青春エメラルド | ナノ



「みょうじ」

「はい?」

「お前スマホの持ち歩き用充電器持ってたやんな?」

「今使ってますけどね」

「貸してもらってもええ?」

「いやだから使ってますって!」


ほら、見てくださいよ!と充電中のスマホを見せつける。
しかし、ヌッと伸びてきた先輩の左手に充電プラグをあっけなく引っこ抜かれてしまった。ちょ、なにすんですか財前先輩!いや、ジャイ前先輩!


「40%しか充電なくて困っとんねん。貸してや」

「わたし4%ですよ!40%なんて全然余裕じゃないですか!」


そう必死になって抗議するものの、フッと鼻で笑った先輩が机の上に置いてあった充電器を無駄のない動作でするりとパクっていった。ぎゃっ!なんて杜撰な管理!
そりゃあ持ってかれるわ!アホかわたしは…!

「くそう…。」

戦利品を片手にさっさと1年の教室を出ていく先輩の背中を恨みがましく見つめる。でもってドアから出る瞬間僅かにこっちを振り向いたあの瞬間の顔といったら…!

ニヤリと口角を吊り上げた先輩に通りすがりの女子がバッと口元を抑える。
伝染するように次々と口元を抑える彼女たちに「なんでだ」とツッコミたい。いやだって今のワルイ笑顔にその反応はおかしい。もっと恐れ慄くべきところだよ。「ひっ!」とか悲鳴漏らすべきところだったと思うよ。


――ピロン


「ん?」


悶々と不満を連ねていると、ふとスマホがラインの通知を告げた。なのでアイコンをタップしてみると、


【一桁になる前に充電しとくやろ、普通】


そんな文面と一緒に送られてきた動くスタンプ。謎の生き物がぬるぬると滑らかに動くその様を目を細めながら見ていると、スンっと突然暗くなった画面に泣きたくなる。

……電源、落ちたじゃん。

充電ないって言ってるのになんでラインしてくるかな…。しかも如何にも電池喰いそうなスタンプまで引っ付けて!


「絶っっ対嫌がらせだよねコレ!」


眉間に皺を寄せ、悔しさを滲ませながら呟く。


「そうそう、この感じやわ〜!」

「久しぶりに見たやんな!リアルのび太とジャイアン」

「いやいや、いつもこんなんじゃん…。日常茶飯事じゃん…。」


言ってて悲しくなるようなことをポツリポツリとボヤいて、顔を綻ばせる目の前のふたりをジトっと見る。なんでそんなに楽しそうなんだ…。もっと慰めてくれてもいいと思う。


「いや、最近のは違ってたでなまえ!」

「えっ?」

「なんやマイルドになってたもん!」

「それそれ!なんかこう、淡かったもんなあ!」

「マイルド…。淡い…。」


そう言われてみれば、思い当たらないこともない。
たしかに最近はジャージを貸してくれたり頭を撫でてきたりと、異様に優しさの滲むようなことをされてきた気がする。一昨日だって食べかけじゃないパンくれたし…。

パンといえば、中学の頃なんて酷かった。
普段滅多に食べ物を寄越さない財前先輩から「やる」と言ってコロッケパンの袋を手渡され、それはもう大喜びして噛り付いた。そしたらまあ、食べても食べてもコロッケなんて出てこないじゃないか。最後までコロッケ不在のコロッケ抜きパンに、絶妙な精神的ストレスを与えられた挙句、鼻で笑ったあの時の先輩の顔をわたしは一生忘れない。現に2年経過した今でも鮮明に思い出せるわ!チクショー!


「あれ?ほんとなんで財前先輩を選んだんだあの時のわたし…。」

「えっ?選ぶってなに!なんの話?!」


いやでもパッと思い浮かんだんだよなあ…。
それがまた深層心理っぽくて恐ろしい。
深層心理で「財前先輩>宝林寺先輩」ってこと?やばくない?わたしまじでドМだったのかな…。


「ちょお詳細!詳しく言いやなまえ!」


あのバランスの狂いまくった飴と鞭にやられた、とか?たまにくれる飴の部分だってほろ苦いくらいなのに?もうね、無糖のコーヒー飴レベルだよ。もはや甘やかされてないよねソレ。

……ていうかアレだ。わたしがおかしくなったんだとしたら屋上でのアレ。なんか色っぽい顔して頭撫でてきやがった時の……うがああ!思い出したらちょっとかっこいい!あの笑顔がかっこよかったのは認めざるを得ないぃぃ!


