ぽかぽか | ナノ



「勝負だ、マルコ隊長!」

「………はァ?」


とある晴れた昼下がり。
意気揚々とマルコ隊長に勝負を挑んでみたら、どういうわけか鋭い瞳でギロリと一睨みされてしまった。接し方がちょっとばかり酷い気がする。

まあわたしの行動が突発的だったのも悪いのかもしれないけど…!


「かもじゃねェよい。明らかになまえが悪い」

「わっ!なに勝手に心読んでるの!マルコ隊長のエッチ!」

「お前が声に出してたんだろい」

「エッチスケッチワンタッチ!バナナ!」

調子に乗って余計なことまで口走ってしまった。
マルコ隊長の額に血管が浮かび上がったのがわかる。


「おーい、誰かエース呼んでこいよい。拳骨の刑に処されろ」

「ひぃっ!」

「隊員の躾も隊長の仕事の一環だからなァ」


ま、マルコ隊長ったら恐ろしい顔…!

でも隊長を呼んできてほしいっていうのにはわたしも大賛成、気が合うね!なんて握手を求めてみたところ、パシンとその手を叩き落とされてしまったから切ない。


「………って、違うんだった!わたしは勝負がしたいの!相手してよー、マルコ隊長」

「だから何の勝負だよい」

「腕相撲!」

「………は?」

ポカンと口を開けている顔があまりにシュールで、思わずぷぷっと吹き出せば静かに右手を掴まれた。
ふと視線を上げると、面倒臭さを露骨に放出させたマルコ隊長と目が合う。


「ったく、俺が勝ったら次の島で飯奢れよい」

「あっ、勝負してくれるの?じゃあわたしが勝ったら隊長の部屋からパンツ盗んできてね!」


ニヤニヤしながらグッと親指を立てた。
「変態なまえ」なんて悪態をつかれたものの、特に気に留めずそのまま机に肘をついて準備体勢へと入る。よし、やろう。マルコ隊長の気が変わらないうちに勝負しよう。


「両手使えよい」

「えっ、いいの?」

「そうでもしねーと勝負にならねェ」


スッと目を細め、ニヒルな笑顔を浮かべるマルコ隊長。
く、くそう!今にその余裕を後悔させてやるんだから…!
心の中で強く意気込み、闘志に燃える眼差しを目の前の人物へと向ける。

そして、静かに口を開いた。


「レディー…、ゴー!」



+ + +

「うぅぅ、動かない…!まるっきし動かない!」

「ちゃんと力入れろよい」

「全力で入れてるんだけど…!」


やばい、やばすぎる!
マルコ隊長かなり強い!そのくせわたしを倒しもしなければ、気を遣って負けることもしない。つまりは静止状態というやつだ。

だけど、隊長のパンツためにも決して負けるわけにはいかない…!


「ぜ、絶対勝つ!隊長のパンツは逃さない!」


そう叫んだ瞬間だった。

前方のドアが開いたかと思うと、こちら目掛けて飛んでくる鋭い拳。
しかし気付いた時にはすでに遅かった。マルコ隊長と腕相撲中だったわたしは避けることさえ敵わず、その重い拳を真っ向から受け止めることになる。


「い、痛い痛い痛い痛いぃぃ!」


一瞬にして大きく吹っ飛んだ挙句、壁へと身体を強打した。
堪らず床にうずくまって悶えていると、ゆっくりと歩を進める足音が聞こえてくる。
涙目になりながらも顔をあげれば、そこには愛しの隊長のお姿。……もしかしなくても今の鋭いパンチは彼のもので間違いないと思う。


「っ、なにするの隊長!」

「なにじゃねェよ!一番隊の奴に呼ばれて来てみたらお前が変態じみたこと叫び散らしてたんだろうが!」

「だからって今勝負中だったのに…。」


肩を落として小さく呟く。
すると、ふと目の前に手が差し伸べられた。


「立てよい。この試合はなまえの棄権ってことで俺の勝ちだ」

「えっ、えええ?!」


くつくつと楽しそうに笑うマルコ隊長を前に、悔しさが沸き上がる。
今のは完全なる不可抗力だったのに…!少しの期待を胸にそんな抗議もしてみたけど、ミジンコほども相手にしてもらえなかった。ああ、世知辛い。


「ちぇっ、パンツの件も帳消しか…。」

「なんだよパンツの件って」

「この際直接エースと勝負すればいいだろい」

「あっ!なるほど!」


そうか、隊長と直接勝負すればいいのか…!
勝てばパンツだし、必然的に手も繋げるし一石二鳥。マルコ隊長ってば頭いい…!
そうと決まれば即行動!ってことで、サッと手を差し出した。


「……なんだよ、この手」

「腕相撲しよう!それでわたしが勝ったらぜひ隊長のパンツをください!」

「まじない。すげェヒく。気持ち悪ィよ」


うわ、悪口に悪口を重ねてきた!
だけどこんなのは日常茶飯事。
全然めげないんだからね…!


