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モビーディック号の船上では今日もまた、いつもの如く理由のない宴が開かれているわけだがーーー、


「エースたいちょ、わたしまだのめるよ!」

「俺だって飲める!」


右から呂律の危ういなまえ、左から顔の真っ赤なハルタ。
俺は今、絶賛酔っ払いに絡まれている真最中だ。
それもこれも数十分前になまえが発した一言が発端で。


「わたしハルタにだったら飲み比べしても負けないと思う!」


これを聞いてムキになったハルタが「じゃあ試してみる?」なんて言い出して、偶然にもこいつらの側につっ立っていた俺が審判役として任命された、というわけだ。
仕方ねェから酒を飲みつつなんとなく勝負を見守っていれば、いつの間にかベロンベロンに出来上がった二人が両側からもたれ掛かってきやがる。
なんだこいつら、ドングリの背比べもいいとこじゃねェか。


「おい、お前らもうやめとけよ」

「なんで!のめる!」

「嘘つくんじゃねェ、まともに喋れてねェぞお前」

「あ、じゃあ俺の勝ちってこと?」

「さあ、どうだかな」


嬉しそうな表情を浮かべて俺の顔を覗き込んでくるハルタのでこを軽くパシンと叩けば、そのままふらりと後ろにブッ倒れてものの数秒で寝息が聞こえてくる。
大方、すでに限界寸前だったんだろう。
やっとうるせェのが片方減った、と肩をなで下ろしたのも束の間で。
お次はその光景を見ていたなまえが騒ぎ出す番だった。


「わ、はるたねた!これわたしのかち?」

「お前も一発ブッ叩かれたら落ちるだろうが」


スッと手を見せて言えば、ハルタと同じくゴロンと寝転がったなまえが「えーすたいちょこわい!」なんて言いながらゴロゴロ軽がり始めて。
うわ、もうなんだよこいつら。めんどくせェよ。


「なあ、なまえ」

「んー?」

「お前もう部屋戻って寝ろ」

「えー、やだ!まだのめるもん!」

「無理だっつーの」

「むりじゃない!」


今にもオチそうな目で言われてもなんの説得力もねェ。
ハア、と小さくため息を吐いて樽ジョッキを床に置くと、ごろごろ寝転がっているなまえの腹あたりに腕を回してぐいっと力任せに持ち上げる。
そのまま肩へと担ぎあげれば、予想通り離せだなんだとぎゃあぎゃあ騒ぎ始めたもんだから堪ったもんじゃねェ。
空いている方の手で口を塞いでやろうとしても顔をブンブン振るもんだからそうもいかなくて、仕方なくこっちも声を張り上げる。


「おま、声でけェんだよ!黙れ!」

「だってまだもどりたくない!」

「うるせェ戻れバカ!」

「ば、ばかじゃない!」

「あ、おいサッチ!あっちでハルタぶっ倒れてっから運んでやってくれよ」


通りすがりに出くわしたサッチにそう伝えれば、肩にいるなまえを見てこの状況を察したのだろう。
呆れたように微笑んで「任せとけ!」と言うと、なまえの頭を軽く撫でてハルタの転がる方へと歩いて行く。さすがサッチ、頼りになるぜ。
そんなことを思いつつ後ろ姿を見送っていると、腕の中のなまえが嬉しそうな声色で「あたまなででもらっちゃったー」なんて呟いたのが聞こえてきた。


「……頭撫でられると嬉しいモン?」

「え、うん!うれしい!えーすたいちょにしてもらったらさらにうれしいよ!」


ふにゃりと嬉しそうに笑って言いやがるもんだから、つい目を逸らして「ふーん」だなんて適当な相槌を返してしまった。
いや、別にこいつが可愛く見えて動揺してるとかそんなんじゃねェ!
断じてそんなことはねェ…、はず。



+ + +



ようやく到達したなまえの自室。
ゆっくりとベッドに体を下ろしてやれば、トロンとした目で俺のことを見つめながら再びふにゃりと微笑まれる。
……頼むからその顔やめてくんねェかな。
なんかこう、男心にグッとくるもんがあって少し焦る。


「なんかねむくなってきた」

「おう、寝ろ寝ろ。俺も部屋戻るわ」

「え、」

「あ、水持ってきとくか?」


なんだかこれ以上こいつの側にいたらいろいろとヤバいんじゃねェかって気がしてきて、早々とこの場を離れようと一方的に話を進める。
よし、水!水な!俺、水持ってくるわ!
無理やりそんな理由を付けて部屋を出ようとすれば、………なんだ。

俺の腰に腕を回して「まって」だなんて引き止められた。
こいつわかってやってんじゃねェのか、これ。


「……どうした?」


理性的なものを総動員させつつポツリと問いかければ、ベッドに座って俺を見上げるなまえにちょいちょい、と手招かれて。
仕方なく目の前にしゃがみこんでやると、突然首元へ腕をがっつり回されて思わず身体的にも精神的にもバランスを崩しかけた。
……ギリギリで踏みとどまることのできた俺を褒めてやりたい、まじで。



「たいちょ!」

「っ、…ほんと、何がしてェのお前」

「なにって…、おれい?」

「お礼?」

「うん!わたしのことめんどうみてくれたおれい!」


お礼…、そうかお礼か。
きっといつもみたいにアホみたいな笑顔浮かべながら「ありがとう!」的なことを言われるんだろう。
そう思うと何処かホッとして、「あ、そっか」なんて頬を緩ませる。


「ありがと、たいちょ!」


そう、ここまでが俺の予想の範囲内だった。

つまり、可愛らしいリップ音と同時に頬へと感じた柔らかい熱なんてのはまったくの想定外で。なにが起きたのか理解すらできなくて一瞬フリーズした。

そしてそこから数秒、頬の熱がふわりと離れていったかと思うと、目の前の彼女がふわりと微笑みながら脱力していくのが視界に入る。……って、脱力?


「お、おい?」

「…ん、ぐう」


流れるようにベッドへと倒れこんだなまえに、何事かと顔を覗き込めばすうすうと綺麗な寝息を立て始めたものだから開いた口が塞がらない。
…え、なんだこれ。寝たのかこいつ。


「えっ、まじで?」


いやまあ、たしかに寝ろっつったのは俺だけどよ…!


(中途半端に盛り上げといての寝オチはねェわ…。)
(ぐう…。)
(なあ起きろ、なまえー)

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リクエストして頂いた「酔っ払いにタジタジなエース隊長」は実際お贈りしたものと、前回ゴミ箱に放ったものとこれの3パターンを書いてました(´・ω・`)
意外と1話のお話として完成してたのでそっとココに置いときます…。
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