「見ーっけ!」
通りがかりの島で休憩を挟み、パタパタと空を渡ること数日。
ようやくキラーさん属するキッド海賊団の船を発見した。
時は夕刻頃だろうか。
夕日が反射して海面が綺麗な橙色に染まっている。
ふう、いい時間に着けてよかった…。
これがまた、不可抗力で夜中に到着しようものなら最悪もいいところ。本拠地が留まっていない海賊さんたちは一度見逃すとやっかいな為、たとえ非常識な時間であっても突入せざるを得ないのだ。
おかげで危ない目に合うこともしょっちゅう。
まじ怖い。この仕事初めて絶対寿命縮んでます、わたし。
なので、その点からしたら今回の配達はかなりのグッジョブ!
「いやあ、ほんとよかったよかっ、ぐえっ?!」
肩の力を抜いて、思わず独り言をこぼしたその瞬間――。
お届け物を詰めてあるリュックがありえない力で引き寄せられたかと思えば、体ごと船の甲板へと豪速球で突き進む。
「ぎゃああぁぁ!」
ちょっとタンマ!タンマ!タンマ!
この速度は流石にマズいと思うんですけど…!
そんなことを思って顔を青ざめさせていると、ふと何処かから無数の金属音が聞こえてきた。
何事かと振り返ろうとするもののボスッと体に軽い衝撃が走り、背後では大きく海面を叩く音が響き渡る。
「え…。いったい何が起きたの…?」
呆然と口に出せば、頭上から鋭い舌打ちと共に拳骨が降ってきた。
「ひいぃ!痛い!」
「あのままだったら今頃痛ェどころじゃ済まなかったぞ、カモメ女!」
「うわっ!き、キッドさんじゃないですか!」
夕日をバックに、呆れた顔でわたしを見下ろすこの船の船長さん。
ばちりと目が合うと、すぐに逸らされ今度は船の向こう側を見据えている。
「…すんごい船揺れですね」
「そりゃあんだけデケェ海王類がブッ倒れたら揺れるに決まってんだろ」
「海王、類?」
「あァ、お前の真後ろで嬉しそうに大口開けてた」
「………。」
え、ちょ、まじですかソレ…。
てことは運良くキッドさんがココにいてくれなかったら今頃わたし…。
「ぬおお!ギッドざぁぁん!」
「チッ!おいコラへばりつくな!離れろ!」
「だって!だって…!キッドさんが助けてくれなかったらわたし死んでました!本当にありがとうございます!ぐすっ」
世間では凶暴だなんだって騒がれているけど、わたしからしたらキッドさんはとても優しい人だ。現にこうしてただの宅配員であるわたしの命を救ってくれた。
ああ、もう!安心したら涙より先に鼻水が…。ずびっ。
「キッド」
「あァ、どうしたキラー」
「この揺れと、さっきの大きな物音なんだが」
「っ、あの!それわたしのせいなんです!わたしが食べられそうになってるところをキッドさんが助けてくれて…!」
キッドさんの陰から飛び出して、必死に状況を説明する。
わたしが飛び出た瞬間、びくりと肩を跳ねさせていたキラーさんは本当にわたしがいることに気付いていなかったんだろう。驚かせてすみません。
「そうか…。それよりなまえ、来てたのか」
「はい!今日もキラーさん宛にお荷物預かってます!」
がさごそとリュックを漁りながら言葉を続ければ、「ありがとう」とキラーさんの大きな手に頭を撫でられる。
以前聞いた話によるとキラーさんは船の特殊パーツを注文することが多いらしく、わたしがお届けにあがることが多々ある。それ故に顔を覚えてもらい、こんな感じでフランクに接してもらえるようになったのだ。
「いつも悪いな。助かってる」
「いえ!こちらこそ助けて頂いて…。」
キッドさんに視線を移して、小さくつぶやく。
すると、それを聞いていたキッドさんがなんでもないような顔で楽しそうに一言。
「お前だから助けた」
「……え?」
「食われそうになってたのがなまえじゃなかったら見殺しにしてたろうな」
そこまで言うと、くるり。
身体を反転させたキッドさんはゆっくり船内に続く扉へと歩いて行ってしまう。
「えっ、えっ。えええ?!」
どどどうしよう!なんか今のすっごく嬉しい!
嬉しすぎるんですけども…!
「キラーさん…。」
「どうした?」
明らかに面白がっている声色のキラーさん。
表情こそ見えないけど、その分声に感情が乗っている気がする。
「キッドさんって、本当優しいですね」
思ったままに言うと、今度こそ面白そうに笑ったキラーさんに「そうだな」なんて再び優しく頭を撫でてもらった。
ああ、キッド海賊団ってなんていいところなんだろう…!
(それじゃあそろそろお暇します!)
(あァ、また頼む)
(はい!こちらこそよろしくお願いします!)
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20161011
キッド船長に特別な扱いされたらメロリンラブ間違いなしです。男らしい優しさ、大好きです…!