「お願い、隊長!」

「嫌に決まってんだろ」

「まあ話は最後まで聞け。なまえが勝っちまったら変態の餌食だがエース、お前が勝てば次の島で3食ただ飯食えるチャンスだよい」

「!」


その瞬間、隊長の目の色が変わったように見えた。
とてつもなくキラキラしている。
その少年みたいな笑顔めっちゃ素敵…!


「さあ、どーするよい」

「…その話ノった!いいぜなまえ、相手してやるよ」

「わーい!あ、よろしければ今夜のベッドの中でも相手してもらいだだだだ!」

「調子乗んなアホ」


隊長のほっぺ抓り攻撃が強烈すぎて思わず目に涙が浮かぶ。あまりのダメージに「痛い!」と声を大きくして訴えれば、数秒後にあっさり解放してくれたけど。絶対これ赤くなってる!下手したら内出血してるレベルだよ…!


「おい、やるならさっさと肘つけよい」

「おう。ほらなまえ、手出せ」


マルコ隊長の指示に従って手を握り合うと、お互い机に肘をつく。

……うわあ、隊長の手大きいし暖かい!
彼女になったらこの温もりが独り占めできちゃうんだよね…。
そう思うと、隊長の彼女になりたい願望がぐんぐんと強まる。


「うふふ」

「……。」

「うぎゃ!ちょ、ミシミシいってるんだけど隊長!手の骨が…!」

「うるせェ」

「ち、力抜いて!ほんと折れる!」


そう必死に訴えることで、ようやく力を抜いてもらえた。
安堵の息を吐いて呼吸を整えると、空いた左手を静かに重ねる。


「あ?おいなんだ、この手」

「女の子だから両手でいいでしょ?ハンデってことで!」

「ふざけんな、公平だ公平」

「えー、ケチ!マルコ隊長は両手のハンデくれたのに!隊長もちょっとは手加減してよ!」

「やだね」

「さ、始めるぞ」


マルコ隊長が如何にもかったるそうに割り込んできたと思えば、なんの脈絡もないまま「じゃ、スタート」なんて合図がかかる。どこまでもやる気のない審判(仮)だ。


そして次の瞬間、ぐんっと大きな力を感じた。


「んぎゃ!」


始まって数秒。

あっという間に腕がバン!と机に叩きつけられる。
そのあまりの早さに、思わず目が点になった。


「……え?」

「バーカ。だから言ったろ。約束は約束だからな、飯3食忘れんなよ」


べえと舌を出しながら嬉しそうに言う隊長。

ハンバーグ、オムライス、シチュー、チャーハン、ラーメン、パスタ、ステーキと早くも奢らせるつもりであろう料理名を呟いているから恐ろしい。
いつもの食い逃げじゃなくてわたしの奢りなんだからそんなに食べれる筈がないのに…!


「ハンデもなしで初っ端から勝負仕掛けてくるなんて隊長の鬼ー!少しくらい手加減してよ、大人気ないな!」

「なんで自分のパンツがかかってんのに手加減しなきゃなんねェんだよ」

「ぐっ…!」


確かに最もな意見である。
そ、それにしても悔しい…!
次の島についたらわたしの財布すっからかんだよ。くっそう、こんなことになるなら力の差があんまり関係なさそうな指相撲とかにしとけばよかった!戦略ミスだった…。


「約束だからな!覚えとけよ、なまえ!」

「忘れたとか言い出したら酒も追加だよい」

「わ、わかってるよ!ほんと二人とも意地悪だよね…。」

「お前が仕掛けてきたのに何言ってんだよい」

「うぅー!」

「かわいくねェから変なブリッコやめろ」

「酷い…!」


このドS隊長コンビに勝負を挑んだわたしが甘かった。
今回は大人しく負けを認めようじゃないか。
はあと溜息をつき二人を見やれば、凄く楽しそうに笑顔を向けてきたから更に悲しくなった。


後日、予想通りお財布の中身がすっからかんになったことは言うまでもない。

あーあ、ばいばいわたしのお小遣い達。



(ご馳走さん!)

(また勝負してやるよい)

(今度こそ負けない種目で挑む!)

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前サイトから引っ張ってきました!
携帯を変えてパスワードがわからなくなり何もできない状態だったのですが、こちらのサイトで続きを書いていこうと思いまして…!

直しを入れながらアップしていきます…!
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