「ダメや…。自分の世界入ってもうた」

「なまえー、先生きたからあたしら席戻るで!あとでちゃんと説明しいや!」

「うおお…。」



+ + +


それから授業が終わるまでの1時間はあっという間だった。気付けば終わってた。だってずっと考えてたもん。泣きそうになりながら自分を見つめ直したもん。…まあだからってなにも結論は出なかったけども。


「とりあえず充電器取り返してくる…。」

「1時間の間に何があったん!顔やつれてんで!」

「そんなわたしを心配してくれるのであれば一緒に2年の階に、」

「いってらっしゃい!帰ってきてから話聞くわ!」

「あたしも!頑張ってななまえ!」



そんな薄情な友人たちに見送られ、嫌な緊張感に包まれながらも2年のフロアに辿り着いた。が、どうしましょうか。わたし財前先輩が何組かなんて知らない。
これが同学年のフロアだったらひとつずつ教室覗いてもいいけど流石に先輩となると気が引ける。ていうか怖い。2年の先輩ギャル多いし。ピアスとかじゃらじゃらだし…!


「あれ?キミたしか財前の子やんな?」


背後から声を掛けられて咄嗟に振り向くと、なんだか見たことのある先輩が立っていた。……あ、たしかこの前渡り廊下で財前先輩たちに会った時一緒にいた人だ。だけど間違ってます先輩。わたし財前先輩のじゃないです。


「財前のこと探してるん?」

「は、はい!」


うん、そこは当たってる!勢いよく頷くと、笑顔を浮かべた先輩がちょいっと廊下を指差した。


「俺同じクラスやし案内したるよ」

「えっ!いいんですか?」

「ええに決まってるやん!ほら、おいでー」

「はい!ありがとうございます…!」


なんて優しい先輩なんだ…。宝林寺先輩といいこの先輩といい、なんだって爽やかで優しい人は総じて財前先輩の周りに集まるんだろう…。同族嫌悪とかいう言葉があるくらいだしやっぱり真逆の人間性に惹かれるんだろうか。なんて財前先輩に対して失礼極まりないことを考えていると、早くも目的地が見えてきたらしい。


「あっこやで。んで、財前の席は窓側!」

「窓側ですか…。」


廊下から1番遠いのか。まじか。
……って、あそこのドアのとこにいるのってまさか!


「ちょっ、先輩!」

「おっ!どしたん?」

「あそこにいるのってミス四天の人ですよね?くっそ可愛い!」


興奮して先輩のシャツの袖を引っ張ると、可笑しそうに笑って「せやな、ミス四天やなー」と背中を押されドアの前まで連れて来られる。いや、あのわたしミス四天と並びたくないです。なにこれ罰ゲーム?
そう思いながらもちらりと隣を見れば、まるでモデルさん並みに可愛いミス四天さんと目が合って一気に頬へと熱が集まる。やっ、やばい!可愛い!イイ匂いがする…!


「おーい、財前!呼んでる!」


普段より少し深めに呼吸をして香りを堪能していると、気を遣ってくれたらしい先輩が財前先輩のことを呼んでくれた。あ、ありがたい!どこまでも優しいなこの方…!


「おっ、気付いたで」

「で、ですね!助かりました!」


先輩とそんな会話を交わしていると、ふと財前先輩の視線が左右に行き来していることに気が付いてしまった。
この優しい先輩とわたし、ではない。
まさかのミス四天とわたしを見比べている。

たっ、頼む!頼むからやめてください…!
こんな男たちの憧れのような完璧な人と並ぶだけでも罰ゲームなのに!そんな露骨に見比べられたら落ち込む通り越して泣けてくるわ!


そんなことを考えて心中荒れ狂っていると、ようやくその視線がわたしの元へ固定された。
からの、何かもの言いたげに顔を顰める財前先輩。
……なんだそれどーいう意味ですか。
不満げに目を細めれば、今度はとても悩まし気に頭を抱えられたから心外である。

同じ女でもこんなに差があるのか、とかって衝撃受けてんのかな。そうだったら一発ぶっていいですか財前先輩…!



(充電器返してください)
(…アカン、目が正常に機能してへん)
(はい?)
(いや、頭か。頭が可笑しくなったんかな)
(それは前からだと思、いだっ!何すんですか財前先輩!)


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並ばれると無意識に比べちゃう現象(ジャイ前先輩のターン!)(´ρ`)笑
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