跳躍ビリジアン





「キャミソールずれてブラ透けてんぞ」


ノートに三角錐を書いていた途中でシャー芯がボキっと折れた。ていうか授業中になにを言ってるんだ。ビックリしすぎて力んだじゃん芯折れちゃったじゃん…!

「…その話後でもいい?」

そろりと振り向いて小さく呟く。

「キャミソールの意味なくね?」
「うん、後でね。後で話そう!」
「でも実際この状態が1番エロいんだよなあ」


エースのその声が聞こえたらしい。わたしの隣の席になった清楚系女子ユイちゃんが顔を赤くして俯いてしまった。ほら見たことか!二次被害まで出てるよ!


「隠そうとしてるのに見えちまってるっていうラッキー感が、」
「黙って三角錐書け変態エース!」
「うおっ!」


なかなか黙らないエースを止めようと身体ごとグルリと振り向くと、頬杖から滑り落ちて「ビビらせんなよ…。」なんて眉を顰められた。声を大にして言いたい。眉を顰めたいのはわたしの方だ!


「てかちっともノート取ってないじゃん」
「だってつまんねえんだもん」
「つまるつまらないの問題じゃないし」


そんなこと言ったらわたしだってつまらないと思ってるよ、この数学の授業!いや、数学だけじゃないな。勉強は全般的に嫌いだ。


「なあ、構えよー」
「三角錐100個書いたらいいよ」


言い捨てて前を向き直せば「そんなに三角錐書いてどーすんだよ!ノート足りねえよ!」なんて不満の声が聞こえる。いや、どんだけデカい三角錐書こうとしてんだよ。小さく書けば1ページで収まるよ。余裕だよ。

まあたしかに大量生産する意味はないけど。100個書いたところで願い事とか叶わないからね。


「あー、ひま」
「はいはい」
「ひますぎて溶けそう」
「うんうん」


エースが最後尾の席で切実によかった。こんなの先生が聞いたら怒るか悲しむかの二択だと思う。
頭の片隅でそんなことを考えながら応用問題の解説を聞いていると、不意に背中の部分をスルスルと弄られる感覚。……うん、スルーだ。平常心を保て、わたし。


そう決意をしたけれど。


「………その手つきやめてくんない?」
「あれ?平常心は?」
「保てないくらいその手つきがヤダ!」


ひそひそと文句をぶつけてエースの手を払う。
その触れるか触れないかみたいなビミョーな感じ結構くすぐったいんだよ!独り言みたいに呟けば、今度は人差し指でつーっと背中をなぞられて、不覚にも肩が震える。ひいいぃ!ぞわってする!ぞわって!


「ちょ、っとエース!」


右から左、左から右、と何度も往復するように動く指の感覚にひたすら身体を強張らせる。すると、ふと肩甲骨の間らへんで指の動きが止まった。何かを確かめるようにぐっぐっと力を籠める仕草に疑問は残るけど、さっきの動きよりは全然マシだ。許せる。

そんなふうに油断していたのが間違いだったのだ。


「なあ」
「ん?」
「お前ってさ、生意気にフロントホックつけ、ぶっ!」


噛み締めるように言葉を続けようとしたエースの頭を思いっきりグーでブン殴ってしまったのは致し方ないことだと思う。エースのひそひそ声ってそれなりにデカいんだよ?2、3個隣の席くらいまでなら余裕で届いちゃうんだよ?それなのになんてことを口走ってくれてるんだ…!


「ほんっとデリカシーがない!ありえない!」
「いや、ちょっ!」
「しかも生意気にってなに?フロントホック付けちゃだめなの?ねえ?」
「…ゴメンナサイ、ユルシテクダサイ」


「なあ、頼むから休み時間にやってくれよお前ら。そーいうデリケートな話題叱りづらいから口挟みづらいから」


先生の悲痛な声に、渋々憤りを抑えこむ。
だがこれで許したと思うなよエース…!
ギッと鋭利な視線をくれてやる。迫力に欠けてるのはわかってるけど気持ちの問題だ。どうにかしてこの思いを体言化してやりたい!伝われ!くそう!


「なまえー、ほんと悪かったって。俺もパンツの色教えるから許してくれよ」
「どーでもいい!エースのパンツの色とかめっちゃどーでもいい!」
「…やっぱ1度でいいからフロントホック外してみてーな」
「よくこのタイミングでそんなことが言えたよねもっかいグーパン入れようか?」
「ゴメンナサイ」


とりあえず、終始赤面させてしまった清楚系女子ユイちゃんには土下座して謝ればいいと思う。

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ゴミ箱送りにしようか迷った。
究極に迷った(笑)
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