南のサンセット




「自習」の文字がデカデカ書かれた黒板をボケっと眺めていると、教卓前の席に座るエースの姿が自然と視界に入る。どうやら隣の席の女の子と教科書にラクガキでもしてるらしく、ふたりで楽しそうに笑い合いながら身を寄せ合っている。


「なまえー」


ぴっとりとくっつくふたりから目線を外して後ろを振り向く。
すると透明感の強いアッシュカラーの髪をゆるふわに巻いた白ギャルがスマホ片手にくしゃりと頭を抱えていた。ちなみにこの子、親友のネネちゃん。今流行りのウサギ顔ってやつで、女のわたしから見てもかなりカワイイ。
神様ってのは本当に不公平だ。


「どしたの?」
「あのさ隣のクラスにローっているじゃん?」
「あー。あの細くて背高いイケメンでしょ?」
「そうそう」
「で、それが?」
「ローとシたい」


項垂れながら呟く親友に唖然とする。
この手の発言には慣れてるからそれ自体はなんとも違和感ないけど、驚いたのはそのお相手だ。ちょ、昨日までキッドがいいって言ってたじゃん…!
もぬけの殻になっている廊下側最後尾の席を指差して言う。


「だってガード固いんだもんキッドー」
「ローくんも固いかもでしょ!」
「えー!セクシー系イケメンで硬派とか最強すぎない?」
「てかまず目標設定がおかしいじゃん!シたいじゃなくて彼女になりたいーとか可愛い目標をかざしてよ!こっちとしても応援しづらいわ!」


ぷくっと頬を膨らませるネネに一喝するも「だってシてみたいんだもんー」なんて最強に可愛らしく返されてしまった。もう完璧にビッチの発言じゃん…。超ビッチじゃん…。

それにしてもこの小悪魔ネネ様相手によくオチなかったなあ、キッドってば。


「そう言うなまえは思わないの?ローとヤリたいとか」
「思うか!ミジンコほども思わないわ!」
「じゃあキッドは?」
「ちょ、もうやめてくれますかネネちゃん!変に想像しちゃう!気まずくなっちゃう!」


脳裏に浮かんだピンクい妄想を急いで消し去る。ご、ごめんキッド。今のは完全に不可抗力だから。俺様なリードしそうとか思ってないから。いろいろと激しそうだなとか思ってないから…!

黒板に背を向けた状態で、ネネの机に顔を伏せる。
すると今度は楽しそうな声色で「エースのこと誘ったら怒る?」なんて言い出すから疑問いっぱいのままゆっくりと顔をあげた。……いや、なんでそこでわたしが怒るんだ。


「オレがなんだって?」
「そして絶妙なタイミングで出てくるよね」


わたしの頭をひじ掛け代わりにして隣に立つエースをチラリと見上げる。目が合うと「絶妙だった?さすが俺じゃね?」なんて問いかけてくるので「はいはい」と投げやりに答えれば、もっとちゃんと構えとでも言うかのようにほっぺをぶにぶにいじくりまわされる。

すると、今まで黙っていたネネがずいっと大きく身を乗り出した。


「ねえね、エースー」
「ん?」
「あたしとシない?」
「なにをだよ?」
「ナニだよナニ」


日中堂々と教室でするべき会話じゃないと思う。反応を窺うように視線を寄越すネネを思い切り白けた目で見てやった。

普段から「なまえってほんとにエースのこと好きじゃないのー?」が口癖になりつつあるネネのことだから、こうやって徐々に仕掛けることでエースのことを意識させようとしてるに違いない。だがしかし、今のところそれはない。
冷静に考えてない。

散々言ってるのに一向に理解してくれないのはなんでかなマイベストフレンド…!


「し、しねえよバカ!」
「えー、つまんない」
「知るか!」
「ちなみになまえに誘われたらどうする?」
「なんでそこでわたし!」


どうあってもわたしとエースを恋愛関係にでっち上げたいらしい。
だからって何言ってんのまじで…!ネネがブッ込んできた特大の釣り針につい食いついてしまった。

でもってエースも黙り込まないでよ……って、あ!もしかしてこいつ!

「脳内シミュレーションするなエース!」
「うわっ、なんでバレた」


ついさっきキッド相手に全く同じことをしたからです、とは言わずにそっと目を逸らす。
不思議そうにしてるエースをひたすら見て見ぬふりしていると、楽しそうな笑みを浮かべていたネネがようやっと助け舟を出してくれた。


「まあ前置きはここまでにしておいて、」
「前置き!?お前どんだけエグイ前置きしてんだよ!」
「あははごめんってー」
「……で?」
「エースさ、隣のクラスのローの連絡先知ってる?」


キュルンと上目遣いで甘えるネネに一切動じず「知ってる」と答えたエース。早くも話の終着点を読んだのかその右手は既にスマホを操作していて、きっとローくんの番号なりラインなりを引っ張り出してるに違いない。果てしなく有能だな。


「ねえエース、」
「何だよ、なまえには教えねえぞ!」
「えっなんで!」

別に求めてないしそんなつもり毛頭なかったけど、突然ムキになるから自然とそれに応戦してしまった。するとネネにスマホを手渡し、不貞腐れた顔で口を尖らせるエース。

「きゃー!なにこのシロクマかわいい!」

この際、ローくんのホーム画面を見て興奮してるネネはスルーだ。…シロクマはちょっと気になるけど。


「なんでって、そりゃあ…。」
「そりゃあ?」
「ロー紹介したら俺の相手してくんなくなりそうじゃん、お前」
「えっ」
「だから教えねえ」
「……なんだろう、不覚にもちょっとキュンとキた」
「まじ?」
「まじまじ」

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ビッチキャラ嫌いな方ごめんなさい。
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