青春エメラルド | ナノ



愛車(チャリ)に跨り、のんびりと登校していた午前8時すぎ。
横断歩道の手前で信号が青になるのを待っていると、不意に車体が後ろへと傾いた。


「おはよーございます」


この奇襲も今となっては慣れたもので、特に動じず前を向いたまま朝のご挨拶。


「ねっむいわー」

「ちょ、そこで寝ないでくださいよ!危ないんで!」

「うっさい近くで声張んなや」

「なっ…!」


自分から寄ってきたくせになんて理不尽な!
青に変わった信号を見上げながらそんなことを考えていると、今度は力のない声で「なあ」と声がかかる。


「どうしました?あ、進むんで気をつけてくださいね」

「みょうじが気を付けるんやろ。振り落としたらひっぱたくで」


抑揚のない声でそんな恐ろしいことを言わないでほしい。それか言ってもいいけど「ジョーダンだぴょん」とかなんとか言って与えた恐怖のアフターフォローまでしてください。
……いや、やっぱ語尾「ぴょん」はナシで。余計怖い。


「で、なんです?」

「…入学おめでとう」

ふわりふわりと桜が散りゆく中、眠そうな声で紡がれた言葉に笑いながら「ありがとうございます」と返す。


「でも急に改まってどうしたんですか?」


らしくないなと思って何気なく聞いてみれば、若干の沈黙のあとに「俺、」と先輩が話し出す。


「俺、お前は四天の高等部来ーひんかと思っとった」

「えっ!なんで!」

「俺おるやん」

「……ああ、まあ」


そうですねえ、と納得すると「ちょっとは否定しろや」なんて背中に頭突きをお見舞いされる。痛いです、財前先輩。


―とまあ、当の本人がこうして自覚するくらいにわたしは中学時代この財前先輩のいいオモチャにされていた。
キッカケこそ覚えていないけれど、わたしが中二に上がった頃くらいからやけに頻繁にちょっかいをかけてくるようになったのである。……や、あれはちょっかいなんて可愛らしいものじゃないか。もはや嫌がらせの域だった。


だけどまあ…、


「登下校中以外もまたジャイ前先輩にイジメられると思うとアレですけどやっぱりエスカレーター式進学の楽さには負けましたよね!」

「爽やかに決めとるとこ悪いんやけどジャイ前てなんなん」

「財前先輩とジャイアンを複合させてみ、って痛!つねんないでくださいよ!」


脇腹をつねる財前先輩の手をノールックで叩き落す。
すると今度はお腹にぐるっと腕が回され、どう撃退しようか考えるけれど不意に聞こえた「寝る」の一言を聞いて渋々まきつく腕を外すことを諦めた。だって落ちられても困るし。

あ、段差も避けないとだよね。振動で落ちるかも。
そういや細い道も、急カーブの道も怖いわ。

………って、あれ?


(ねえ、財前先輩やっぱ無理起きて)

(いやや)

(先輩に寝られると通れる道が制限されすぎて遅刻コースまっしぐらなんですけど!)

(俺は別にええし)

(くっ…!)


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財前くんは先輩だと、ドS感8割増くらいになりそうですよね!
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