青春エメラルド | ナノ


「チッ」


ミルクティを求めて自販機に百二十円を投入した時のことだった。
背後から身に覚えのない鋭い舌打ちが聞こえてきて、ミルクティのボタンに伸ばされた人差し指がビクリとブレた。そう、大きくブレたのだ。

結果、ゴトンと落ちてきたのはミルクティの横に配置されていたブラックコーヒー。

う、うそでしょ…。うそだと言ってくれ…。
わたしブラックコーヒーなんて苦すぎて飲めないよコンチクショウ…!


取り出し口に鎮座するコーヒー缶を泣く泣く握りしめ、手元を狂わせた犯人を確認するべくさりげなく後ろを盗み見る。
怖い先輩とかだったら何も言わず立ち去ろう。最初からこれがお目当てだったんです的な雰囲気醸し出してドロンしよう。

なんてチキン思考で盗み見た先には――、


「ホンマぶち犯したろかアイツら」


くっそ怖い顔でくっそ恐ろしいことを口走る財前先輩がいた。
踵を踏み潰し、まるでスリッパのようにつっかけている上履きで貧乏ゆすりをするその姿は圧巻すぎる。めっちゃ怒ってる。どーしよう、関わりたくない。


「え、えーと」

「屋上」

「…はい?」

「こんなとこ居ったらまた囲まれるわ。屋上行くで、みょうじ」


囲まれる?……え、何に?
いまいち話が掴めず鬼のようなオーラを放つ財前先輩を見る。
しかしわたしの視線を華麗にスルーした先輩は一歩自販機へと近づくと、そのままピッとSuicaをタッチして迷うことなくボタンを押した

直後、ゴトンと落ちてきたのは……ミルクティ。


「ほしかったんコレやろ」


な、なんでわかるんだ…!
エスパーかこの人!
驚きながらもコクコクと頷けば「ほなそっち寄越しーや」とコーヒーの代わりにミルクティを渡される。

さながらキビダンゴを頂いたイヌの気分だ。これを受け取った以上は屋上にお供するしかない。
って言ってもまあ、うん。…今の嬉しかったしいいや。
今日のところは大人しくお供しますとも!


とまあそんなこんなで屋上へと辿りつき、地べたに腰を下ろしてフェンスに背を預ける。
同じく財前先輩もわたしの隣にやってきてズルズルと腰を下ろした。


「で、どうしたんですか?」


買ってもらったミルクティを一口飲んでから聞けば、荒んだ眼をこちらに向けた財前先輩が静かに口を開く。


「今日から風紀委員が活動始めたやろ」

「ああ、たしか昨日どこの委員会も初顔合わせありましたもんね。風紀委員ってもう活動始めてるんだ」


行動が早いなあ、優秀だなあ、なんて感心していれば「バリうっといねんアイツら」と低く唸るような声が聞こえてひくりと頬が引き攣る。
どうしたっていうんだ。いったい風紀委員に何されたんだ先輩…。


「あ、もしかしてピアスのことですか?」


恐る恐る発言してみたら、さっきよりも数倍憎しみの籠った舌打ちをされた。


「中休憩の度に教室まで来よってなんやねん。言うとるお前らの耳にもジャラジャラ付いとるやんけ。1年から3年まで風紀女子総出で来るてどないやコラ。あーほんまうっといきっしょい」



の、ノンブレス!息継ぎなしで言い切った…!
よっぽど鬱憤が溜まっているのか、更にもう一発舌打ちが鳴る。
まじ怖いんですけどこの先輩。


「そういえば今季の風紀ってイケイケ女子多いんでしたっけ」

「ほぼギャル」

…なるほど、読めた。財前先輩って話しかけづらい感あるし、ファンの女子軍が風紀委員のポジションを有効活用してるのか。

「まあでも捉えようによってはハーレムじゃないですか」


1年から3年までの煌びやかギャルに囲まれるなんて他の男子からしたら羨ましいんじゃないかな。わたしが男だったら羨ましく思うもん、きっと。
そんな軽い気持ちで言ったら「あァ?」と凄まれてしまった。ひいぃ…!


「アイツらにピアス渡してもうたら絶対返ってこんわ」

「でしょうねー。外して持ってても難癖付けて没収されそうですし」


そこまで言ったところで、ふと財前先輩からグーに握った手を差し出された。
反射的に手を広げると、そこに落とされたのは5つのピアス。
…ええっと?これはつまり?


「持っとって」

「えっ!わたしがですか?」

「おん。それ気に入っとるから取られたないねん」

「でも今日はそれでどうにかなっても明日以降は、」

「どーでもええの付けてくるから今日乗り切れればええ」


コーヒーのプルタブを開けながら言う財前先輩を横目に、モテるっていうのも大変なんだなあなんてしみじみ思った。


「わかりました。じゃあ今日一日わたしが預かってあげます!」


そう恩着せがましく宣言して手の中に転がる5つのそれを何気なく眺める。
すると、不意にポンと大きな手が頭の上に乗せられて。
驚いて横を見れば、正面を向いたまま缶コーヒーを傾ける財前先輩。


「っ!」


その横顔がどこか嬉しそうで、相も変わらず伸ばされた手がわしゃわしゃとわたしの頭を撫でくり回すものだからなんだか調子が狂いそうだった。

や、やばいぞコレ!なんか恥ずかしい…!



(あれー?財前君ピアスは?)

(自分らが外せ言うたんやろ)

(えー、でも持ってるんでしょ?カバンとかー)

(なんも入ってへんけどドーゾ)

(わ、ほんまにないやん!)

((えー!))


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ブチギレ財前くんは言葉が恐ろしいくらい乱暴だったらイイな〜と思いまして(*ノωノ)
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