烈風バタフライ



じりじりと上昇する気温にぐにゃりと顔を歪める。まだ朝だというのにこの殺人的暑さはどーいうことだ。そう思ってなんとなく横を向けば、隣を歩くエースもまた似たり寄ったりな顔をしてた。あつい。あついあついあつい!


「暑いっていうと余計暑くなんぞ」
「それねー不思議だよね」
「寒いって言っても涼しくなんねえのにな」
「さむいさむい!あー寒っ!」
「効果のほどは?」
「ない!ふつうに暑い」


むしろ気張って喋ったことで余計に体温が上がった気がする。


「やっぱり1限出るべきだったかな」
「被服室暑いから行きたくねえって言ったのなまえだろ」
「おっしゃる通りです…。」


授業開始直後に校舎内を歩くと、コマの入っていない先生と運悪く鉢合わせる可能性がある。だからちょっと時間を置くためにこうして校舎の周りをブラついてるわけだけどこの時間がとてつもなく暑いんだよね。ああ、早く校舎に入りたい…。


「おっ!なんだお前らまたサボってんのかい」
「おおーっ!用務員のおっちゃん!」
「おはようございまーす」


校舎裏へ続く角を曲がったところで、その先にある花壇の手入れをしていた用務員のおじちゃんがニコニコと笑顔で手を振ってくれる。今や顔馴染みであるおじちゃんに会えたのが嬉しくて「何してるのー?」と小走りで近寄れば、その手元には幾つもの植木鉢。

青、白、黄色、ピンク、紫。風に揺られる色とりどりの花達に思わず目を奪われた。おーっ、きれい!


「ここだと一日中陽に当たるから引っ越しさせてるんだよ」
「へえ、どこに動かしてんだ?」
「あっちだよ。ほら、あの屋根の下の」


そう言って指差された先に目をやると、既に何個かの植木鉢がちょこんと置いてあるのが見える。うわっ、意外と遠い!距離あるよねあそこまで……、そうだ!

「わたしも手伝うよ!」
「俺も!」
「いやいや、大丈夫だよ」
「えっ、なぜ!」
「遠慮すんなよおっちゃん!」


時間はたっぷりあるからゆっくりやるさ、なんて朗らかに笑うおじちゃんにふたりして駄々を捏ねる。すると、少し考える素振りを見せて「じゃあひとつエースに頼んでもいいかい?」と奥にあった大きめのプランターを引っ張ってきた。


「こいつだけはジジイの力じゃちょっと厳しいモンでなァ」
「おう!任しとけ!」
「わたしは?」
「なまえはエースの応援でもしてやんな」
「ええっ、なにそれ…。」
「ホレ、いいから行ってこい!」


ワハハと豪快に笑うおじちゃんに背中を押され、プランターを持ち上げるため腰を屈めていたエースの前に立てば目が合って「ちょっと来てくんね?」と小さく手招かれる。

「どーしたの?」
「これジャマだから持ってて」

そう言うと腰を折り曲げた姿勢のまま片手でネクタイを緩め始める。そして、完璧には解かずに輪っか状のまま首から外されたそれがするりとわたしの首元に掛けられた。

なるほど、こうやって脱着すれば1回1回締め直さなくていいから楽そうだ。キュッてすればいいだけだもんね。キュッて。エースのくせに賢いじゃないか!


「ねえ、ネクタイ似合う?」
「……おう」
「まじ?ほんと?」
「まじで似合う」
「やったー!」


どうしよう、テンションあがる!男子は指定ネクタイがあるけど女子の制服は首元の装飾がないので、こうしてワンポイント加えるだけで一気に華やかになった気分だ。
いっその事、制服改定して女子もリボンかネクタイつけたらいいのに…!


「すげえ嬉しそうじゃん」
「なんかそわそわする!新鮮な感じ!」
「そーいうモン?」
「うん!…へへっ」
「…………ん?」
「え?」
「……………んんっ?!」


首に掛かった青のネクタイを眺めつつ、プランターを運ぶエースの隣を上機嫌で歩いていると、不意に唸るような声が聞こえて次いで足が止まった。
あれ?どうした?やっぱりプランター重い?手伝う?

そう思って振り向くも、僅かに眉を下げてなんとも形容しがたい表情を浮かべたエースが困惑気味にわたしのことを見ている。
……えっ、なに?困ってるの?驚いてるの?
わっ、わたしがなんかした感じ?


「エース?」
「……なんでもねえ」
「ウソじゃんなんか意味深な顔してるじゃん」
「気のせいだって」
「気のせい?」
「気のせいです」
「ダウト、って思いますが」
「見てみぬふりしてください…。」


あまりにも勢いを失ってそう言うものだから、渋々と首を縦に振る。


「……だいじょーぶなの?」
「おう…。」


未だ困惑の色を浮かべ続けるエースを横目に、小さく首を傾げることしか出来なかった。不甲斐ない。


「(ちょっと待てよ俺…。なまえ相手にキュンってキたんだけどナニコレ怖ェ!)」


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自分のネクタイさせたら意外と破壊力があったりして。それに加えて嬉しそうにはしゃがれたりしたモンだから不覚にもキュンとしちゃったりして。
そんな自分に大いに戸惑っちゃえばいいと思いますエースくん!

↑上手く文で表現出来なかったので激しく解説じみてます(笑)
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