのは、ほっぺに柔らかい感触を感じたってこと。
え、でもなんで？え？え？え？
もはや上手く回らない頭でいろいろと考えていると、次はおでこからリップ音が聞こえてくるではないか。
そこでようやっとわたしの意識が舞い戻ってきた。
「ちょ、ちょちょちょっと隊長？！」
「なんだよ」
「なんだよじゃなくてですね…！」
そんな風にムスっとされても、あのまま続けられてたら確実に鼻血で出血死してたって…！
顔が真っ赤になるのが分かってひたすら俯いていると、不意に甲板の中心辺りから誰かが走ってくるのに気が付いた。
反射的にパッと顔を上げてみれば、そこには息切れ状態のマルコ隊長。
「…え、どうしたのマルコ隊長？そんなに急いで、」
「も、もしかしてエースの奴やっちまったかよい？」
「やっちまったって？」
「……この船にある酒の中で一番アルコール度数の強いやつをエースが一人で飲みきりやがってな、べろんべろんに酔っぱらってたんだが目離した隙に消えちまったんだよい」
「それで？」
今の説明で、会った時に隊長が酔っていた原因はわかった。
けれどそれが何に繋がるというのか。
やっちまったか？って聞かれてもわたしが隊長にされたことっていったら………、
考えた途端、ボボボっと再び顔に熱が集まってくる。
すると、そんなわたしを見たマルコ隊長はとても言いづらそうに「あのな…、」と口を開いた。
「エースの奴、過度に酔っぱらうとキス魔っつーか…、まあそんな感じになるんだよい」
髪をがしがし乱しながら、とても気まずそうに言うマルコ隊長。
え、なに？今なんて言った？
「…………なまえ？」
「………………」
ああ、頭の中が真っ白ってこういうことを言うのかな。
それくらいマルコ隊長から聞いたことは衝撃的だった。
だって…！今まで長いこと同じ船にいたのにそんなの初めて知ったよ！なんてマルコ隊長に詰め寄ってみるも、あいつなりになまえの前では制御してたんだろい、なんて宥められる始末。
「今回はあんな強い酒で飲み比べなんかしたもんだから制御もなにもなかったんだろうよい」
「そ、そんなぁ…。」
真相を知った今、さっきまでのドキドキはなんだったの…！と肩を落とす。
どうやらそれが伝わったらしく、マルコ隊長もポンポンと軽く頭をたたき慰めてくれた。うわ、ほんと涙出そう！
そしてなんとなく隊長の方を振り向いてみれば、当の本人が大の字になって爆睡していたものだから余計に泣きたくなった。
「き、気持ちよさそうな顔して眠っちゃって…！わたしのドキドキを返せ隊長のバカー！」
「んが…、アホなまえ…！」
言葉と同時に強い力で腕を引かれ、思わず隊長の上に倒れてしまった。
瞬時に起き上がろうとするけど、腕の拘束が思いのほか強くて抜けるに抜け出せない。
………こ、これは事故。そう、事故だよ。
だから意識戻ってから絶対に怒らないでね隊長…！
「ぐがー、肉…、食いてェ」
「た、隊長…？起きてるの？」
「寝言だろい、起きてるエースがなまえ抱きしめるとかありえねェからな」
「マルコ隊長ってば失礼だな」
「まァいいんじゃねェか、あのエースが寝言でお前の名前呼んでるなんて奇跡じゃねェかよい」
わはは！と大笑いするマルコ隊長を睨みながらも顔が真っ赤になる。
なんだか居たたまれなくなってシャー！と威嚇してみると、ニヤニヤしながら甲板の中心へと戻っていった。
「ぐかー」
「………」
でもまあ…、よくよく考えてみたら確かに嬉しい、かも。
寝言で名前呼んでもらえるなんて中々ないことだし…。
「…えへへ」
笑みを浮かべながら暫く隊長の寝顔を見ていたら、なんだかわたしまで眠くなってきてしまった。
睡魔に逆らうことは不可能なことであって、意識はそのまま眠りの中へと落ちていく。
「隊長…、おやすみ」
＋ ＋ ＋
「……っ！な、なんだよこれ！おいコラ起きろなまえ…！」
ゴン！
「いっ………たあああ！」
あの幸せな出来事の翌朝、隊長の怒声が甲板中へと響き渡り頭にはなんともどでかいたんこぶが出来上がった。
今回のことは隊長が自らしてきたことなのになぜわたしが殴られなくてはならなかったのか！全く理解不能だよ！
マルコ隊長という証人を交えてそう抗議してみたところ、素直に謝ってくれたから許したけども。
どうやら昨日の晩のことは全く覚えていないらしくてあの時のチューの話をしてみたら隊長の顔は真っ青に染まり、次の瞬間にはりんごのように真っ赤になっていた。
「わ、忘れろ！本当悪かった！」
そう言い捨てて船内に走り去って行った隊長は照れてることが丸わかりで、なんだかすごく可愛く見えてしまった。
まあ絶対に忘れてなんかあげないんだけど…！むふふ！
（あ、隊長！またアルコールの強いお酒飲んでね〜！）
（やめろ！）
（そんでもってまたチュー、）
（やめろ！！）
----------
我が家の隊長は酔っぱらいすぎるとキス魔になる設定です。勝手な設定つけてごめんなさい…！怒られる前に謝っておきます、申し訳ありませんでしたああああ(;―;)！！！
まあこれから先、またハプニングがあればいいなあ…なんて。