目の前に佇むのは、とても高貴な王宮。
そう、今回のお届け先は何を隠そうこの国の王様だ。
「こんにちは、ニュース・クー宅配です。本日はこちらの王様宛にお荷物を預かってきました」
深くお辞儀をしてから要件を伝えると、貫禄漂う三名の門兵さんにズラリと囲まれた。
これがまた全員それなりの体格の良さで、少しばかり圧倒されてしまう。
「ええっと…。テロだなんだと物騒なご時世ですので、依頼品の危険性の有無は当社の特殊機器によって確認済みです。それでもまだ信頼頂けないようでしたら、こちらに依頼主様の情報が記載されておりますので国王様直々に確認を取ってください」
少し大きめの箱を差し出しながら、順に門兵さんの顔を見上げる。
「それでは、これより先はお任せ致します。こちらに受け取り証明のサインをお願い出来ますか?」
テキパキと話を進め、鞄から専用の書類を取り出そうとした。
……うん、取り出そうとした。
むしろ今も取り出そうとしている。
それなのにどうして…!
身体がちっとも言うことを聞きやしない。
「あれ?な、にコレ…?!」
もしかして俗にいう金縛り?
……いや、大丈夫大丈夫。
あれは脳が起きてて身体が眠っている的な裏付けのある現象だもん。決して心霊現象じゃないから。うん、大丈夫…!
「あの、どうかなさいましたか?なんだか顔色が…、」
屈強な門兵さんの一人がそう口を開いたかと思えば、一ミリも動かなかった右足がぐいっと動いた。
ただ問題なのは、この動作には一切わたしの意思が関与していない。
そう、脳の命令とは全く関係なく体が動いているのだ。
「ひいぃ!怖い!なにこれ!体が勝手に…!」
思わず情けない声をあげると、どうやらわたしの言葉で謎が解けたらしい。
納得の色を顔に浮かべた門兵さん達がいとも簡単に道を開けてくれた。
って、別に道開けなくていいよ!わたしもう帰るし!お仕事終わりましたし!
「ちょ、ほんと誰か助けてくださいぃぃ!」
腹の底から絞り出した叫びも虚しく、自由の効かない両足に連れて来られたのはとある一室のドアの前。…な、なんだこの煌びやかなドア。如何にも地位が高い人の部屋じゃん!末恐ろしい!
ダラダラと流れ落ちる冷汗を感じながら目の前を見ていると、不意にドアが開き現れた人物に更なる驚きで目を見開く。
「フフ、顔も見せねぇで帰ろうたァ冷たいじゃねーか郵便ハトさんよォ」
ハトじゃなくてカモメです。
心の中で反抗したけど、それを実際口に出す勇気はない。
だって今わたしの目の前にいるのは――、
「ドフラミンゴ、さん」
「あァ、前に一度会ったのを覚えてるか?」
「七武海招集の時ですよね…。」
「そうだ。フフフ、あの時は何が飛び込んできたかと驚いた」
ニヤリと口角を吊り上げ、楽しそうに笑うドフラミンゴさん。
過去に七武海の会議室に飛び込んでしまうという大失態を犯したわたしには、何も言い返すことができない。
でも仕方ないじゃん…!
大好きなおつるさんに会えると思って浮かれてたんだもん!ガープさんも会いに行っていいって許可くれたんだもん!でも「会議中」っていう重要な情報をくれなかったんだもん、あの人!
……てな経緯でわたしの黒歴史が完成したわけだけども。
どうしよう、とにもかくにも帰りたいです。
一刻も早くここから逃げ出したいです。
「あの、」
「お前、俺が怖ェか」
「っ、!」
無意識に目を見開くと、まるで興味を失ったように真顔になる目の前の人。
「あの場に飛び込んでくるたァ、さぞかしブッ飛んだ奴かと期待したが…、蓋を開けてみりゃあその辺の娘となんら変わりねェわけか」
興覚めだ、なんて冷たく言い捨てられる。
勝手に興味を持ったのはそっちのくせに、全くもって酷い言われよう。
……でもさあ、怖くて当たり前じゃない?
だって!だって、そんな…!
「そんな鳥の羽のコート着てたら怖いに決まってるじゃないですか!」
「……あ?」
「初めて見た時から思ってたんですよ!それ本物の鳥の羽なんですか?だとしたら怖すぎます!悪魔の実の影響とは言え、一応わたしも鳥の端くれなんです!同族なんです!」
感情に任せて、なんともへっぽこな啖呵を切ってしまった。
さりげなくチラリとドフラミンゴさんを見れば、その表情はさっきと変わりなく冷めきっている。どうしよう、超こわい。
「…わたし帰りま、」
「生意気な口叩くじゃねェか」
「えっ」
「どうだ、お前の羽もこの中に仲間入りさせてやろうか?フフッ」
「い、嫌です!絶対いや!ていうかやっぱりそれ本物なんですね?!」
身の危険を感じて、部屋から脱出しようと決意したそのとき。
突然、視界一面がピンク色に染まった。
右も、左も、前も、全部ピンク。
「よく見ろ」
「……。」
「鳥の羽じゃねェだろう」
ズボッとそこから顔だけ出す。
すると、今度は意地悪そうにほくそ笑むその人と目が合った。
「嘘、だったんですか?」
「さあな」
「………。」
「フフフフ」
恐縮ながら、怖いを通り越して少しイラっとした瞬間だった。
(今度おつるさんに会ったときチクっときますね)
(っ!…おい、それはやめろ)
--------------
20161011
ドフィかっこいいですよね!あのワイルドさ、たまらん!