「ねむい…。」
今晩は盛大な宴が開かれていて、皆して甲板で大騒ぎ。
いつもならその輪に混じって騒ぎまくっているところだけれど、今日は絶対酔いつぶれる訳にいかないため船首近くでひとりお酒を嗜んでいる。
現在、12月31日23時45分。
新年を迎える15分前。
いわゆる大晦日なのです!
そしてそれが何を意味するかと言うと。
あと15分で隊長の誕生日…!ということなわけで。
ちゃんと1番におめでとうって言いたいから酔っ払って潰れないように、あまり飲まないようにしている訳なのであります、うん!
(あと13分だ…!)
時計をチラチラ気にしながら、楽しそうに騒ぐクルー達の姿を見渡す。
自分で言うのもなんだけどわたしってば一途な女の鏡だよね!えへへ!
「お前は一人でいる時も変態笑いしてんのな」
「一人じゃないもーん、いつも頭の中に隊長がいるから!」
いつの間にか隣にいた隊長にえへん!と胸を張りながら宣言すると、それを聞くや否や「うええ…!」と吐くふりをされた。
ほんと酷いリアクションするな、この人は!
「危ねェ、食ったもん戻すとこだった!」
「わたしの発言で吐き気催すとか失礼すぎる!」
「なまえが気味悪ィこと言うからだろ」
「き、気味悪いって…!」
「ほら」
ムキになり始めていたわたしの言葉は華麗に遮られ、目の前にずいっと差し出されたのはお洒落なグラス。
中には淡いオレンジ色の飲み物が入っている。
「え、なにこれ?」
「コックがくれたカクテルなんだけどよ、甘い酒ってどうも好きじゃねェから」
「ああっ、確かに甘いのあんまり飲まないよね!」
「おう、だからなまえにやる」
「うわあ、ありがとう!隊長からプレゼントもらえるなんて…、これ部屋にずっと飾っとこうかな!」
「腐るから飲め」
「あ!じゃあ口移しで飲ませてほしいです!」
一つ提案をしてみたけれど、ばかやろうと言われると同時に耳をぎゅーっと引っ張られた。
おお、これは新しい撃退法だ!ほっぺとかはあったけど耳は初めて。
そんでもって結構痛い…!
「ちょ、耳が千切れそうだよ!」
「そこまで強くやってねェ」
「だって痛いも、『10!』
「お、カウントダウンか」
「ええっ、もう?!」
さっきまであと13分だ!なんて言ってたけれど、あっという間に10秒前らしい。
未だに引っ張られたままの耳は痛いけど、年の最後まで隊長と騒いで過ごせてすごく幸せだよ…!
さあて、そろそろわたしの計画も実行といきますか!
『9!』
「隊長」
『8!』
「どうした?」
「今年もいっぱいありがとう!隊長大好き!」
「あァ、こちらこそありがとな!」
ニカっと笑顔を浮かべる隊長。
「大好き」のところだけスルーされたのが気がかりだけれど、まあ来年からもアピールしまくるつもりだから今回は目を瞑ろう…!
『5!』
「………」
『4!』
「なまえ?」
『3!』
「………」
『2!』
「おい、」
『1!』
「なァなまえどうし、」
『ハッピーニューイヤー!!』
隊長の声がかき消され、新年を迎えたことを意味するハッピーニューイヤーの声が船内に響き渡った。
周りではクルー達が口々にあけましておめでとう、今年もよろしくと声を掛け合っている。
「なまえ、本当にどうした?具合でも悪ィのか?」
その問いに首をふるふると横に振って、違うよ!とアピール。
「じゃあなんで」と困り果てる隊長を遮り、ずいっとリボンのまかれたプレゼントを差し出した。
「お誕生日おめでとう、隊長!」
「……えっ」
状況が理解できていないのか、ピシリと固まる隊長。
目を点にしながらわたしとわたしの差し出しているプレゼントを交互に見ている。
「あ、あれ?隊長?大丈夫?」
固まったまま動かない隊長に焦りを覚えて、少し大きい声でそう呼びかけてみるとはっとした表情を浮かべて大丈夫だ、と答えが返ってきた。
「はい、これ誕生日プレゼント!」
「あ、あァ!わざわざありがとな」
「どういたしまして!」
ニコニコしながら目の前の隊長を見つめるわたしと、少し照れくさそうにプレゼントを開け始めるご本人。
なんだか目の前でプレゼントを見られるのって恥ずかしいかも…!
そんなことを思って少し緊張しながらも、隊長の様子を伺う。
「おお、マフラーじゃん!」
「うん、冬島とかでも隊長薄着だから!いくら体温高くても寒い時があるかなと思って……、いらなかった?」
おずおずと聞いてみる。
「ここでいらないって言う人なんかいないよ」って思われるかもしれないけど、わたしに対しての隊長は直球だからいらなければいらないってハッキリ言ってくれると思うんだ。
だからこそのストレートな質問。
ゴクリと生唾を飲み込み、隊長の言葉を待つ。
うあああ、緊張…!
「ど、どうかな?」
「……いるに決まってんじゃねーか、むしろ返せって言われたって返さねェよ」
そう言って、マフラーを緩く巻きながらニッと微笑む。
か、かっこいい…!最高にかっこいい!
「どう、似合うか?」
「うん、すっごく似合う…!」
緊張の糸がほどけて頬を緩めるわたしを前に、ありがとなと言って頭をぽんぽんしてくれる。
普段からは考えられないほどの甘い展開に心を躍らせれば、ふと隊長に凝視されていることに気が付いた。穴が開きそうなくらいジッと見つめられて、思わず首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、なんでさっき何も喋らなくなったのかと思って」
「さっき?」
「カウントダウンの時」
「ああっ、あれわたしの計画!」
「計画?」
「そう!新年の第一声は、あけおめとかことよろじゃなくて隊長への誕生日のお祝いの言葉にしようって決めてたから、他の言葉を喋らないように黙ってたの!」
「…っ、!」
えへへと笑みがこぼれる。
だって見事に計画が成功したんだもん、素直に嬉しい!
カウントダウンの時はお礼の言葉言うタイミング早すぎて無言時間長すぎたけど。反省点はそこだけ!
「……そっか」
「うん、愛があってこその行動!」
「……バカ」
背を向けながら言うもんだからあんまりよく聞こえなかったけど、多分今バカって言ったでしょ隊長!
新年早々バカ呼ばわりするなんて!
そんな隊長にはお仕置きに背中にチューの刑だ…!
「っ、おい!何してんだなまえ!」
「むふ、背中にチューの刑でーす!」
このあと新年一発目となるげんこつを落とされたのは言うまでもなかったりする。
(改めてあけましておめでとう!今年もよろしくね隊長!)
(あけましておめでとう。今年は去年より変態行動を控えろよ)
(はーい)
(やる気のねェ返事をすんな)
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この後クルー達みんなで隊長の誕生日パーティを開いてます。
ヒロインと隊長の邪魔をしないようにしてただけで、みんな頭の中は隊長の誕生日を祝う気持ちでいっぱいだったりします^ω^