青春エメラルド | ナノ



今日は午前の時間をフルに使って一年から三年まで一貫で体力測定をするらしい。
そんなわけで体育館から校庭まで様々な種目が張り巡らされている中、一緒に行動していたマリちゃんがふと嬉しそうに口を開いた。


「これって自由に好きな種目から回ってええやんな?」

「せやでー。マリちゃん先行きたいとこあるん?」

「えっとな、せっかく他学年合同やし噂の先輩たち見てみたいねんけど…!」


そう言ってポッと頬を赤らめるマリちゃんは今年の春から四天宝寺にやってきた所謂外部受験生で、自然と耳に入ってくるイケメン先輩たちのことが猛烈に気になるらしくそれはもう目力がすごい。イケメンへの執念が滲み出てるよ、マリちゃん…!


「マリちゃんまだ白石先輩達見たことないんかー」

「せやねん!三人とも内部生やから詳しいやんな!教えてやー!」


この仲良しメンバーはわたし含めて4人。
マリちゃんを除いた3人は中学から四天生なので、「噂の先輩たち」と言われれば誰を指しているのかなんてちょちょいのちょいである。

すると、中学からの友人がパッとわたしの方を振り向いた。


「そのうちの1人はなまえと居れば必然と会える!」

「そうそう!なまえてば財前先輩ホイホイやから」

「ちょ、人をゴキブリホイホイみたいに言わないでよ!」


口を尖らせて言えば、盛り上がっていた友人が唐突に「なあ、今の話と関係ないんやけど…」と渋い顔でわたしのことを見渡す。…え、急になんだろう。


「なまえ寒々しい」

「えっ」

「あ、それあたしも思っとった!上ジャージ着てへんのなまえだけやん!」


考えないようにしてたけど、そう言われるとまだ冷たい春の風がじわりと肌に染みる。
うわあ、鳥肌立ってきたし。


「普通に忘れたよね。むしろ今朝までパジャマ代わりにしてたしね。」

「アホやー」

「アホの子やー」

「相変わらずアホの頂点極めとんな」


背後から聞こえてきた最後のセリフにゲッと顔が歪む。
わかる、わかるさ。そりゃあこれだけの付き合いになれば声だけで判別できる。友人の言うとおり、わたしは根っからの財前先輩ホイホイなのかもしれない。


「…財前先ぱ、いぎゃあ!」

「変な声」

「なっ!なにしてくれてんですか!ただでさえ寒いのに…!」


首に触れる財前先輩の手から冷気が流れ込んでくるようなこの錯覚!
どんだけ手冷たいんだよこの人!まじ冷え性でしょ!


「うわ。鳥肌キモい」

「だから寒いんですって!」

「セーター羽織ってくればよかったやん」

「…へ?」

「せやから、セーター。あるやろ?」

「………」


怪訝そうな顔をする財前先輩を前にフリーズ。
も、盲点だった…。たしかにこれ体育の授業じゃないしセーター着てきてよかったのか。うわ、気づかなかった。


「あ、おったおった!光ー!」


自分のアホさにショボくれていると、離れたところから二年生の先輩が財前先輩のもとへと駆け寄ってきた。
たしか中学の時から先輩と仲が良い人だ。
バスケ部のイケメン先輩。


「他の奴らも探しとったで」

「おー。ほなそっち行くわ」

「まあ言うても次どれ行くか決まってへんのやけどなー」


バスケ部イケメン先輩がそう言うと、財前先輩がふとわたしの方を振り向く。
その行動に首を傾げれば、ひょこっと顔を覗かせたバスケ部イケメン先輩に「あ、みょうじちゃんやん!」と微笑まれた。ぬおお、爽やかイケメン…!


「こ、こんにちは!えっと…、」

「宝林寺ですー」

「あ、そうだ!宝林寺先輩!」

「ほんま何回教えても覚えてくれへんよな、みょうじちゃん」

「反省はしてます」


へこりと頭を下げる。
すると「次は覚えててな!」と楽しそうに笑われた。
……いい。宝林寺先輩ちょーいい。素敵!


「デレデレすんなや。きしょい」


そしてこの財前先輩である。
正反対だなホント。
なんで仲良いんだろこのふたり。謎だ。


「…まあええわ。次シャトルランな、宝林寺」

「お?おん、ええけど…。」


キョトンとした宝林寺先輩が返事をしたその直後。
財前先輩がおもむろに上ジャージを脱いだかと思えば、丸めたそれをすごい勢いでわたしの顔面めがけて投げつけてきたではないか。
いくら服と言えどこの距離でその投球はアウト!激痛なんですけど!


「それ預かっとって」

「あ、あのですね!もっと優しい渡し方ってもんが…!」

「ない。ほんでお前落としそうやから手で持っとらんと着とけや」

「……」


……なるほど。そうか。
これは稀に見る財前先輩のデレだ。
とってもわかりづらいけどデレで間違いない。


「…ありがとうございます」


既に体育館の方へと向かい始めたその背中に小さくお礼を言えば、「シャトルランで汗だくなんの嫌なだけやし」「みょうじのためちゃうわ」なんて誤魔化されたけど。

…うん、とりあえず宝林寺先輩。
その意味深なニヨニヨ顔をやめてください。



(それよりそこの3人!なんでそんな離れたとこにいるの!)

(や、なんかマリちゃんに引っ張られてん)

(か、かっこよすぎて近寄れへんのやけど…!財前先輩!)

(おおう、財前先輩推しなんかマリちゃん!)

(きゃー!んもう、めっちゃイケメンやん!やばい!)


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わたしの高校時代は体力測定を学年一貫でやってたんですけど、他のところはどうなのでしょうか…?ヾ(・∀・;)
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