凍てつくパンドラの箱




「やっと自覚したのか?」


逃げるネネを背中に隠したサボ(結果的にそうなっただけだけど)に距離を詰められ、耳元で小さく囁かれた言葉。
自覚?自覚ってなんだよ?
そう疑問が生じたのも束の間で、一拍置いてハッとした。

無意識になまえのいる方を振り向けば、不思議そうに俺を見つめるその姿にドクンと胸が高鳴る。……いや、いやいやいや?


え、まじで?



+ + +


「おいエース!お前どこまで行く気だよ!」
「そんなの俺だってわかんねえよ!」
「はあ?」
「サボが変なこと言うから混乱してんだろうが!」


あの後サボの腕を引き、ただがむしゃらに人の少ない方へと全力疾走してきた。つい先日同じようになまえを連れて走った時は死にそうな顔して息を乱していたけど、さすがはサボだ。引っ張られるというよりむしろ並走しているにも関わらず、一切の呼吸の乱れもなく、呆れを滲ませた表情で俺の目を見てくる。


「変なことってお前なァ」
「でも思い当たる節はある!かなり!」
「…へえ?」
「なまえ、ネクタイ、笑った顔」「なんだよその単語の羅列!文に直せ、文に!」


いつだかになまえが小銭をぶちまけていた自販機の前。
滅多に人の行き来がないそこで足を止めれば、あの時の光景がふとフラッシュバックしてなんとも形容しがたい気持ちになる。
うわっ、なんだよ待てよ俺!あんときは何ともなかったじゃねえか!むしろバカ真面目にパンツの色褒めてたくらいなのに今になっておかしいだろ…!

そう乱心しながら階段に座り込めば、自販機に小銭を入れたサボに「で?」と先を促されたモンだからとりあえずは掻い摘んで説明してみようと思う。ひとりで考えててもわかんねえしな!こーいうのは頼りになる親友に聞くのが1番だ。


「まあ、アレだ!最近なまえが可愛い!」
「あァ」
「は?あァ、ってもしかしてサボも同じこと思って、」
「ただの相槌だよ!いいから先を話せって!」


ふわりと下投げで渡されたスポドリを受け取り「サンキュ」と礼を言うと、隣に腰かけたサボに再度続きを促されたので、素直に従っておく。


「んで、この前なまえが家に来たときヤバかった」
「ま、まさかお前手出したり、」
「しねえよ!するわけねーだろ!」

思わず力が入って右手に持つスポドリがべコリと鈍い音を立てる。


「けど度々そーいうのがあっても特別意識したりはしてなかったっつーか…。ちょっと経てば忘れていつも通り、的な…。」

頭で考えつつ歯切れ悪く言うと、ペットボトルを口から離したサボが少し悩んでゆっくりと言葉を紡ぐ。

「それはエースが考えることを放棄してたからじゃねェの?」
「…放棄?」
「少なからず戸惑っただろ?可愛いだのヤりてェだの思った瞬間は」
「ば、ばか!ヤりてェとかそこまでは考えてねえよ!」
「まあいいから聞け!とにかくそこで答えを探さないから毎回訳わかんねーってなってたんだよ!最初からその可能性を考えてないから気付けなかったんだ!」


……ん?んんっ?サボの言ってることが難しくて首を傾げる。
すると、目を細めて「…簡単に言うぞ」と仕切り直された。さすがは親友。俺の脳内を知り尽くしてるな。


「この2年間とちょい、お前らは仲良く友だちとしてやってきた」
「そーだな!」
「その間ふたりのあいだでは浮いた話もなかったしこれからもないだろうと高を括っていた」
「…そーかもしんねェ」
「だからなまえに対する気持ちのベクトルが変わっても気付けなかったんだよ。恋愛感情なわけがねえ、って最初から決めつけちまってたから」


言葉を選び簡易化して話すサボの声を静かに聞いてると、おわかり?と顔を覗き込まれて小さく肩が震える。
な、なんだコイツすげえぞ…!
恋愛の伝道師か何かじゃねーのかマジで!


「じゃあよ、」
「ん?」
「いつからだと思う?」
「ずっと前から」
「……は?」
「前からその気はあったと思うけど、お前何回か彼女作ったりもしてたしなー。実際ちゃんと恋愛感情になり始めたのはアレじゃね?最初に可愛いって思った瞬間とか」
「でもそれぐらいだったら他の女にも思うことあるだろ?」
「じゃあそっちはきっかけにすぎないとして、他のやつにとられたくねーって思った瞬間とか?」


この前のパラパラ漫画の時も、さっきのハチマキ交換の時も妬いてたろ?他にもそーいうことあったんじゃねェの?と笑みを深めるサボを前に言葉が詰まる。


「…そういえば前になまえがキッドを愛してるだなんだって言ってたときもイラっとしたな、ちょっとだけ」
「多分エースが覚えてねえだけでもっと前にもあったかもだしな」


ま、何にせよ今ので求めてた答えは出たんじゃねーの?そう言ってにーっと破顔するサボにつられて頬が緩む。

思えば今まで、告られてなんとなく付き合ってを数回繰り返したけど、ひとりの子と長続きしたことなんて一度もなくて。そうか、マジなやつはこれが初めてなのかもしんねえな、なんて今更ながらに思ったりして。…ちょっと、いや、だいぶ照れくせえ。


「うわー、俺マジじゃんかよ…。」
「いつ気付くのか楽しみにしてた甲斐があったよ」
「早くに言ってくれよ!」
「ばかだな!自分で気づかなきゃ意味ねーだろ!」


そう言って立ち上がるサボに続けば、タイミングよく開会式終了の知らせとそれぞれの種目別コートへの移動を促す校内放送がかかる。ああ、やべえ。開会式まるまるフケちまった…。


「ま、この礼はハーゲンダッツ1か月でいいぞ!」
「待て!5000円飛ぶのは流石にキツい!」
「なにさり気なく休日抜いて平日計算してんだよ!30日計算で7500円だろ!」
「よく気付いたなそして勘弁してください!」
「恋愛下手な親友のためにひと肌脱いだってのに…。」
「せ、せめてクーリッシュにしてくれよ頼むから!」
「…しゃあねーなァ」


自覚、しました。


-------------------

ほぼほぼ会話文(´・ω・`)
ここがひとつの区切りですね!
サボ兄イイ仕事してくださる!笑
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -