子ども体温
……さむい。冬の夜は冷え性の敵だ。いくら布団の中で身体が温まってきても、足の指先がじりじりと冷たい。よって、眠れない。つくづくいいことなしだと思う。
「今日に限って晋助もこないし…。」
ぽつりと呟いた声が闇に溶けて切ない。
冷える夜は大抵わたし以上に冷え性の晋助が暖を取りにやってくるのだけど、今日に限ってこない。来いし。なんで来てくれないんだ湯たんぽ晋助め。
……こうなったらこっちから行ってやる。
そう思って部屋を出たものの、床が氷のごとく冷たい。耐えられず、近くの襖をスライドして中に飛び込めば部屋の持ち主がむくりと起き上がった。寝ぐせのせいだろうか。見慣れたモジャモジャがいつもより倍増しでボリュームアップして見える。
「んん、…なまえ?」
「ごめん辰馬!」
「ぬおっ!」
眠そうに目を擦っていた辰馬をぐいっと奥に寄せて布団に飛びこんだ。ぬくもりを手繰り寄せるように体を潜り込ませれば、自然と頬が緩む。ふおぉぉ、ぬくい…。
「辰馬って子ども体温なのか…。」
「あっはっはっ!なにこの状況?どーなっとるんですかー?」
「寒いから湯たんぽになってくださいお願いします」
「……誘っちゅうかが?」
「断じて違う」
そう捉えられても仕方がない行動をしてるのは百も承知だ。だからこそ、人は選んでるつもり。辰馬には申し訳ないけど、信頼してるので男女の間違いとかはナシでお願いしたい。大丈夫、あの晋助だって手を出してこないんだ。わたしの女としての魅力は取るに足らないものなのだろう。……言ってて切ない。
「まあでも辰馬がどうしてもだめって言うなら退散するけど」
上半身を起こしたままの辰馬に言えば、ふとお互いの足先がぶつかった。瞬間、辰馬の身体がぴくりと震える。
「なまえの足はずいぶん冷っこいのう」
「生粋の冷え性だからね」
手も冷たいよ、と辰馬の手に触れる。すると数回瞬いたあとに「これより冷やしたらいけんぜよ」なんて布団を被せられ、続いて辰馬本人もモゾモゾと潜り込んできた。…うん、やっぱり辰馬あったかい。
「ねえ辰馬」
「ん?」
「このまま寝てもいい?」
襲い来る睡魔に抗わず、目を瞑ったまま聞く。
取り巻く雰囲気で、なんとなく辰馬が笑ったのがわかった。
「構わんき、寝れ寝れー」
「…へへっ、ありがとう」
「腕まくらばしちゃろうか?」
「や、それはいいです」
「ほんじゃあ抱き枕に、」
「遠慮します」
「あっはっは!世知辛いの〜!」
寝てるところを起こして、布団を半分奪って、そのうえ図々しいお願い事までして。それでもこうやって終始笑ってすべてを受け容れてくれる。辰馬とはそういう男なのだ。優しくて寛大で、……それでいて人の話をあまり聞かない。あの、いや、だから腕枕はいらないって。お断りしたよね?!
「ちょっとたつ、ま…。」
意義アリ!と抗議すべく顔を向けたものの、まさかのまさかでスピード入眠したらしい辰馬の寝顔を前に言葉が詰まった。え、寝た?まじ?ついさっきまで爆音で笑ってたのに…。なんて思うけど、元々寝てるところを無理に起こしたのだ。そりゃあ眠いに決まってるよね。幸せそうな寝顔を眺めつつ、胸の内で「ごめんね」と謝る。
「(だけどまあ…。偶にはこうやって甘やかされるのも悪くない、かな)」
どこからか沸いて出た自分の本心に、 くすりと笑いが零れた。持ち上げかけた頭を再びその腕に預ければ、自然と瞼が閉じてゆく。
なんとなく、今日はいい夢が見れそうな気がした。
(ふあ、…ってあれ?なんでわたしの布団で寝てるの晋助)
(寒ィから来たんだよ。なんでいねェんだお前)
(辰馬のとこにいたの!まじ辰馬超あったかいよ!よければ今度晋助も、)
(行かねーよ。俺とアイツが一つの布団で寝てたら気持ち悪ィだろうが)
(ああ、まあ、…たしかに)
20161115
辰馬かっこいいです。グラサンなし辰馬が個人的にツボです!
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