「……その両手に持ってるもんは?」
「あっ、これ?見ての通り、網とお餅!」
「網と餅が俺になんの用だ」
あからさまにむすっとしながら、横目でわたしを見る隊長。
秋には芋を、冬には餅を手に隊長の元を訪れるクルーは少なくない。
まあこれを頼むと多少なりとも隊長の機嫌が悪くなるから、勇気ある者しか実行に移さないのだけれども。
「サッチに頼んでやってもらえよ」
「隊長が焼いたやつがいい!」
「なんで俺がお前の為にわざわざ餅を、」
「もちろん隊長の分もあるよ!」
言葉を遮り、袋の中からお餅を取り出す。
すると、一拍言葉を詰まらせた後にグゴゴとお腹が鳴ったのが聞こえてきた。
「……焼くか」
真面目な顔で呟く隊長に、こちらも真顔で親指を立てる。
ほんと食べ物が絡むと扱いやすいというかなんというか…。まあ、そこさえも魅力だけど。可愛いなあ、とか思っちゃってるけど!
「よし!餅乗せてけ!」
「はーい!」
指示に従って網の上に乗せられるだけお餅を乗せていくと、そんなにくっつけて置いたら焼いた時に合体するだろ!なんて怒られてしまった。仕方なくスペースを開けて再配置する。
「お餅に関しては口うるさいんだね」
隊長の腕をツンとつつきながら微笑めば、チッと舌打ちをされた。
「おおっ、くるよくるよ!」
「なにがだよ」
「お餅焼きの醍醐味だよ!見てて!」
数秒後、最初に配置したお餅から順にぷくーっと膨らみ始める。
わたしこの瞬間がすっごい好き!興奮しながら言うと、なまえはガキだなァと笑われてしまった。
「なァ、そろそろいいんじゃねェの?」
「あ、うん!じゃあ好きな味選んでね」
しょうゆや海苔、きなこ、胡麻、あんこと隊長の前に次々と置いていく。ようし、わたしはあんこにしよーっと!
「あ、俺も同じの」
「了解!はい、どうぞ」
「サンキュ、じゃあいただきます!」
「いただきまーす!」
掛け声を合図に、ふたりで甲板に座り込みお餅を頬張る。
食べ始めると止まらなくて、既に3個目に突入。
わたし絶対太るわ、これ。
隊長なんてもう7個くらい食べてるけどね。
ああ…、あのお餅のようにわたしのことも食べてくれたらいいのに…!
「……エロい目でこっち見んな」
「えー、いいじゃん減るもんじゃないんだし!」
「減るんだよ。確実に俺の中のなにかが減る」
「隊長ケチだ…、ってそれわたしのお餅!勝手にお皿の上から持ってかないでよ!」
「お前こそケチだな!いいだろ餅の1個や2個」
「いやいや、かれこれ4個目!わたしのお皿から4個目のお餅盗みだよ!」
ぎゃあぎゃあと騒いでると、隣から唐突にゴン!と鈍い音が響いた。
その音にハッとして横を見てみれば、隊長がお餅を頬張ったままいびきをかいているではないか。えっ、ちょ…!
「うおおおい!だ、だめだよ隊長!お餅食べながら寝るのは危険だから!」
必死で揺すっても起きる気配が一切見られない。
も、もしもお餅が気管を塞いで呼吸できなくて…、なんてことになったら完璧わたしの責任じゃないのかコレ!
「お、起きなきゃ死んじゃう!」
「ぐがー、ぐう…!」
いよいよ不安が大きくなってきて、ゆさゆさ揺すっていた手はバンバンと隊長の背中を叩き始める。
「隊長隊長隊長ー!」
「んが、…痛ェ痛ェ!」
「あ、起きた…!」
パッと隊長を見ると、確かに目を開いて意識もしっかり覚醒している。
なんとかお餅をのどに詰まらせて生死をさまよう姿を見ずにすんだらしい。
安心した途端、力が抜けてぱたりと仰向けに倒れ込んだ。
「どーした?顔色悪ィぞなまえ」
「た、隊長のせいだから…。」
当の本人はハァ?と頭上にハテナを浮かべている。
わたしの決死の努力がなかったら今頃隊長の顔色が悪くなってるとこなんだから!なんて言ってみるも、意味わかんねェとお餅の残りをもくもくと食べ進めだす始末で。
「扱い酷、」
「いいからなまえも食え」
「むがっ!」
不満を漏らそうとした瞬間、お餅を勢いよく口の中に突っ込まれる。
反論しようとしたけれど、うめェな!なんて笑顔で言われたらそんな気も消え去るわけでして。
素直に「うん、美味しいね!」なんて返事をしてしまったわたしは本当に隊長に弱いと思った。
「くっそう!わたしは隊長の笑顔に弱すぎるんだよ…!」
「なんだそれ」
呆れたようにフッと笑った隊長にわたしの心臓は再び大暴れ。
この人確信犯だよね、絶対に!
「た、隊長のいけめん野郎!」
「悪口になってねェし」
このあと馬鹿にするようにニヤリと笑う隊長を見て鼻血を出したわたしは立派な隊長病だと思います。
(エース、背中に大量の手形がついてるがどうしたんだよい)
(なんだそりゃ心当たりがねェ)
(ま、マルコ隊長余計な事言うんじゃない!)
-----------
とにかくエース隊長の笑顔は最高だというお話を書きたかった…!