「そういえばこの前見かけたんやけど」
「なにを?」
「ほら、なんやっけ…。」
指定の体育ジャージに身を包んで校庭へと向かう途中、隣を歩いてる宝林寺ともう一人の友人がそれとなく話し出した。
それをこちらも何気なく聞いていれば、ふと友人と目があう。
「あの子や、あの子!財前の!」
「ああ、みょうじちゃん?」
「おっ!そうそう!みょうじちゃん!」
宝林寺の言葉に、大きくこくりと頷く友人。
思い出せたことが余程嬉しかったのかテンション高々で何よりやけど、ひとつだけ言わせてほしい。
みょうじ、別に俺のとちゃうわ。
「…で、そのみょうじがどうかしたん?」
上履きを靴箱に押し込み、外履きに履き替えながら聞く。
すると、不意にがしりと肩を組まれて思わず足元がふらついた。で、前に居った宝林寺の靴の踵をおもっきし踏んだ。や、悪いの俺ちゃうで。こいつやで。
「ちょお、ほんまになんやの」
「いやあ、みょうじちゃんさー。中学ん時はなんも思わんかったけど、JKなってからなんやかわええやんなあ」
「………は?」
予想外の一言に、つい反応が遅れる。
するとそんな俺の顔を見た宝林寺が小さく目を見開いた直後、なにやら可笑しそうに笑いだしたではないか。
いつだかにみょうじが言っとった「宝林寺先輩の爽やかスマイル」とはこれのことか、なんて関係ないことを考えつつ校庭に続く道を歩く。
いや、でも、それにしても。
「どこが」
「え?」
「…せやからどこがええの、みょうじの」
若干の居心地の悪さを感じるが、気にせず問いかければ「せやなあ…。」と真面目に考え始めた友人。
答えを探す真剣な横顔をぼけっと見ていると、今まで口を挟まず傍観していた宝林寺が「光も思ってたんとちゃうん?」と突然ようわからんことを言う。
俺も思ってたって、…はあ?なんやそれ。
「みょうじがかわええって?」
「おん。せやって光、中学ん時と比べてみょうじちゃんの扱い変わったやん」
「別に同じやろ」
「ちゃう」
即答した宝林寺を前に、無意識に口を噤む。
「中学ん時はホンマにからかうんが楽しいーって風やったけど、最近のはなんやアレや!甘酸っぱさ漂っとんねんお前ら!」
「あー、なんやそれわかる!青春的なやつな!」
「そうそう!それ!」
はあ?ありえへんやろ、そんなん。
俺ん中でみょうじはただのとっつきやすい後輩やで。
かわええだの青春だの、なに勝手なこと言うてんねんコイツら。
……せやけど、この前宝林寺があいつの頭優しーく撫でとんの見た時は無償に腹が立った。みょうじのヤツも照れくさそうに顔赤らめよってなんやったんアレ。青春的なのやっとんのお前らやんけ。
………。
って、なんやのこの乙女思考。
きっしょいわ、俺。げえ。
「あ、噂をすればみょうじちゃんや」
「…いや、居らんけど」
友人の一言に辺りを見渡すけど、どこにもみょうじの姿は見えない。
「居るよ!おーい、みょうじちゃん!」
横で宝林寺が大きく声を張る。
その視線はどうやら上へと向いていて同じように視線を上に動かせば、たしかに居った。
渡り廊下を歩く足を止め、驚いたようにこっちを見てるみょうじが。
「おっ!気付いたで、光!」
楽しそうに笑う宝林寺に「よかったやん」と返し、本来の目的地である校庭へ向かおうと足を踏み出す……つもりだったが、その一歩は手首を鷲掴まれたことにより、あっけなく阻まれた。
…なんやねん、離せやアホ宝林寺。
そう思った直後、手首を持ち上げられ無理やり左右にブンブン振られる。
それが腑に落ちず隣に目をやれば、宝林寺本人も逆側の手を大きく振ってニコニコと上を見上げていた。
「おいコラ巻き込むなや。手振りたいならピンでどーぞ」
「いややー、コンビがええもん」
「俺も入れてーや!トリオでいきましょ!」
「ほなお前らでコンビすればええやろ」
はあ、とため息を吐いてなんとなく上を見上げると、つられるように宝林寺もみょうじの方を見た。
ニッと楽しそうな笑顔を浮かべるその横顔に、思わず脱力する。
…ああ、もうええわ。気が済むまで好きにせえや。
再び振り回される自分の腕をそのままに、手持無沙汰にみょうじのことをじっと見ていると、何やらみるみるうちに眉が下がっていくのに気が付いた。
その視線はふよふよと俺と宝林寺の間を彷徨っている。
てか、なんやそのオカメインコみたいな顔。
「……なんちゅう顔しとんねん、あのアホ」
「え?光、今なんか言うた?」
キョトンとしながら俺の顔を窺う宝林寺はこの際スルーや、スルー。
とりあえず、今俺の思考を占めとんのは――
なあ、みょうじ。
お前ソレどっちに向けての反応なん?
それに尽きる。
(顔、真っ赤やんか)
-------------
妬いちゃう財前先輩とか…デへへ。大好物です(*´з`)笑