「ごめんなさいごめんなさいいいい!」
「今回ばっかりは見逃す訳にいかねェぞコラ!」
右拳の間接をボキボキ鳴らしながらわたしを見下ろす、我らが二番隊隊長。
今になって思うけれど、数分前のわたしったらなんて血走ったことをしたんだろう…!この命知らず…!
そんなこんなで顔を真っ青にさせて必死に謝るわたしと、怒りを全面に剥き出している隊長が今いる場所はまさに隊長様ご本人の部屋だったりする。
+ + +
数分前、大浴場へ向かっている隊長と偶然はち合わせた。
「たまには大浴場もいいだろ」なんて着替えを片手に去っていく背中を見送りながら、一方わたしの頭の中ではいけない考えが浮かび上がってしまった訳でして。
(隊長不在の今!長年求めていたあれを頂くチャンス…!)
そうして期待をムクムク膨らませながら向かった先が例の隊長の部屋。
周りに人がいないのを確認すると、そろりと中に入り込みそのまま真っ直ぐタンスへと直行する。
緊張で高鳴る胸の動機を抑え、ゆっくりと取っ手に手をかければ――。
「えーと…ここはズボン、ここは冬服、こっちは靴下、ここは……あ、あった!」
案外早い段階でお目当ての物を発見することができた。
うっわ!どうしよう、顔が…!顔がニヤけて止まらない…!
今のわたしを端から見たら、青い布切れ片手にニヤニヤしている最高に変な奴だと思う。
だけどこの幸せを目の前にして冷静にしろって方が無理がある…!
「やっぱり隊長の手持ちはトランクスなんだね…!」
青いトランクスを抱きしめながら隊長のベッドにダイブして、恥ずかしげもなく悶え喜ぶ。
そう、今思えばこれがいけなかった。
さっさとトランクスを握りしめて自分の部屋に帰ればよかったのに。
わたしの馬鹿!バカバカバカ…!
隊長が早風呂なことなんてすっぽり頭から抜け去ってたよ…!
「…オイ」
「え、あれ?たいちょ、う?」
予想外の出来事に驚きを隠せず、そろりと立ち上がった次の瞬間。ぐわしと首根っこを掴み上げられ、加減無しでベッドの上へとブン投げられた。
そこで、冒頭の会話に至る。
「なまえ、普段変態じみたことばかりしてる上に窃盗までして許されると思ってんのかテメェ」
「そ、そんなこと言うけど隊長だって泥棒でしょ!」
「はァ?」
「食い逃げするし…!」
「そ、それは今関係ねーだろ!なまえのやってることの方がタチが悪ィ!」
「何それ!…あ、それに隊長はわたしの心だって盗んじゃったじゃん!」
それだって立派な泥棒でしょ?とモジモジしながら抗議してみれば、真面目な顔で「そんなもん今すぐに返してやるよ」なんて言われてしまった。
な、なんてツンなんだ隊長ったら…!
ちょっとした出来心で「デレの方も頂戴?」とか言ってみたらマジで頭かち割られそうになったから本気で土下座させて頂いた。
こ、怖い!5歳児くらいまでなら瞬時に泣かせられるくらいの迫力だと思うんだけど…!
「わ、わかった!今日のところは大人しく自分の部屋に帰るよ!だから許してくださいお願いします…!」
「見逃すわけにはいかねェつったろ」
「えええ…!心の底から反省するから許してください」
「無理」
「……じゃあ大サービスでわたしのパンツあげ、わあああ!お、落ち着いて隊長!嘘だよ嘘!」
「次に気色悪ィこと言いやがったら本気で殴り飛ばすぞ!」
…なんていうかもう、気迫がすごい。
尋常じゃない位の殺気だよ、隊長。
でもね、わたしだって長い付き合いの中で学んでいる。
こーゆう時どうすれば許してもらえるかなんて熟知の域ですわ!むふ!
「隊長!おやつ!」
「あァ?」
「明日のおやつ譲るよ!わたしの分全部食べていいから!」
「お前はなんでもそれで解決すると思ってんだろ」
「じゃあいらないの?」
「………」
「サッチ隊長が明日のおやつは隊長の好きなパンプキンプリンだって言ってたけど」
「そ、そんなもんで許すわけが、」
「明後日のおやつも献上します!」
「なっ…!」
「だから許してください!」
「……………、だあああ!ったく、今回限りだぞ!」
「っ!あ、ありがとう隊長…!」
う、うわああ!よかった…!
無事おやつ作戦成功!
思いのほか会話の間が長かったから、もう駄目かと思ったよ…!
とまあそんなことを思いながらも、隊長の気が変わらないうちに早く部屋に戻ろう!と賢明な判断したわたしは、急いで立ち上がり小走りでドアに近づくと、くるんと隊長を振り返った。
(じゃあ、おやすみ隊長!)
(あァ…、ってコラ!それ置いてけ馬鹿なまえ!)
(あああ!わたしの青トランクスぅぅぅ!)
(お前のじゃねェ!!)
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ヒロインは隊長のパンツがほしくてたまらないんです。
え、なんでかって?
それは彼女が変態だからです…!!!(ドーン)